翼蘭祭~準備編2~
「そういえば、テストはどうだった?」
文化祭準備三日目、看板づくりの仕上げをしながら日路が唐突に問いかけてきた。
深雪は慌てて成瀬を振り向いたが、スパルタ思考の成瀬は聞こえなかったふりをして、完全無視を決め込む。
観念して、深雪はおどおどしながら口を開いた。
「お、お陰様で、平均点より大分良かったですっ」
「良かった。 テストの時、ちょっと心配だったんだ」
そう言って、日路は安堵の表情を浮かべる。
日路の日常の中で、少しでも自分を思ってくれた時間があったのかと考えると、その頃己はなにを考えていたのかと、深雪は酷く狼狽した。まさか、その日の晩御飯のことなど考えていないだろうな。
たどたどしく、日路との会話を楽しんでいると、自分の作業がかなり遅れていることにふと気が付いた。
近くにいる成瀬は、既に自分のノルマを終えそうな程のスピードである。
そもそも、自分は不器用であることを、今更思い出した。何事も人より時間をかけなければうまくいかないし、結果的にうまくいかないことも往々にしてある。
改めて自分には何もないなと、一人で感傷に浸っていたところに、黙り込んだ深雪を心配した日路が首を傾げて、小さく問いかけてきた。
「立花、大丈夫か? 具合悪い?」
「えっ? そ、そんなことないです、すみません」
ただでさえのろまなのに、いろいろ考えて更にスピードが落ち、挙句日路にいらぬ心配までさせてしまう始末。
「すみません、私、作業遅くって・・・・」
「え、そんなこと考えてたのか? 丁寧にやってくれてるなあって、逆に感心してたけど」
「!」
フォローまで完璧な日路は、どこまでかっこよくなるつもりなのだろう。
深雪は日路からの賛辞に卒倒しそうになったが、卑屈さが若干勝って、思わぬ愚痴が漏れ出た。
「得意なこととかもなくって、じっくり時間をかけても、最後までうまくいかないこともあるので・・・・」
日路相手に、何を言っているのだろうと客観的に思った。自分で言っておいて、誤って鋭いナイフが自分の心にぐさりと刺さってしまう。
しかし、日路のスーパーフォローは、深雪のネガティブを上回った。
「得意なことを続けるのって、割とできると思うんだよな。 まあ、程度はあるかもだけど。 苦手なことに、時間をかけて向き合って、最後までやるのって難しんじゃないかな。 結果はうまくいかなくても、すごいことだと思う」
仏の様な日路の微笑みと言葉に、深雪はぐっと心を掴まれる。
そんな風に考えたことなどなかったし、言われたことも勿論ない。
感動から声も出なくなった深雪に、日路の最後のダメ押しが刺さる。
「一生懸命できることが、立花の良いところだな。な、成瀬」
「そうですね」
日路が褒めちぎって成瀬に同意を求めると、黙々と作業していた成瀬が平坦な賛同の声を上げた。
慣れない状況に、深雪はむず痒くなって赤面した。それを隠すように俯けば、日路が再び心配の声をあげる。
「ど、どうした立花? やっぱり、具合悪いんじゃ?」
「平気なんで、大神先輩は少し黙って作業してください」
狼狽える日路に、成瀬の冷静なつっこみという名の命令が下る。
先輩ごめんなさい!
深雪は心の中で謝罪の言葉を述べながら、火照った顔を上げることができずに項垂れた。




