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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
23/109

恋する夏祭り~中編~

 頼来が買い込みすぎたため、食べ物の屋台はスルーして回っていると、深雪の目に、射的の屋台の台に並ぶ商品が飛び込んできた。


 歩きながらその商品に視線を送っていると、唐突に後ろから日路に声をかけられた。


「立花、射的やりたいのか?」

「え、いや・・・・置いてあるあの商品のぬいぐるみのキャラクター、昔よく集めてたなって」


 どぎまぎしながら、深雪は猫のぬいぐるみを指さした。少し不細工な見た目の猫のキャラクターで、小学生の頃好きでグッズをよく買ってもらっていた。


 流石に今はもう集めていないが、やはり過去にはまったことのあるものは、何となく気になってしまう様だ。


 昔を懐かしんでいると、日路が「どれ?」と言って射的の屋台へと足を向けた。慌てて深雪もその背を追う。


「お、なんだ。 日路、射的やんの?俺もやる!」


 そんな二人の様子を見て、頼来も勢いよく手を挙げて着いて行く。その隣では、成瀬が鼻を鳴らして腕を組む。


「頼来にできるの?」


 挑発されて逆に燃えたのか、頼来は日路よりも先に射的を始める。一回三発で、頼来は慎重に狙いを定めたが、一発目はあらぬ方向へ飛び、残り二発は当たり所が悪く商品を倒すことはできなかった。


 その結果に、成瀬は先ほどよりも大きく鼻を鳴らした。


「ふんっ、へったくそね」

「言ったな? 成瀬もやってみろよ」


 ぼろくそに言われて、頼来が恨みがましさ満載の表情で、成瀬に噛みつく。


 喧嘩をふっかけられた成瀬はというと、涼しい顔をして首を横に振った。


「私はパス。 代打、千太郎」


 勝手に代打にされた千太郎は「オレもやるのかよ」と文句を垂らしながら、おもちゃの銃を構えた。


 結果は三発とも商品を倒し、屋台のおじさんから商品を貰う。


「すごい!」

「スナイパーかよ!」


 深雪と頼来が感嘆の声を上げていると、日路が手にしていたおもちゃの銃を深雪に渡してきた。


「立花もやるか?」

「じゃ、じゃあ一発だけ」


 千太郎の雄姿に押され、少しだけやる気になった深雪は、全集中力を使ってお菓子の箱を狙って一発発射した。しかし、箱の角を掠めはしたが、倒すまでには至らない。


「惜しいな。 もっとこっちに・・・・」

「!」


 唐突に後ろから、日路に銃の構えを修正される。深雪は、一気に心拍数を上げた。


 そのまま破裂してしまうのではないかと思いながらも、なんとかもう一発撃ってみると、見事に狙ったお菓子の箱に直撃して倒すことができた。


「当たった!」

「やったな」


 驚く深雪に、日路が笑顔で片手の平を向けてくる。ハイタッチだ、と変に緊張しながら、深雪はそっとその掌を添えた。音のしないハイタッチだったが、深雪の心臓は爆音を鳴らし続けているため、自分ではあまり気にならない。


 心臓への負担にへろへろになっている深雪から、おもちゃの銃を受け取った日路が、「よーし」と意気込んで銃を構える。


「後一発あるな。 あのぬいぐるみだっけ?」


 日路が狙いを定めたのは、先刻深雪が懐かしがった猫のぬいぐるみである。


 とても一発だけで倒れそうな代物ではないが、固唾を飲んで見守っていると、日路はたった一発で、ものの見事に目当てのぬいぐるみをひっくり返してみせた。


 深雪がぽかんと口を開けて感心していると、隣で頼来が「何で!?」と大声を張る。


「日路も何でそんな当たる訳? 俺、もう一回やるっ」

「やめなさいよ、みっともないわよ」

「頼来サン、人には向き不向きがあるって」


 凸凹コンビに諭され、しぶしぶ諦める頼来の姿に、まるで親子の会話だと微笑ましく思っていると、目の前が白のもふもふでいっぱいになった。


「はい」


 日路から猫のぬいぐるみを手渡され、反射的に受け取った深雪は咄嗟に感謝の言葉も出てこなかった。


 貰っていいのか、私なんかが、憧れの人に。


 分不相応な幸せに、深雪が動揺して沈黙していると、日路はそれをどう思ったのか、慌てた様子で頭を搔いた。


「あ、ぬいぐるみなんて、今はもう欲しくないか・・・・」

「いいえ! 欲しいですっ」


 深雪はそう断言して、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。


 まるで小さな子供の様だと、深雪は自分でそう思って、赤面する顔を俯かせる。


「だ、大事にします」

「ああ」


 絞りだした言葉に、日路がいつもの爽やかさで返してくれた。


 きっとものすごく優しい笑顔を浮かべているのだろうと想像して、その笑顔は見たいが自分の赤くなった顔は見せられないと、結局うつむいたまま拝むことはできなかった。

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