冷めているだけではダメらしい
体育祭の日の、部活もない放課後。
いつも通り深雪と昇降口で別れた後、成瀬と千太郎は同じ送迎の車に乗り込んだ。
「あ、忘れ物したかも」
乗り込んですぐ、成瀬が鞄の中をごそごそと探りながらそんなことを言った。
少しの間、粘って鞄の中を探していたが、やはりなかったようで、彼女がぱっと顔を上げてこちらを見てくる。
「千太郎、とってきてよ」
可愛い顔して、言うことは絶対女王然としすぎだ。
「ふつーに嫌だよ」
いつもの低いテンションで返せば、成瀬は口を尖らせた。そんな顔をされても。
これが、いつも通りの幼馴染としての対応だ。千太郎は静かに自分に言い聞かせる。
「けちっ」
「いってらっしゃい」
だるそうに駆けていく彼女の背を、白けた目で見送る。
次第に小さくなっていくその姿を、千太郎は遂には見ていることができずに、そっと視線を外した。
「一緒に行こう」と言ったなら、いくらでも行ったのに。それを自分から言えるほど、気の利いた性格はしていない。
冷めているだけでは、どうもうまくはいかないらしいと、千太郎は自嘲気味に笑った。
忘れ物を回収し、気だるげに校内を歩いていると、馴染みの姿が廊下の向こうに見えた。
あちらも成瀬に気が付いた様で、軽く手をあげてきた。
「お、成瀬じゃん。 一人なんて珍しい」
「頼来」
体育祭の片付けに追われているらしい頼来とばったり出くわしてしまい、成瀬は少しだけ面食らって、体に力を入れた。
この男に一喜一憂する姿は、誰にも見せられない。
無駄に戦闘モードに入る成瀬を他所に、頼来が「あれ?」と周りを見渡した。
「千太郎は?」
「・・・・・先に車に行ってるけど」
いつものことだが、千太郎とセットと思われているのは不服である。嫌なわけではなく、単純に面白くない。
機嫌の悪さを隠さない成瀬に、頼来は気づかないふりをして、にこにこと笑みを向けてきた。
「体育祭、楽しめたか?」
「別に・・・・・」
視線を逸らしながらつっけんどんに返せば、頼来は呆れて肩を落とした。
「ほーんと、冷めてんのな」
「・・・・・」
別に、特別冷めているつもりもない。
ただ、うっかりすると想いが顔に出てしまいそうで、必死に取り繕っているのだ。
そのことを気づかせたくない。そんなことをつらつらと考えながら、成瀬は別の話題を探した。
「そういえば頼来、深雪と大神先輩のツーショット撮ったでしょ」
「あ、バレてた?」
いけしゃあしゃあとする頼来は、半分は本当に腹立たしい。
「隠す気なかったくせに、よく言うわ」
「すんませんねえ」
少しも悪いと思っていなさそうな頼来。
彼は昔から、周りのことが良く見える質をしていて、おちゃらけている様でその実、フォローも上手だった。
日路と写真が撮れた深雪は、とても幸せそうな顔をしていた。あんな顔をされては、いくら成瀬でも鬼にはなりきれない。
「・・・・・がと」
「へ?」
自分でも聞こえないほどの声に、頼来が間抜け声で聞き返してくる。
自分は今、何と言ったのだろう。
「何か言った?」
顔を覗き込むようにしてくる頼来に、成瀬はそっぽを向きながら、やけくそになってぶっきらぼうに口を開いた。
「ありがとうって、言ったかも? 深雪一人じゃ、ハードル高かったろうし、それに・・・・・」
何故か言い訳を並べるような形となり、成瀬は珍しく言い淀む。
いまいち素直になれない彼女に、頼来は思わず噴き出した。
「成瀬、やっぱり体育祭楽しかったろ」
「さあね」
一切目を合わせようとして来ない成瀬の頭に、頼来の右手がぽんっと乗っかる。そしてそのまま、ぐしゃぐしゃと優しく撫でられた。
「可愛くねえな、可愛いけど」
「・・・・・」
目を合わせられないのは、素直になれないだけが理由ではない。
勿論、その理由を頼来に知られる訳にはいかない。冷たく接するのは、行動が全部裏返しとなってしまうから。
冷めているだけではダメだと、分かってはいるけれど、熱くなるにはちょっと勇気が足りない。
だから多分、今顔が熱いのは、日中に日を浴びた所為に違いないと、成瀬は自分に言い聞かせた。




