馴れ男とは
年内ラスト投稿です!
今年も読んで頂き、ありがとうございます。
来年もお付き合い頂けますと幸いです。
年明け最初の投稿日は決まり次第、Xでご連絡させて頂きます。
一年生から二年生になるにあたり、クラスはほとんど持ち上がりだ。一部、特進クラスや人間関係を考慮したクラス変更はある様だが、深雪の周りには影響はない。
はずだったのだが。
「ゆっきー隣? まじかぁ、運命だな」
「あっははは・・・・・」
隣の席に座ったのは、今朝昇降口から職員室まで深雪が案内をした新田だった。
イギリスの姉妹校から転入してきたという新田を知る者はクラスには居ないので、皆ちらちらと様子を窺っている。
ついでに、その新田から親しげに話しかけられた深雪までもが、教室中の視線を浴びる羽目になる。
一番鋭い視線を送ってきたのは、深雪の斜め前で、新田の前の席に座る成瀬である。
直ぐにHRが始まったので、その場での追及は逃れた。しかし、休み時間に入った瞬間に成瀬は深雪に詰め寄った。
「誰なの、あの馴れ男」
「馴れ男って・・・・・」
成瀬の言いように、深雪は顔を引き攣らせた。新田が席を離れているのを良いことに、成瀬には遠慮が無い。
「朝、たまたまちょっと、話しただけだよ」
こと細かく話すとまたややこしくなりそうだったので、深雪は今朝の出来事をオブラートに包みこむ。
すると、何故か成瀬の目が据わった。
「ふーん。 たまたま、ちょっと、職員室まで案内してあげたってわけね」
「何で知ってるの!」
ずばり言い当てられ、深雪は本気で慄いた。成瀬は呆れ顔で溜息を吐く。
「ばっかじゃないの? 私に、知らないことなんて無いのよ」
「答えになってないよ・・・・・」
深雪が困惑したまま項垂れていると、成瀬の隣の席に座っていた千太郎が、ゆっくりと立ち上がって深雪達のもとに歩み寄り、やれやれと首を振った。
「どうせ、頼来サンだろ」
千太郎の言葉に、深雪も漸く合点がいく。頼来がどのように成瀬に伝えたかは知らないが、彼女の眉間の皺はかなり深い。誤魔化そうとした深雪に更に気を害したようである。
「でも、本当にそれだけだよ」
「それだけで、ゆっきーなんて呼ぶわけ?」
やっぱり馴れ男じゃない、と口を尖らせる成瀬に、だから馴れ男ってと深雪はがっくりと肩を落とす。
「馴れ馴れしいんだから、馴れ男でしょ」
「ええ・・・・・」
そんなやり取りをしていると、珍しく千太郎が口を挟んできた。
「次、移動教室。 くだらない話してないで、さっさと行くぞ」
そう言う千太郎の右手をよく見れば、ノートとペンケースを持っている。次は視聴覚室への移動が必要だ。
慌てて準備をする深雪と成瀬に、呆れ顔の千太郎の後ろから、どこからか戻ってきた新田がひょっこり顔を覗かせた。
それから、少し見上げる形で千太郎を凝視して、感嘆の声を上げる。
「すげー! 俺、日本じゃなかなか人を見上げるって無かったのに」
身長何センチ?と新田が身を乗り出して質問してくるので、千太郎はやや後ろに仰け反った。
二人の身長は然程変わらないので、並んで立つとなかなかの存在感がある。未だ教室にいる他のクラスメイトも、小さく驚いている様子が窺えた。
新田に絡まれた千太郎は、助けを求める様に成瀬に視線を送る。
しかし、面倒事はお断り主義の成瀬は、無情にもくるっと踵を返して背を向けた。
「さ、移動教室だから、さっさと行きましょ」
「ひっでぇ・・・・・」
千太郎の小さな悪態は、もう成瀬の耳には届かない。深雪の腕を強引に引っ張って、教室の出入り口に向かう。
成瀬が発した移動教室という言葉に、新田は目を丸くした。
「え、次って移動教室? 俺も一緒に行く!」
そう言って、ばたばたと移動の準備を始める新田。流石にここで、無視して置いていくことは出来ない。千太郎は気まずそうに、その場に立ち尽くした。
教室を出る寸前で、一度振り返った成瀬は、得意げな笑みを浮かべていた。
「じゃ、しっかり連れてきてあげてね、千太郎」
完全に面白がるモードの成瀬を、千太郎がジロリと睨む。それでも、律儀に新田のことを待つ姿に、成瀬は満足げな表情を浮かべた。
「準備できた! お待たせー」
「あ、うん・・・・・」
ハイテンションの新田に対して、どぎまぎしている千太郎の様子は、なんだか見ていて新鮮で面白い。深雪にも少しだけ、成瀬の気持ちがわかる気がする。
「ほら、深雪も行くわよ」
「あ、そうだね」
成瀬に腕を引かれたまま、深雪は教室を後にした。




