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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
45/109

暑くて、冷めてて、熱い体育祭

 普段の制服姿ではなく、体操着を着た生徒たちが、慌ただしく荷物を持って外へと移動する。


 深雪も例外ではなく、成瀬と千太郎と共に廊下を歩いていた。


「まったく、面倒よね」


 成瀬が白けた顔で文句を垂れる。


 肩には鞄、両手には教室で使っている椅子。外の応援席にセットする為、各自大荷物で移動をしていた。


「でも、天気が良くて良かったね」

「暑いけどな」


 気持ちのいい青い空を窓越しに見上げる深雪に、千太郎が既に疲れた様に肩を落とした。


 朝からやる気のない二人に苦く笑いながら、深雪は密かに緊張していた。


 一つは、例の約束がある為である。


 日路が作って来てくれるお弁当を、日路と共に食べることができるという夢の様なイベントに、今から胸の高鳴りが抑えられない。


 もう一つは、成瀬からの鬼指令。


 「日路とのツーショット撮影」という難易度が高すぎる指令の所為で、昨日はよく眠れなかった。





「日陰に場所取りしましょ」


 クラスごとに区切られたスペースの中で、それぞれが自由に椅子を置いていく。


 こういうときの動きだけは素早い成瀬が、日陰の場所を確保して深雪たちを手招いた。成瀬を真ん中にして、深雪と千太郎も椅子と荷物を置く。


「全員いるかー?」


 学級委員長が呼びかけつつ、人数を数えていく姿を眺めながら、成瀬がぽつりと呟く。


「ホント、良い天気。 日焼けしそうで嫌ね」

「日陰から出られないね」


 秋を少しずつ感じられるようになってきていたと思っていたのだが、今日の天気と気温は夏に逆戻りしたかの様だった。


 暑さに気を取られる三人に、背後から声がかかる。


「元気かー? 後輩どもっ」

「吉井先輩!」


 爽やか且つ勢いよく現れた頼来に、良い反応を示したのは深雪だけである。


 残りの幼馴染コンビは、驚く様子も見せずにゆっくりと振り返って無言で頼来を見つめていた。


 その態度に、頼来が面白くなさそうに口を尖らせる。


「冷めてんなあ! もっと燃えろよっ」


 頼来の鼓舞にも、成瀬と千太郎のテンションは地を這っていた。


「既に燃えそうな程暑いんだけど」

「頼来サンが来たことで、二度ぐらい温度上がった気がします」


 暑さの所為で、いつもより辛辣さを増した凸凹コンビにも負けず、頼来がふふん鼻を鳴らす。


「せっかくいい話もってきたっていうのに」


 腰に腕を当て、にやりとする頼来に成瀬が眉根を寄せた。


「何よ?」

「えー、どうしよっかなぁ」


 可愛い子ぶりながらじらす頼来だったが、それに付き合う程、成瀬は可愛い性格をしていない。


「ああ、そう。 じゃあ、いいわ」

「何でだよ! もっと聞いてくれよっ」


 ばっさりと切られてしまい、頼来が成瀬の肩を揺する。その手を邪魔そうに払いながら、成瀬は声のトーンを下げた。


「うっざいのよホントに、そういう勿体ぶるやつ。どうせ言うんだから、一回で言いなさいよ。 はっきり言って、時間の無駄」

「ぐっさりくるわぁ・・・・・」


 頼来は自分の胸に手を当て、傷ついたふりをしてから千太郎へと視線を送る。


「千太郎も大変だな、お嬢様の相手は」


 仲間を増やそうとしたようだったが、千太郎は成瀬を敵に回す程愚かではない。


「俺、頼来サンみたいに余計なこと言わないんで」

「二人して冷たっ」


 暑い暑いと言いながら、対応がいやに冷めきっている二人に、頼来がぶるっと身を震わせた。


 流石に可哀想だと、深雪は躊躇いがちに口を挟む。


「そ、それで、良い話って何なんですか?」


 深雪が話を促せば、くるっと首をこちらへ巡らせてから、頼来が感動の息を漏らした。


「深雪ちゃん天使かよぉ」

「深雪の優しさにつけ込むんじゃないわよ。 とっとと言いなさい」


 いい加減キレそうな成瀬に、頼来も漸く「ごめんって・・・・・」と謝ってから本題に入る。


「今日のお昼、一緒に食べるだろ? 生徒会室使おうぜっ」


 右手の親指を立てながら、頼来が張り切って提案をしてきたので、深雪は戸惑いながら疑問をぶつけた。


「勝手に使っちゃって良いんですか?」


 危惧する深雪に、頼来が心配するなと首を振る。


「いいのいいの。 一応、会長に言っといたから」

「ふんわりしてるっすよね、生徒会って」

「頼来が入れるくらいだもんね」


 職権乱用する頼来に向かって、凸凹コンビが相変わらずのテンションで反応を示す。


 言われ続ける状況を不服に思ったのか、頼来の口調が拗ねたそれになる。


「二人は、俺が傷つかないと思ってんの?」

「え、頼来って傷つくの?」


 本当に驚いたような顔をする成瀬に、すっかり戦意を失くした頼来は、大きくため息を漏らしてから「まあいいけど」と溜飲を下げた。


「とにかく! 昼飯は生徒会室集合だからなっ」


 言い捨てるようにして去っていく頼来の背を見送りながら、成瀬が大きく伸びをした。


「ま、屋内でお昼食べられるのは良いかしらね。 頼来にしては、良くやったんじゃない?」


 上空一万メートルぐらいからの上から目線発言だったが、せめて本人に言ってあげれば良かったのにと、深雪は乾いた笑いを漏らした。


「暑いの大っ嫌いだけど、今日は楽しみが沢山だから燃えちゃいそうね、深雪」

「そ、そうだね」


 炎天下においても美しさを損なわない、成瀬の不敵な微笑みと艶っぽい声色に、深雪は思わずぶるっと身を震わせた。


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