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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
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一年生会議

「で、それから一か月以上たった訳だけど。 なんか進展してる訳?」


 呆れ声で問いかけてきた友人に、深雪は思わず肩を竦めた。


 大神日路と言葉を交わしたのは、あの日一度きりである。遠くから見かけることはあったが、こちらから声をかけることなど、とてもできそうにはなかった。学年が違うというのも大きかったが、彼の周りにはいつも沢山の人がいた。彼が人気者であるということを知るのに、そう時間はかからなかった。


 結局、名前を知ることと、日常の中で彼の姿を探すことぐらいしかできずに、今日まで過ごしてきた。


「無理だよお。 こんな一般人、覚えてる訳もなければ、目にもとまらないよ」

「卑屈ねえ。 覚えてるかもしれないじゃない。 目にもとまるかも?」

「そりゃあ、ナルセちゃんみたいに可愛い子なら、覚えてるし、目にもとまるけど・・・・・」


 深雪は恨めし気に、目の前の席に座る友人━━━成瀬羽澄ナルセハスミを見つめた。


 長いまつ毛に縁どられた大きな瞳、メイクもしていないのに綺麗に通った鼻筋。バランスのとれたそれぞれのパーツは、小さな顔の中に黄金比率で収まっている。「絶世の美女」を具現化したような成瀬は、見つめているとうっかり恋に落ちてしまいそうな程に美しい。


「わたしも成瀬ちゃんのこと、好きになりそう」

「そこは、私みたいになりたいって、言うところじゃないの」


 更に呆れた様子の成瀬は、細い足を組み直して深くため息を吐く。それから、隣に座る男子生徒に声をかけた。


「センタロウも何とか言ってやってよ」

「え・・・・・めんどうくさいから黙ってていい?」


 机に伏せて、うとうととしていたらしい男子生徒━━━双葉千太郎フタバセンタロウは、心底気だるそうにゆっくりと顔を上げた。彼は成瀬の幼馴染で、成瀬の隣に相応しい程の美男子である。酷く面倒くさがり屋なところが玉に瑕だが、なんだかんだと成瀬には甘い一面があり、それが深雪には微笑ましい。


 千太郎は、暫くは本当に黙っていたが、そのうちゆっくりと口を開けた。


「羽澄は、その人見たことあるの」

「ない。 教えてくれないんだもん。 ねえ、深雪」

「いや、なんかタイミングもないし・・・・・」


 責められている様で、深雪は居たたまれなさを感じて視線を窓の外へ逃がした。逃がした先で、話の渦中の人物を見つける。


「あ、いた」

「えー、どこよっ」


 思わず声に出してしまい、成瀬が食いつくように窓に張り付いた。外には、体育の準備をしているとみられる、体操着姿の彼がいた。今日もいつも通り、友人と見られる人たちが、数人で彼を囲んでいる。


 成瀬が「どいつなんだ」とうるさいので、おずおずと特徴を述べて教えると、彼女は顎に手を当てて何かを思案し始めた。


「ふーん。 深雪って結構王道派なのね。 普通なカンジ。」

「ええ普通!? かっこよくない?」

「だから、普通にカッコいい感じ」


 納得だった。成瀬の言う通り、彼は普通に格好いい。孤高の王子様というよりは、分け隔てないアイドルの様な存在。男女共に人気が高く、周りに人が絶えない。クラスでの影は薄く、成瀬や千太郎が居なければ、ほとんどぼっちの深雪とは、真逆の存在。


 改めて彼との間の果てしない距離を感じ、深雪は打ちのめされて大きくため息を吐いた。そんな深雪を気にしながら、成瀬は窓の外へと視線を戻してうっすらと口角を上げた。


「あの集団の中の一人、知った顔がいるわ。 紹介してもらいましょ」

「ええ!?」


 成瀬の妙案に、深雪は驚愕の声を上げた。ありがたいというよりは、おこがましいその提案に、深雪は大きく首を横に振った。


「む、無理だよ!」

「無理じゃないって。 放課後、二年の教室行きましょ」

「絶対無理っ」


 いったいどこから、その意欲は湧き出てくるのか。それから暫く二人で言い合いをしたが、成瀬が一歩も引かないので、遂には深雪が根負けした。結局、放課後に二年の教室へ行くことが決まったところで、授業開始のチャイムが鳴る。


 生徒たちが慌ただしく席につき始める中、成瀬は鳴りを潜めていた千太郎に声をかけた。


「千太郎、あんたも一緒に行くんだからね」

「オレもかよ・・・・・」

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