表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
16/109

翼蘭祭~彼女と彼編2~

目当ての教室に近づくにつれて、カレーの独特な匂いが漂ってきた。


 行き交う人々の表情は総じて楽し気で、その中で成瀬の醸し出す雰囲気は殺伐として近寄りがたい。


 三人で一言も交わさずに、日路のクラスに辿り着いた。


 一番の昼時を過ぎたとはいえ、未だ盛況を見せている教室内で、カレーを売る日路の姿を見つけた。かなり忙しそうに、しかし、いつもの爽やかさは決して崩すことはない。


 行列に三人で並んだが、その間も会話は一切なく、深雪は成瀬と千太郎を交互に窺って口を開いては、結局何も言えずに口を結ぶしかなかった。


 結局、無言のまま列の先頭まで辿り着いた。


「いらっしゃ・・・・・おお、皆来てくれたのか。 ありがとな」


 三人を迎えた日路の笑顔は、少しだけその場の空気を和らげる。


 オーダーを聞いた日路が、三人分のカレーをよそってくれる。手際の良さに見惚れていると、すっとカレーのよそわれたトレーが手渡された。


「・・・・はい、立花は甘口な」

「あ、ありがとうございますっ」


 若干の空気の気まずさと、日路への緊張で声がひっくり返る。いつもなら成瀬から一言二言飛んできそうな場面だが、勿論つっこみなど入らない。


 続いて千太郎が「どうも」と短く礼を述べて受け取り、最後に成瀬が日路からカレーを受け取ろうと手を伸ばした。


 その時、


「成瀬、どうかしたか?」

「え?」


 日路からの急な問いかけに、成瀬は似合わない素っ頓狂な声を上げる。


 深雪も驚いたが、そのまま黙って見守っていると、日路が柔らかく微笑みながら言葉を続けた。


「なんか、元気無さそうに見えたから」


 ストレートな言葉に、何故か深雪が心を打たれてしまう。人の機微に敏感なだけでなく、選ぶ言葉まで神センスだ。


 一方で言われた本人の成瀬はというと、何かを抑えるように微妙に顔を顰めた。


「・・・・・大神先輩って、本当に何者なんですか」

「え?」


 成瀬流の照れ隠しだと、深雪と千太郎は合点する。しかし、日路は未だそこまで成瀬を攻略できていない様で「ええと・・・・・」と困り顔で深雪と千太郎へ視線で助けを求めてきた。


 その様子に、成瀬がもう一度口を開く。


「ほんっと、何で大神先輩が頼来と友達なんだか」


 成瀬の言葉に、日路は爽やかに笑って見せた。


「ははっ。 頼来のことなんて、成瀬の方がよく知ってるんじゃないか?」

「・・・・・」


 邪気のない日路との会話は、成瀬のとがった心をほんの少しだけ丸くしてくれたようで、日路からカレーを受けっとって深雪と千太郎の元へと寄ってきた成瀬は、少しだけ俯きながら上目遣いでこちらを窺ってきた。


「・・・・・ごめん、空気悪かったわね。 もう平気よ」


 少しだけ強がりを含む声色だったが、深雪と千太郎は気づかないふりをして成瀬を囲む。


「全然大丈夫っ。 ね、それより午後はどこ回ろうか?」

「そうね、頼来のことでイライラするとか、時間の無駄だったわ。 もっと楽しみましょ」


 どこまでも頼来にドライな成瀬に苦笑しつつ、深雪は三人で楽しく食事ができることが嬉しかった。


 せっかくの文化祭だ。思いっきり楽しみたい。


 これも日路が場を和ませてくれたおかげだと、カレーを売っている日路へとちらりと視線を送った。


 すると、先刻まで成瀬の隣でカレーを食べていた千太郎が、丁度日路に声をかけていた。


「大神先輩、ちょっと」

「ん?」


 珍しい組み合わせに、何の話をしているのかと疑問に思った深雪だったが、徐々に調子を取り戻していく成瀬との会話に花が咲き、結局その後も、二人が何を話していたのかは聞けぬまま、翼蘭祭を思い切り楽しんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ