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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
35/109

君想う~考察編~

「なんか、元気ないわね」

「えっ」


 昼休み、昼食を終えた深雪は、自分の席で成瀬と千太郎の日常会話を上の空で聞いていた。


 いつもお喋りなわけではないが、それなりに会話に入ってくる深雪がずっと黙ったままなのを気にして、成瀬が覗き込むようにして声をかけてきた。


 美しく鋭い瞳に見つめられ、うっかり吐露してしまいそうになる自分に深雪は頭を振って叱咤した。


「・・・・・なんでもないよ?」

「深雪って、嘘つくのが宇宙一下手よね、きっと」

「あんまりいじめるなよ・・・・」


 ずばっと言い当てられ、深雪が肩を強張らせたのを見て、千太郎が薄眼で成瀬を諫める。


 気を遣われているこの状況に、深雪は申し訳なさを感じていた。


 昨日、下校時にさおりと遭遇して少し会話をしたことで、深雪の頭と胸の中は今までに例がない程に混乱を極めている。


 今すぐにでも成瀬に話してしまいたいが、軽々しく他人の話を口にしていいかどうかもわからない。しかし、このままではずっと靄が晴れることはないだろう。


 深雪は、判断に揺れながら、成瀬にぎりぎりの質問をすることにした。


「成瀬ちゃん、吉井先輩の好きな人は誰かって聞かれたら、わかる?」

「はァ?」


 唐突な深雪の問いに、成瀬は素っ頓狂な声を上げた。


 その様子の成瀬を見て、深雪は人選を間違えたと後悔した。日頃、頼来をないがしろに扱っている成瀬にとって、頼来の好きな人などどうでも良いと見える。


 やっぱりなんでもない、と言うために口を開けた深雪だったが、その前に成瀬が「そうねえ」と意外にも考察を述べてきた。


「昔っから、誰か好きな人はいるみたいな感じではあったけど。 学年も違うし、誰かまではねえ・・・・・ていうか、あのさおりって人なんじゃないの?」


 深雪は驚いた。成瀬にもわかるほど、頼来には好きな人がいるということか。


 それならば、もっと親しい日路ならば何か知っているのかもしれない。勿論、聞けるわけもないが。


 一人で考え込む深雪に、成瀬は痺れを切らせて「あー! イライラするっ」と机を叩いた。


「ご、ごめん」

「深雪にじゃないわよ。 深雪を考え込ませてることに対して、苛ついてんのよ」


 咄嗟に謝る深雪に、成瀬はそう言うと勢いよく立ち上がった。何事かと、千太郎が首を傾げる。


「どこいくの、羽澄。 トイレ?」

「ばっかじゃないの?」


 ぎろりと千太郎を睨んだ成瀬は、そのまま仁王立ちして腕を組む。


「深雪が詳しく話せないって言うんなら、今聞かれた質問の解を全力で出してやろうじゃない」

「な、成瀬ちゃん、何する気?」


 嫌な予感がして、深雪は慄きつつ成瀬の考えを聞く。まさか、日路に聞きに行くなどと言うのではないかと怯える深雪だったが、成瀬の考えは宇宙レベルにぶっ飛んでいた。


「頼来に直接聞きに行くのよ。 その方が、手っ取り早いでしょ」

「ええ!? 無理だよ!!!!」


 深雪は全力で叫んだ。幼馴染のさおりですら、教えてもらえない秘密事項を、深雪たちに話してくれるとは思えない。


 絶対無理だと言い張る深雪に、成瀬は身を乗り出してくわっと目を剥いた。


「私を誰だと思ってるの? 頼来に自白させるなんて、欠伸が出る程簡単よ」

「そんなにうまくいくかねえ・・・・」


 意気込む成瀬を見上げつつ、千太郎は小さく呟いた。





 成瀬を筆頭に、頼来のクラスへと向かった。


 いつものことだが、この美形凸凹コンビは人目を引きやすく、深雪はその後ろで肩を縮こませる。


 遠慮も何もない成瀬はというと、廊下に面した窓から顔を出し、教室内をぐるりと見渡して眉間に皺を寄せた。


「うーん、頼来いないわねえ。 どこ行きやがったのかしら」

「もう戻ろうよう・・・・」


 目的の人物が見当たらないことを良いことに、深雪はすぐさま成瀬にそう進言した。


 しかし、押しの弱い深雪の意見など、成瀬の前では塵に同じである。


 暫く頼来を探していると、背後から声をかけられた。


「あれ? 皆して、どうしたんだ?」

「大神先輩っ」


 思わぬ登場に、深雪は飛び上がって驚く。今日は会えたことの嬉しさより、彼の初恋事情が頭をよぎって気まずさの方が上回ったことに、少しだけ悲しくなった。


 動揺する深雪とは対照的に、成瀬はくるりと日路を振り返って口を開ける。


「先輩、頼来知りません?」

「頼来なら、生徒会の打ち合わせだぞ。 もうすぐ体育祭だからな」


 うっかり忘れがちだが、頼来は生徒会役員だ。しっかり仕事をしているらしいことに、場違いにも感心していると、成瀬が唐突に手榴弾的質問を投げつけた。


「ちなみにお聞きしたいんですけど、大神先輩は頼来の好きな人って知ってます?」

「え、頼来の?」


 結局大神先輩にも聞くの!?と衝撃を受ける深雪だったが、日路は少々虚を突かれた様子を見せただけで、すぐに「うーん」と考え込んでから答えてくれた。


「さおりと付き合った後は、高校入ってすぐに同じクラスの女子と付き合ってたけど、今はいないんじゃないかなあ」


 ありきたりな日路の推論に、今度は成瀬の大砲が向けられた。


「大神先輩って、さおりさんのこと好きだったんですよね?」

「成瀬ちゃん!」


 あまりにデリカシーに欠けると見える成瀬の問いに、深雪は腕を引いて声を上げた。


 とてもデリケートな話なのだから、第三者の自分たちが踏み込んでいいはずがない。深雪はそう思いつつ、本当のところは日路の口から事実を聞きたくないだけの様な気もして、自分の器の小ささに嫌悪感を覚えた。


 複雑な心境の深雪を他所に、日路は少しだけ困ったように笑った。


「あー、まあ、大事な幼馴染だしな。 一個上で、憧れではあったかも」


 曖昧に答えた日路に、流石の成瀬もバツが悪そうな顔をしてそれ以上の追及はしなかった。


 微妙な空気になったところで、教室から日路に声がかかる


「大神! ちょっと来てー」

「おう! じゃな、皆」


 軽く手を振る日路の背中に「ありがとうございました」と小さく礼を述べた深雪は、そのまま成瀬の方へと向いた。


「成瀬ちゃん、突っ込んで聞きすぎだよ」

「だって、何か頼来に苛ついてきたんだもん」


 深雪に窘められ、成瀬は怒りを露わにした。それから、文句を続ける。


「頼来は、大神先輩の初恋の相手がさおりさんだって知ってたんでしょ? 親友の好きな人、横からかっさらったってことじゃん」

「そうじゃないだろ」


 成瀬の言い分に、意外にも千太郎がたてついた。予想していなかった否定の言葉に、成瀬がぎろりと睨みを聞かせて低い声を上げる。


「何が言いたいのよ?」

「・・・・・どっちが先とかではないって話だよ」


 喧嘩腰の成瀬に対して、千太郎はどこか悟った様に見える。その様子にすら腹が立ったのか、成瀬が「あーっ」と小さく唸ってつかつかと歩き出した。


「もう! とにかく、生徒会室いくわよ。 ここまで来たら、はっきりさせてやるわ」

「待ってよ、成瀬ちゃんっ」


 怒る成瀬の背を追いつつ、深雪は頭を整理させていた。


 さおりのことが好きだった日路。頼来のことが好きだったさおり。他に好きな人がいるらしい頼来。

 一方通行の想いのピースが、深雪の中で少しづつ揃っていっているような気がした。

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