sweets photo
誕生日会は大いに盛り上がった。
テーブルの上の料理を空にした頃、今度は可愛らしい様々な種類のケーキがいっぱいに並べられた。
深雪はまた、瞳を輝かせることになる。その向かいで、黒田が思いの外男らしいその人差し指で、テーブルの上のケーキの個数を数え始めた。
「えーと、いちにぃさん・・・・・十五個!」
「すごい! 全部種類違うよー」
目を丸くして驚く黒田に続けて、深雪は両手を胸の前で合わせて感動した。
二人の反応に気を良くした成瀬は、自慢げに鼻を鳴らす。
「ケーキの種類多いから、このお店にしたんだもの。 全部頼むに決まってるでしょ」
「こんなに、食べられないだろ」
得意気な成瀬に、鋭くつっこみをいれた千太郎は、頬杖をついて眉間に皺を寄せる。
確かに、既に五人のお腹は先程の料理でかなり満たされていた。単純計算で、一人あたり三個のケーキを食べることになる訳だが、食べ切れるかと聞かれれば、多少たじろぐ量である。
千太郎にぴしゃりと切られた成瀬は、それまでの慢心に満ちた笑みを引っ込め、小さく舌打ちをした。
「ケーキは、持ち帰りできるから良いのよ。 私が何にも考えてないとでも?」
「だから、いちいち喧嘩腰やめろよ」
苛立ちを隠そうともしない成瀬を、瞳を伏せて窘める千太郎。
そんな二人を前にしながら、黒田は煌めく瞳をテーブルの上のケーキに向けて微笑む。
「すごいねぇ。 立花さんは、何のケーキが好きなの?」
「あ、えーっとね・・・・・」
殺伐とした気を発する凸凹コンビを他所に、深雪と黒田はほのぼのと会話する様子が妙につぼにはまったらしい蓮季が、肩を揺らして笑う。
食べるのも勿体ない、美しい見た目のケーキを前にして、深雪はにやけ顔を抑えきれない。
「写真撮っていい?」
「撮って撮って。 皆でも撮りましょ」
そう言って、成瀬は自身の携帯をポケットから取り出してカメラアプリを開くと、そのまま千太郎に手渡した。
「千太郎、そっちから撮って。 その長い腕をフル活用して」
「褒めてるとみせかけて、こき使ってるだけだよな」
やれやれと首をふる千太郎だったが、全員が画角に入るように調整しながら、手にしたカメラを高々と上げる。
「ケーキも写してね!」
「難易度高いな」
苦戦する千太郎だったが、何枚か撮影をして成瀬に携帯を返す。受け取った成瀬は、深雪にも画面を見せながら、すぐに撮影した写真を確認した。
「ま、いい感じなんじゃない。 深雪、ケーキ単体で撮る?」
「撮る!」
鞄から自分の携帯を出した深雪は、フィルターをいくつか試しながら、目の前のチョコレートケーキを撮影する。その茶色の深さに、チョコレートの濃厚さが表れているようで、深雪のテンションもうなぎ登りだ。
反対側の席では、蓮季も携帯を取り出して、成瀬に向けてその手を振った。
「成瀬さん、写真送ってくれる?」
「ねえねえ、ケーキ食べてもいーい?」
「バメちゃんて結構、食べるんだね」
既にフォークを手にして、待ち切れない様子の黒田に、千太郎が意外そうに目を見開く。黒田は「甘いものは別腹」と言って、少年の笑みを見せた。
「写真ありがと、成瀬さん」
「いーえ・・・・・え、」
写真の礼を口にした蓮季に手を振った成瀬だったが、その後携帯の画面を見つめたままフリーズする。
一体どうしたのだろうと、深雪は不思議そうに成瀬を見つめた。
「どうしたの、成瀬ちゃん?」
「何でもないわ。 さ、写真撮れたなら食べましょう」
成瀬は小さく首を振って携帯をポケットに戻すと、ぱんぱんっと手を叩いて場を仕切り直した。
「さあお待たせ! 皆好きなの取って。 深雪はチョコレート?」
「あ、うん!」
切り替えの早い成瀬に促され、深雪は改めて目の前のケーキに意識を移す。各々が好きなケーキを選んだのを見届けた後、フォークで慎重に掬って口に運んだ。
「んー! 美味しい! 幸せー」
ケーキの美味しさと、この幸せな空間に、深雪は感嘆の声をあげて微笑んだ。




