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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
3/108

会いに行ってみた

 落ち着かない気持ちで授業を終え、遂に運命の時がやってくる。


「行くわよ、二人とも」


 獲物を逃さない、成瀬の迫力ある視線に捕らわれた深雪と千太郎は、足取り悪く二年の教室へと向かった。上級生の教室へ行くというだけで緊張するというのに、憧れの人の元へ行くとなると、心臓への負担が大きすぎる。


 途中、何度か足が止まった。


「やっぱりやめよう。 絶対無理」

「やっぱりおかしい。 オレいらなくない?」


「私はそんな、知り合いたいなんて・・・・・」

「オレはそんな、デバガメみたいなことなんて・・・・・」


 あまりに駄々をこねる二人に、成瀬の一喝が炸裂する。


「ばっかじゃないの? 私が行くって言ったら、骨が折れようが血を吐こうがついてきなさい」

「・・・・・」


 あ、これは行かないと終わらない。共通の認識を持った深雪と千太郎は、顔を見合わせてゆっくり頷き合う。


 大人しく成瀬の後ろを着いて行くと、目的の二年の教室がある階に辿り着く。


 そこで、憧れの君のクラスを知らないことをふと思いついた深雪は、諦めて帰ろうと進言すべく口を開けたが、その瞬間、成瀬が「あっ」と声を上げた。


「大神日路みっけ」

「ええ!?」


 そんなにすぐ見つかるものかと、深雪は驚いて成瀬の視線を追う。すると、廊下の向こうに、確かに彼の姿があった。例によって、周りには人が集まっている。


「大神! 先に行っててくれ! 現国のノート提出してくるっ」

「あー、大神君っ。 明日みんなでカラオケ行くんだけど、行かない?」


 男女問わず、すれ違う人全員に声を掛けられているのではないか、と思うほどの人気ぶりである。怖気づく深雪の横で、成瀬の眉間に薄く皺が寄った。


「明日も部活だからなあ」

「俺が代わりに行こうか?」


 日路の隣にいた男子生徒が、おどけて名乗りを上げると、提案した女子生徒は「えー」と言いつつ、まんざらでもなさそうに指先で髪を弄んだ。


「まあ、吉井君でもいいけどっ。 すぐドタキャンするからなぁ」

「すんません」


 一連のやり取りを、完全に傍観者として眺めていた深雪だったが、隣にいたはずの成瀬がいつのまにか、ずかずかとその集団に近づいていく姿が目に入り、慌ててその背を追いかけた。呼び止めようとしたところで、成瀬が先に声を上げる。


「ライク!」


 成瀬の呼びかけに、おどけていた男子生徒が反応してこちらを振り向いた。


「あれ、成瀬じゃん。 どしたの?」


 恐らく、この男子生徒が成瀬の「知り合い」なのであろう。ひらひらと成瀬に手を振りながら、日路を引き連れてこちらへ歩み寄ってくる。深雪は、突然縮まった物理的距離に動揺し、追いかけた成瀬の背に張り付いて隠れた。


「学校で会うの、初めてじゃん? あ、千太郎もいる」


 成瀬の前まで来て歩みを止めた男子生徒が、後からマイペースに現れた千太郎にも目を留めて声をかける。どうやら、千太郎も共通の知り合いらしい。


「二人してどうしたんだよ ・・・・・って、成瀬のその後ろの子は?」


 成瀬の知り合いの男子生徒が、影を消そうと必死な深雪に気が付いて首を傾げた。同じ様に、隣にいた日路の目線も深雪に向く。その瞳に自分が映るのは二回目だと、深雪は人知れず鼓動を早まらせた。


 そんな深雪の事情など全く知らない成瀬の知り合いは、わざとらしく口元に手を当てる。


「まさか、成瀬の友達!? お前、やっと友達出来たのか・・・・・」

「殴られたいの?」


 感激するフリをする男子生徒に、成瀬が真顔でつっこみながら、その顔面に指先を向ける。


「これ、知り合いの吉井頼来ヨシイライク。 ノリは良いけど、冷めやすい男だから気を付けて」

「成瀬さん、先輩は敬ってくれよ・・・・・」


 自分に向けられた成瀬の指先を、やんわりと右手で抑えて下げさせた頼来は、気を取り直して深雪と向き直った。


「頼来先輩でいいからね。 成瀬、こっちも紹介してくれよ」

「良いけど、その前にそっちから紹介してよ」


 成瀬が目線で示す先には、圧倒されている様子の日路がいる。堂々とした成瀬の要求は、いっそ清々しく、違和感などない。


 向けられた視線に、日路はぎこちなく微笑んだ。


「頼来の幼馴染の大神日路です・・・・・って、敬語はおかしいか?」


 そう言って爽やかに笑う日路に、思わず「知っています!」と叫びそうになる。勿論、声になどならないが、心の声が聞こえる超能力者がいたのであれば、耳を塞いでいたことだろう。


 深雪は何か喋らなければと思ったが、口がぱくぱくと動くだけで、一言も喉の奥から出てこない。呆れた成瀬が、助け船を出してくれる。


「成瀬です。 こっちは、友達の立花深雪です」

「やっぱり友達か! 良かったな、成瀬! マジで!」

「・・・・頼来さん、うるさいっす」


 千太郎が本気で嫌そうな顔をするので、頼来は渋々からかい口調を収めた。一体この三人はどういった関係なのか、気になった深雪だったが、話に割って入る勇気がない。すると、同じ様に気になったらしい日路が、頼来に問いかける。


「三人は知り合いなのか?」

「そう! こっちの凸凹コンビは、小学校が一緒でさ」


 頼来が、成瀬と千太郎の紹介をする。凸凹とは、二人の身長のことを指し示していることはすぐにわかった。成瀬は深雪より若干背が低いだけで、特別背が低いということではないのだが、百八十センチを優に超える千太郎と並ぶと、確かに凸凹である。


 日路は千太郎を見上げながら、感嘆の声を上げた。


「確かに、背ぇ高いなあ。 何したらそんなに背が伸びるんだ?」

「千太郎は寝て育ってるだけなんで」


 千太郎へ羨望の眼差しを向ける日路に、成瀬が速攻でつっこみを入れる。授業中もよく居眠りを貪っているので、あながち間違いとも言い切れない。深雪は苦笑を漏らしつつ、ふと今のこの状況を客観視してみた。


 美男美女の成瀬と千太郎、爽やかで人気者の日路、フレンドリーで明るい頼来という組み合わせは、かなり目立っている気がする。実際、周囲を行き交う生徒たちの視線が、ちらちらとこちらへ向いているのが分かる。勿論、深雪の存在感などこの場では無いに等しいが。


 暫くしたところで、日路が弾かれた様に「やばいっ」と言って教室の時計を覗いた。


「悪い。 俺、部活行ってくるわ」

「おう、行ってらっしゃーい」


 慌てた様子の日路に、頼来が呑気に手を振る。足早にその場を去っていく日路の背を目で追いながら、深雪は肩に入っていた力を抜いて、小さく息を吐いた。


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