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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
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13/110

翼蘭祭~準備編2~

「そういえば、テストはどうだった?」


 文化祭準備三日目、看板づくりの仕上げをしながら日路が唐突に問いかけてきた。


 深雪は慌てて成瀬を振り向いたが、スパルタ思考の成瀬は聞こえなかったふりをして、完全無視を決め込む。

 観念して、深雪はおどおどしながら口を開いた。


「お、お陰様で、平均点より大分良かったですっ」

「良かった。 テストの時、ちょっと心配だったんだ」


 そう言って、日路は安堵の表情を浮かべる。


 日路の日常の中で、少しでも自分を思ってくれた時間があったのかと考えると、その頃己はなにを考えていたのかと、深雪は酷く狼狽した。まさか、その日の晩御飯のことなど考えていないだろうな。


 たどたどしく、日路との会話を楽しんでいると、自分の作業がかなり遅れていることにふと気が付いた。


 近くにいる成瀬は、既に自分のノルマを終えそうな程のスピードである。


 そもそも、自分は不器用であることを、今更思い出した。何事も人より時間をかけなければうまくいかないし、結果的にうまくいかないことも往々にしてある。


 改めて自分には何もないなと、一人で感傷に浸っていたところに、黙り込んだ深雪を心配した日路が首を傾げて、小さく問いかけてきた。


「立花、大丈夫か? 具合悪い?」

「えっ? そ、そんなことないです、すみません」


 ただでさえのろまなのに、いろいろ考えて更にスピードが落ち、挙句日路にいらぬ心配までさせてしまう始末。


「すみません、私、作業遅くって・・・・」

「え、そんなこと考えてたのか? 丁寧にやってくれてるなあって、逆に感心してたけど」

「!」


 フォローまで完璧な日路は、どこまでかっこよくなるつもりなのだろう。


 深雪は日路からの賛辞に卒倒しそうになったが、卑屈さが若干勝って、思わぬ愚痴が漏れ出た。


「得意なこととかもなくって、じっくり時間をかけても、最後までうまくいかないこともあるので・・・・」


 日路相手に、何を言っているのだろうと客観的に思った。自分で言っておいて、誤って鋭いナイフが自分の心にぐさりと刺さってしまう。

 

 しかし、日路のスーパーフォローは、深雪のネガティブを上回った。


「得意なことを続けるのって、割とできると思うんだよな。 まあ、程度はあるかもだけど。 苦手なことに、時間をかけて向き合って、最後までやるのって難しんじゃないかな。 結果はうまくいかなくても、すごいことだと思う」


 仏の様な日路の微笑みと言葉に、深雪はぐっと心を掴まれる。


 そんな風に考えたことなどなかったし、言われたことも勿論ない。


 感動から声も出なくなった深雪に、日路の最後のダメ押しが刺さる。


「一生懸命できることが、立花の良いところだな。な、成瀬」

「そうですね」


 日路が褒めちぎって成瀬に同意を求めると、黙々と作業していた成瀬が平坦な賛同の声を上げた。


 慣れない状況に、深雪はむず痒くなって赤面した。それを隠すように俯けば、日路が再び心配の声をあげる。


「ど、どうした立花? やっぱり、具合悪いんじゃ?」

「平気なんで、大神先輩は少し黙って作業してください」


 狼狽える日路に、成瀬の冷静なつっこみという名の命令が下る。


 先輩ごめんなさい!


 深雪は心の中で謝罪の言葉を述べながら、火照った顔を上げることができずに項垂れた。

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