君想う~随想編~
大事な幼馴染が、二人いる。
一人は、通っている剣道場の師範の娘。もう一人は、その剣道場に一緒に通う少年。特別仲が良くなった理由はよく覚えていないが、とても大切な存在である。
元来の察しの良さも相まって、二人のことは、自分が一番よく分かっていると自負していた。
初めて、さおりのヴァイオリンの発表会を日路と共に見に行った日。
「どうだった?」
発表会終了後、駆け寄ってきたさおりは開口一番に感想を求めてきた。自身満々を装っていたが、その裏に気恥ずかしさを感じていることはよくわかった。
「すごかったよ」
ありふれた感想を述べた日路だったが、心の内では相当に感動しており、いつもと違う様子だった彼女に少しだけ困惑していた。
そして、その瞳の色は憧れを示していた。
そんな二人を客観的に見つめながら、何故だか胸の奥がざわついたのを覚えている。
さおりが中学生に上がった頃、日路は少しだけ寂しそうにすることがあった。
その頃にはもう、日路がさおりを想っていることは明白だった。ただ、それは憧れと恋心との間で揺れる曖昧なものであるということも見て取れた。
日路のその様子に、再び胸の奥がざわついた。早く、何とかしなければと思った。
自分たちも中学生になり、さおりとの年の差があまり気にならなくなった頃、手遅れになる前にと、遂に行動に移した。
「さおり、俺と付き合わない?」
「えっ」
唐突な告白に、さおりは驚いて固まった。それから、涙ぐみながら嬉しそうに微笑んだ。
その様子にほっと肩を撫で下ろしながら、心の片隅に罪悪感が生まれる。
仕方がなかったのだと、自分に言い聞かせた。早くしなければ、とられてしまうと思ったから。
さおりとの交際を告げた時の日路の反応は、思った通りであった。
「さおりと付き合うことになった」
「え」
短く驚いた日路は、困惑しながらも平静を装った。
「・・・・・そうか、仲良くな」
そういって、日路は笑って見せた。無理していることはわかっていたが、気づかぬふりをして「そうするよ」と返した。
最低だと、自分で理解している。あの日の決断は、きっと誰にも共感してもらえない。
それでも、どうしても好きだった。幼馴染には悪いが、この関係を崩されたくはなかった。
そして時がたち、結局さおりと別れることとなったわけだが、あの行動の意味はあったのだと、頼来は今でも思っている。しかし、時間と共に増幅した罪悪感は、今にも溢れ出て懺悔してしまいそうになる。
そんなことは許されない。楽になろうとすることなんて。
一生この罪悪感を抱えて過ごすことが、二人に対する贖罪だと考えている。




