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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
19/109

噂の美人の正体

 店の外で待っていると、数分後に成瀬が外に出てきた。


「ぱぱっと店内見てきたけど、いなかったわ」

「今日は流石に見つからないよ」


 苦く笑う深雪に、成瀬が頬を膨らませる。どうやら、本気で見つけるつもりだったらしい。


 成瀬には悪いが、深雪としてはこのまま三人で遊んだ方が楽しいし、出来れば日路が美人と二人で歩く姿は拝みたくはない。


「千太郎もぼーっと立ってないで、ちょっとは探してよ」

「・・・・・」


 とばっちりを受けた千太郎は、特に何の反応も示さない。ただ一点を見つめ、微動だにしない。


「双葉君?」


 不思議に思った深雪が声をかけると、千太郎が無言で深雪たちの後ろを指さす。


 その先を視線で追い、深雪の顔は強張った。


「大神先輩・・・・・と、謎の美人」

「・・・・・」


 成瀬の言葉通り、視界に映ったのは、私服姿の大神とスレンダーな美人。二人は、仲良さげに本屋から出てきたところだった。


 誰もが憧れるようなツーショットに、深雪は声をあげることもできない。


 パーカーに黒スキニーというラフな格好をした日路の姿は、本来であれば歓喜するところだが、とてもではないがそんな気持ちにはなれない。


 隣の美人は、日路より少し身長が低く、女性としては長身といえるだろう。短く切りそろえられた黒髪と、白Yシャツの襟の間から覗く白磁の首筋は艶めいて見える。細身のジーンズは、スタイルの良さを際立たせ、深雪は自分とは何もかもが正反対だと肩を落とした。


 落ち込んで黙りこむ深雪の横を、千太郎が長い足で追い越していこうとするので、成瀬が咄嗟にその腕を引いた。


「何してんの?」


 低く問い詰められた千太郎は、日路たちがいる方向をもう一度指で差す。


「ここまで来たら、もう本人に聞いたほうが早いと思って」

「ばっかじゃないの!?!?!?」

「な、成瀬ちゃん声大きいよっ」


 大声を張り上げる成瀬を、深雪は慌てて制止にかかる。見た目だけで目立つこの二人に騒ぎを起こされてしまっては、更に目立ってしまうだけでなく、そう遠くない距離にいる日路にまで気づかれてしまう恐れがある。


 それだけは避けなければと、成瀬と千太郎を必死で止めていると、


「ああ、やっぱり。 聞き覚えのある声だと思ったんだ」


 向けられた声に、三人が同時に首を回すと、こちらに気が付いてしまった日路が、わざわざ近寄って声をかけてきたところだった。その斜め後ろには、件の美人が不思議そうにこちらを見つめて立っている。


 動揺が最高潮に達した深雪は、眩暈を覚えて成瀬にしがみつく。


 日路はというと、偶然街中で出会った後輩に、いつもの笑顔を向けてきた。


「街中で、修羅場かと思ったよ。 休みの日まで、仲いいなあ」


 どうやら、周囲からは千太郎を巡った、成瀬と深雪の諍いに見えていたらしい。そんな誤解を生んでいたかと思うと、この顔面偏差値の違いに恐れ多すぎて吐き気がした。


 絶不調の深雪を気にして、成瀬が戦法を迷っていると、制止を解かれた千太郎がいきなり爆弾を放った。


「先輩、そちらの美人は誰ですか」


 それ聞いちゃうの!?と、深雪と成瀬は言葉もなく千太郎を見上げる。


 出た言葉を引っ込めることは、いくら絶対女王の成瀬でも出来ない。


 深雪は絶望しつつ、諦めて日路の回答を待った。


「ん? ああ、こいつは・・・・・」


 日路が「こいつ」と呼ぶほどの、親しい間柄なのだと感じて、深雪は更に肩を強張らせた。


 そんな深雪の動揺を他所に、日路はいつもの爽やかな笑みで隣の美人を紹介する。


「紹介するよ。 こいつは、俺の弟の蓮季ハスキ

「初めまして、大神蓮季です。 よろしく」


 弟!?いや、それよりも


「「声低っ」」


 凸凹コンビの驚きの声が重なる。深雪も咄嗟に声が出なかったが、一度聴いたら忘れられないほどの重低音は、耳に心地よく癖になる。何より、中性的なルックスからは想像できない低音に、頭の理解が追い付かない。


 二重の驚きに三人が固まっていると、日路が紹介を続けてくれた。


「今年からこっちに来て、一緒に暮らしてるんだ。 ほっとくと、家に籠ってばっかりだから、最近はよく連れ出してやっててさ」

「日路は過保護なんだよ」


 日路の紹介に突っ込みを入れつつ、美術品級の笑みを浮かべる蓮季は、嫌味な雰囲気が一切ない。紛うことなき、日路の弟であると、深雪は納得した。


 それは成瀬も同じようで、暫く沈黙した後、恨めし気に日路と蓮季を見上げた。


「かっこよくて人気者の兄に、イケメンでイケボな弟・・・・・大神家って、前世で偉業でも成し遂げたんですか」

「また成瀬に喧嘩売られたよ・・・・・」


 日路は苦笑いを浮かべてから、今度は蓮季に向かって深雪たちを紹介する。


「右から立花、成瀬、双葉だ。 学校の後輩なんだよ」


 日路の紹介に合わせて、三人が順番に軽く頭を下げる。


 簡単に紹介を終えた日路が、もう一度深雪たちの方に向いた。


「蓮季も三人と同じ高一だし、同い年同士、仲良くしてやってくれる?」

「どこの高校なんですか?」


 深雪が控えめに質問すると、蓮季は視線を合わせて答えてくれる。


白南ハクナン高校です」

「白南て、超エリート高校じゃん?」

「美形に加えて、頭良いとかなんなの」


 成瀬は僻み気味に溜息を吐いたが、深雪からすれば成瀬は人のことは言えないと思う。


 抜群のルックスは、それこそ僻みの種である。あまりにレベル違いの為、深雪は僻みを通り越して神々しいとすら感じているが。


 蓮季のキャラがハマったらしく、凸凹幼馴染コンビは興味津々に蓮季に詰め寄っていた。


「王子って呼んでも良い?」

「ちょっと声、録音しても良い?」


 千太郎が声を上げると、成瀬もこぞって蓮季に強請る。


 常人であれば戸惑うところだが、蓮季は超人らしく、成瀬と千太郎の圧に負けることなく美しく微笑んだ。


「俺の声なんかで良ければ・・・・・王子は学校でも呼ばれてるけど、やっぱり慣れないかな」


 低く上品に笑う蓮季の発言に、成瀬の動きが止まる。


「白南て、男子校よね?男子校で王子って呼ばれるってどんだけよ」

「恐るべし、大神兄弟」


 感嘆の声を上げる凸凹コンビに囲まれながら、丁寧に応対する蓮季の様子を微笑ましく見つめていると、日路が可笑しそうに笑いながら話しかけてきた。


「仲良くなれたみたいで良かったよ。 立花も、これから宜しくな」

「は、はいっ」


 日路のプライベートが垣間見えたので、今日は来て良かったと、深雪は心の底から思って微笑んだ。

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