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4.婚約者ゲオルグ


「姫様、招待状が届いております」


入学式も終わった次の日。この日は次の日から始まる授業に備えて準備する必要がある、という名目で休み。

特にすることもないユリアナはベッドでだらだら…することもなく、完璧に身を整えティータイムを過ごしていた。


「あら…誰から?」

「ゲオルグ・ヴィクラム公子様からです」

「そう、婚約者殿から。そもそもわたくしに招待状を送る者なんてそういないものね、その辺だとは思ったわ」


ゲオルグ・ヴィクラム公爵子息。宰相の息子である彼は乙女ゲームの攻略者の一人にしてユリアナの婚約者だ。


ユリアナは王族が継承する操天属性を持っていない。

しかしこの魔法は直系王族にはほぼ100%、三等親以内に直系王族がいる場合も高確率で遺伝するものである。

ゲオルグは祖母に直系の王女を持ち、魔法属性は操天属性。次男であることも相まって操天属性を持たないユリアナと婚約している。


完全なる政略結婚。そこに恋愛感情は微塵もない。

しかし王侯貴族はそれが当然だ。それはユリアナもゲオルグも弁えている。

…少なくとも今は。


「入学した婚約者を祝いにって言ったところかしら。アルファ、承諾の返事をしてスキアを呼びなさい」

「かしこまりました」




***




「久しぶりだね、ユリアナ」

「ごきげんようゲオルグ」


指定されたのは一等社交室。生徒がお茶会などを催すときに使われる部屋だ。使用するにも都度金がかかり、一等社交室ともなると侯爵以上の身分も必要となる。

高額ではあるが、値段に相応しく統一感のある素晴らしい意匠の入った家具、一級品の紅茶やお茶菓子が揃えられている。


「赤い薔薇まで飾られているのね…。期待した以上だわ」

「ユリアナが来るんだ。当然のことだろう?」


赤い薔薇、これはユリアナの花印。

花印とは直系の王族に与えられるシンボルフラワーのこと。これは名前にも組み込まれるのでユリアナのフルネームはユリアナ・レッドローズとなる。直系王族のみのため側室出身のハインリッヒは所持していない。


だから、ユリアナが出席するお茶会や舞踏会には当然に赤い薔薇が飾られる。婚約者と2人の小さなものであろうともきちんと赤いバラを用意するその心意気にユリアナは感心した。


「さて、要件は何かしら?お前も生徒会に入って忙しいと聞いているけれど」

「忙しいは忙しいがこれは上位貴族としての責務だからね。混ざり物(ハインリッヒ)の指示を聞かねばならないのは不服だが…まあ致し方ないのだろうよ」

「混ざり物…ね」


ユリアナよりハインリッヒを王位に推す上位貴族は少なくない。しかし、もちろん血統は最上であるユリアナを推す貴族だっている。

それの最たるのがゲオルグの生家、ヴィクラム公爵家。

より正確に言えば当主は中立寄りのユリアナ派であるため、17歳であるゲオルグがユリアナ派の中心人物である。


ゲオルグがユリアナを王位に推すのは自分が王配となって権力を握りたいから、という理由ではない。


「いい加減そこの庶民の従者たちを解雇するべきじゃないかい…?王族であるあなたにはそれに相応しい身分のものが侍るべきだ」


ゲオルグはドアを見ながら忌々しげに言う。

その先には、ドアの前に陣取りユリアナを護衛するスキアとアルファがいる。


「わたくしはその相応しい身分の者たちのせいで不要な傷を負ったとお前なら知っているはずだけれど?」


それはそうだが…と言いすくむゲオルグを横目にユリアナはそっと嘆息する。


そう、ゲオルグは大の庶民嫌いだ。だから近しい親族に庶民がいる子爵家出身のハインリッヒを嫌いユリアナを推す。

それは彼の複雑な家庭環境に起因するのだが、それはまた別の話。



黙ってしまったゲオルグに、従者を非難され不快になったユリアナは立ち上がる。


「失礼するわゲオルグ。二度とわたくしに指図などしないように」

「…………」


ユリアナはスキアとアルファを伴い退出した。

一等社交室は依然重い空気で包まれていた。




***





「違うんだ、違うんだ。ユリィ、ユリィエヴァンズ殿下。そんなつもりで言ったんじゃ……いや。そんなつもりだったんだ。僕は嫉妬して、加えて相手が庶民だってのが許せなかった。だって僕の方が付き合いはずっと長かった」


ユリアナたちがいなくなった社交室に、まだゲオルグは一人残っていた。

自嘲気味に、自らの醜さを笑っていた。


「僕は君のために命だって捨てられる。だって君に拾われた命だ。……でも、きっとそれはお前も同じなんだろう?スキア。でも、君じゃユリィを守れない。だって、結局この世界は身分でがんじがらめにされているんだから。庶民の君では、いつかはユリィを守れない」




お読みいただきありがとうございました!

モチベに繋がりますので、下の評価欄より星1〜5の評価をいただけると嬉しいです。




『破滅がしたい王女の物語』は拙作『王子顔の幼馴染』のおよそ100年後のお話です。ゲオルグはレイニーレインとサーファロードの子孫にあたります。

家名が共通している程度ですので特に支障はありませんが、ぜひそちらも読んでいただけると嬉しいです。


次回更新は明日18時です



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