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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
ずっと好きな二年生編
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スクープ

 駐輪場に長居してしまった深雪は、落ち着きを取り戻してから、昇降口へと向かった。


 靴を履き替え、深雪が教室へと向かおうと足を踏み出した時、背後から声がかかる。


「ねえごめん、ちょっと」

「!?」


 深雪が咄嗟に振り向くと、そこには、背の高い茶髪気味の男子生徒が一人。


「職員室って、どこだっけ」


 人懐こそうな表情を見せる男子生徒は、そう言いながら深雪のところまで歩み寄ってきた。


 近づくと、男子生徒の背の高さが一層際立った。普段、背の高い千太郎といることが多いが、負けず劣らずの背の高さである。


「ええっと、あっちの階段を・・・・・」


 説明しようと、深雪は後ろの階段を指差した。しかし、その後の言葉が続かない。何と言ったら伝わるだろうかと考えたが、口で説明するより、連れて行った方が早いという判断に落ち着く。どうせ、教室に行くまでの通り道だ。


「えっと・・・・・案内しますね」

「えっ、神じゃん。 ありがと!」


 深雪の申し出に、男子生徒がにかっと笑顔を見せる。


 少しのやりとりだけで、この男子生徒のコミュニケーション能力の高さが窺えた。職員室に辿り着くまでの間も、深雪相手に会話を続ける。


「俺、転入生でさ。 この前一回来たんだけど、場所忘れちゃって」


 そう言いながら、きょろきょろと周りを見回していた男子生徒は、ふいにくるっと深雪の方に顔を向けた。


「ああ、俺は新田久已都(ニッタクミト)。 二年生」


 新田と名乗る男子生徒は、右の手の指で二を示す。笑顔も相まって、ピースをしている様に見えた。


 慌てて、深雪も自己紹介をする。


「あ、立花深雪です。 私も二年生」


 小さく頭を下げると、新田はうんうんと数度頷いた。


「タメね。 宜しく、ゆっきー」

「ゆ、ゆゆ・・・・・」



 っきー? え、私のこと!?



 呼ばれ慣れなさ過ぎる呼称に、あんぐり口をあける深雪などお構いなしに、新田おしゃべりは続いていく。


「一年のときは、イギリス校に通ってたんだけど。 都合で二年からこっちに通うことになったんだよね」

「そ、そうなんですね・・・・・」


 これまでの人生の中で、イギリスに居たと言う人と会話する機会が無かったので、返事の仕方に困ってしまう。


 確か、翼蘭学園のパンフレットに海外校の紹介も載っていた気がするが、自分には関係無いと頭の片隅からも消えていた。


 成瀬や千太郎あたりは、イギリスに行ったことがあるだろうかと、全く違うことを考えていると、新田がじっとこちらを見つめてきていることに遅れて気がついた。


「・・・・・! な、何か?」

「いーや? ゆっきー、敬語が通常の人?」

「違います、けど・・・・・」


 深雪がそう答えると、新田は「なんだー」とほっと肩を撫で下ろす。


「したら、普通にしゃべってよ。 ついでにこの学校での友達一号になって」

「え」


 初対面にしては、かなりの距離の詰め方だ。しかし、嫌味の無い様子は不思議と好印象をもたらす。


 これが人柄なのかな、と半ば他人事の様に思っているうちに、職員室の前に到着した。


 「じゃあ、私はこれで」と深雪が案内の役目を終えようとした時、丁度職員室のドアが内側から開けられた。中から、誰かが退室してくる。


「失礼しまーす・・・・・っと、深雪ちゃんじゃん」

「吉井先輩」


 出てきたのは頼来だった。生徒会の用事だろうかと検討をつけていると、頼来は後ろ手で職員室のドアを閉めながら、深雪に話しかけてきた。


「おはよ。 入学式の手伝い、ありがとねー」

「いえ! 貴重な経験でした。 ありがとうごさいました」


 素直な感想を述べれば、頼来は涙を拭く様な仕草を見せながら「深雪ちゃんは良い子だね」と呟く。大方、成瀬あたりにキツイ言葉を浴びせられたのだろうと想像ができた。


 苦笑で返す深雪の隣に視線を移した頼来が、新田を見上げて思わず「おおっ」と声をあげる。


「また背の高いやつだなー。 深雪ちゃんの友達?」

「あ、えっと」

「そうっす。 ゆっきーの友達です」


 返答の仕方に深雪が困っていると、隣で新田が即答した。


 深雪はしどろもどろで、否定も肯定もしない。ほう、と目を丸くした頼来だったが、すぐに納得した様に深く頷いた。


「仲が良いのは、生徒会としては大いに結構。 二人ともHR遅れるなよー」


 頼来が手を振って、職員室の前からどく。軽く会釈して深雪が見送っていると、新田が静かに職員室のドアを開けた。


「案内ありがと、ゆっきー・・・・・あ、ねえ、学年主任てどの人?」

「え? ええっとねえ・・・・・」


 新田が難しい顔をして職員室内を見渡すので、深雪は慌てて、一緒になって職員室のドアにはり付いた。


 あの人ではない、あっちでお茶を飲んでいる人だ、と小声でやり取りをする二人を、歩き出していた頼来は徐ろに振り返った。


 深雪と新田が二人並んで、職員室を覗き込んでいる。仲の良い雰囲気が見て取れた。


 その様子を見た頼来は、ズボンのポケットからすっとスマホを取り出した。


「こりゃー、また成瀬が騒ぎ出しそうだな」


 頼来はそう言いながら、スマホに素早くメッセージを入力した後、画面の送信ボタンを押した。

お読みいただき、ありがとうごさいます!

次回12/13投稿予定です。

※変更がある場合は、Xでご連絡します。

(@H4TMoGXDcL3Q5rt)

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