表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/26

8.王と王妃と王女


空は美しい秋晴れで、街は普段に増して活気に満ちている。

今日からユリィエヴァンズ開花祭がはじまるからだ。


建国神話にも関わるユリィエヴァンズの花の開花を祝うこの祭りは国中で行われ、特に王都では王族による操天魔法まで披露され大々的に行われる。

今日限りは学園も休み、街に出ることが許されているほどだ。

だから学園はがらんとしており、残っている生徒はほとんどいない。




そんな盛り上がりの中、ユリアナは王族として式典に出席することも街に繰り出すこともなく王族寮でいつものように過ごしていた。


「姫様、本当に籠りきりでよろしいのですか?」


それに心配するのは護衛兼侍女のアルファ。

しかし当のユリアナはどこ吹く風といった様子で本を読んでいる。


「とうとうわたくしを殺しに動いたんでしょう?ならば護衛のしづらい街中に出るなんてもってのほかだわ」

「我々はその程度で姫様の護衛ができぬほど無能ではありません!」

「お前たちの能力は信頼しているけれど万に一度も可能性があるならばそれは排除するべきよ。わたくしはここで脱落したらゲーム通りの展開になるかどうかわかったものではないわ」

「それは…そうかもしれませんが…」


先日、ユリアナの元に第一王子派から刺客が放たれた。

学園内に刺客が入ってきたということもありすぐに王宮・学園両方に連絡。不安を煽らないために内密にはされているが城では相当な人数を割いて犯人探しに当たっているという。


ユリアナの方では、今後もまた襲撃が予想されることからスキアの住まいを一時的に王族寮に移し昼夜問わず護衛にあたらせている。


「とはいえ、流石に完全に開花祭を無視というわけではないのよ?」

「……?俺ユリィエヴァンズの花買ってきた方がいいですか」

「そういうことじゃないわよ。アルファ、金庫から金色の箱に入ってるもの持っていてちょうだい」

「かしこまりました」


と、アルファに持ってこさせたものを机に広げる。

箱に入っていたのは四角くて薄い水晶の板、拳ほどのサイズの球体状のパライバトルマリン。明らかに高価な宝石たちだが、これらの真髄は美しさではない。


ユリアナは水晶の板に血を一滴垂らし、

「サンフラワ=クライシスの姿を映せ」

と唱える。


すると水晶の板の中央から渦が巻くように血が動き、やがてひとりの男性の姿を映し出した。

金色の髪に同色の瞳。頭には王位を所持する者のみが被ることを許される冠。立つ場所は城のバルコニー。


サンフラワ=クライシス。ユリアナの父にして現王の姿が映し出されていた。


「な、なんですかそれ?!」

「血を垂らすことで自分の血縁者の姿を映し出せる魔道具よ。前の光魔法を使う人間が作ったもので世界に一つしかない貴重なもの。全部セットで大国の国家予算3年分くらいするから扱いには注意なさい」

「なんでそんなもの姫さんが持ってるんですか?!」

「そりゃあ姫だからよ。お前たち知らないかもしれないから教えてあげるけどわたくしが普段着ているこのドレス、一着で庶民が3年は暮らせる程度よ?」

「そうでした…姫さんは姫でしたね…」


スキアが思い出したかのように言う。

国宝を自由に使えと与えられているユリアナは間違いなく姫なのだと。



3人は水晶板をじっと眺めていると、少しして変化が訪れた。


『我が名はサンフラワ=クライシス。皆の生活を預かる126代目国王である!』


「音まで流れた?!」

「詳しい仕組みは知らないけど風魔法で集音してそのパライバトルマリンから流しているそうよ?」


『今年も無事にユリィエヴァンズ開花祭が迎えられて嬉しく思う。そしてまた今年は良い知らせがある。我が妃、アナスタシアが病気療養から戻りこれからまた公務を共にすることとなる。余とアナスタシアを支えてもらえると嬉しい』


ゆっくりと国王の後ろから歩み出る女性の姿を見た国民は、わっと歓声を上げる。


淑やかで、儚げで、ただただ美しい。

ユリアナと横に並べば誰もが親子とわかるその尊き顔の持ち主は。


『アナスタシア王妃陛下!』

『ご快癒おめでとうございます!』


王妃アナスタシア。

公爵家出身の美しき王妃である。


「お母様………」


その姿を見たユリアナは、悲しいような、嬉しいような、辛いような、寂しいような。そんな顔をしていた。





***





ユリィエヴァンズ開花祭での国王のスピーチが終わり、王サンフラワ=クライシスは自室へと戻る。


「ユリィは、ユリィはアナスタシアのことを見れただろうか。間違いようもなくアナスタシアはユリィのことを愛している。もう一度合わせてやりたいのに…」

「陛下、それには時間がかかるということをお分かりになってください」


執務室には王と宰相のみ。

事情を把握しており、また気心が知れた友人である彼に王は心情を吐露する。


「わかっている。わかっているのだよ。けれど余は…僕はアナスタシアの涙が忘れられない。ユリィの涙が忘れられない。なぜどうにもならないのだろうね」

「子爵令嬢が…あのような魔力を持っていなければ」

「彼女に当たるのは筋違いだよ。けれど…そうだね。僕は2人を不幸せにしかできないのだろうか。|ユリィエヴァンズ=アナスタシア《アナスタシアの幸福の花》。その名前を捨ててしまったあの時にはもう………」


絶たれてしまった自分と妻と娘のことを思い、王は静かに涙した。



お読みいただきありがとうございました!

モチベに繋がりますので、下の評価欄より星1〜5の評価をいただけると嬉しいです。


パライバトルマリン、とても綺麗な宝石なので調べてみてください。ものすごーく高いものらしいので拳大のサイズだといくらするんだろう…。


新年1月1日0時に新年番外編を投稿します。

それでは良いお年を!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ