突き付けられた難題
日路がお弁当を作って来てくれる約束をしてくれた体育祭を、翌日に控えた日の放課後。
例によって、成瀬が無理難題を口にしてきた。
「明日の体育祭、目標は大神先輩とのツーショット写真撮影ね」
「ええ!?」
唐突過ぎる高度な目標に、深雪は素っ頓狂な声を上げた。
その反応に、成瀬がやれやれと首を横に振った。
「それなりに仲良くなってきたんだし。 それくらいできるでしょうよ」
「無理だよ・・・・・」
確かに知り合った当初に比べれば、距離感は若干縮まったと思っているが、ツーショット写真は流石にハードルが高すぎる。
助けを求めて、成瀬の隣にいた千太郎に視線を送ったが、彼は我関せずでスマホをいじっていた。
渋る深雪に、成瀬は更にごり押ししてくる。
「深雪だって、ちゃんとした写真欲しいでしょ? この前のツーショットは、カメラ目線じゃなかったし」
「え、この前のツーショット?」
成瀬が口にした「この前のツーショット」がピンとこず、深雪は純粋に首を傾げた。
記憶をたどっても、日路と写真を撮った覚えなど一ミリもない。
頭にはてなマークを浮かべる深雪に、成瀬の表情に一瞬で暗雲が立ち込める。
「前に送った夏祭りの写真、まさか見てないの!?」
「ええっ・・・・・ええと・・・・・」
怖い顔をした成瀬に責められ、深雪はもう一度記憶をさらった。
夏祭りの写真と言えば、花火の写真を成瀬にまとめて送ってもらったことは覚えている。
かなりの枚数が送られてきていたので、一括保存してチェックをしたのだが、全てじっくり確認してはいなかったかもしれないことに気がつく。
それをそのまま小声で説明すれば、成瀬の顔が遂に般若と化した。
「ばっかじゃないの!? 今すぐ見なさいっ」
「は、はいっ」
迫力に押され、深雪は慌ててスマホを手に取り、アルバムを開いて夏祭りの写真を全て確認した。
すると、成瀬が送ってきた最後の写真だけ、花火ではないことに漸く気が付く。
恐る恐る写真をタップし、画面いっぱいに映し出されたものに仰天した。
「何これ!?」
成瀬から送られてきていた写真は、夏祭りに花火を鑑賞している深雪と日路のツーショットだった。勿論、二人とも撮影されていることには気が付いておらず、目線はこちらに向いていない。
知らぬ間に撮られていた事実に声を上げて驚く深雪に、成瀬がくるりと表情を変えて誇らしげな笑みを浮かべた。
「ベストショットでしょ。 賞をもらいたいくらいだわ」
「ただの隠し撮りじゃん」
それまで沈黙していた千太郎が、身を乗り出して写真を確認し、ぼそりとツッコミを入れる。
勿論、成瀬の耳には入らないようで、「とにかく」と話を続けた。
「明日は、泣く子も黙るほどの完璧なツーショット写真を撮るんだからね」
「泣く子も黙るって・・・・」
成瀬の言っている意味が分からず、深雪は項垂れながらも手中のスマホの画面へともう一度視線を向けた。
そこには、空を見上げて笑顔を浮かべる日路と自分の姿が並んでいる。
明日の目標を考えると少しだけ憂鬱だが、この写真には思わず顔がにやけた。




