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3.完璧王子ハインリッヒ

2020/12/22 誤字修正と少し文章を加えました

2021/08/29 ユリアナの黒歴史エピソードの削除と一部文章を変更しました


入学式。それはどこの世界でも新入生の晴れ舞台である。

もちろんユリアナも例外ではない。全力で着飾ったその姿はあまりに美しく、妖しい魅力を放っていた。


「姫さんまだ15歳なのに妖しい魅力って…それでいいんですか」


寮の外に出ると、すでに準備を終えたスキアが待機していた。さすがに外聞を気にしてか、明らかに着替え中の王族寮に踏み込むのはスキアといえど控えたらしい。


「『噂通りの傲慢で我儘な王女』にはぴったりでしょう?……まあ、わたくしだってもう少し可愛らしい服を着てみたい気持ちもあるけれど」

「姫さんは妃殿下になる必要はないんですよ」

「お母様に会ったこともないのによく言うわ。それに、なにを着たところでわたくし如きがお母様になれるはずがないでしょう」

「姫さん……」

「自分から言っておいて何に困っているの。さ、もう着いたわよ」


気づけばもう会場入り口。

時間ギリギリであるために既に周囲に人はおらず、しんと静まりかえっていた。


「ユリアナ第一王女殿下」

「なによ」

「ご武運を」

「…戦うわけじゃないわ。でも」


ありがとう。小さく呟いたその声は、優秀な聴力を持つ従者たちに届いていた。




***




身分制度というものが存在する以上、ユリアナ付き従者の地位を得ているとはいえただの庶民であるスキアと直系王族のユリアナを同じ扱いにするわけにもいかない。


スキアと別れたユリアナは式典会場に用意された王族専用席に着席すると、横(といっても相当離れているが)に自分の兄がいることを視認した。


(まあ当然よね…。側妃出身とはいえ(お父様)の子供だし。ハインリッヒ、彼自身が悪いわけではないのは分かっているけれどやっぱり憎いし嫌いだわ)


金髪金目のその容姿は完璧に王族の特徴を継いでいる。金の髪は持つが紫の目のユリアナと違って。

持ち得た魔法属性は『操天属性』。天空神の子供であったとされる建国王が持ち代々の王族が継承した魔法属性。基本は両親から受け継がれるはずの魔法属性だが、王族にも王妃の実家であるエルトリア公爵家にも現れた記録のない闇属性を持つユリアナとは違う。

生まれながらに強大な魔力を持っていたハインリッヒ。死ぬ思いをしてようやくそれを手に入れたユリアナとは違う。


(あげれば他にもあるけれどこれ以上はわたくしが惨めになるだけだわ)


首を振って気持ちを切り替える。

最高級の座席は身体的な意味で疲れさせることはしないが精神的な意味であればここは最高に疲れる空間だ。


早く終われ、そう祈ると長々と話していた学長がようやく話を終え生徒代表の挨拶に移る。


呼ばれて席を立つのは横の席の青年。


ハインリッヒ第一王子である。


「入学おめでとう。今年は我が妹のユリアナも入学する、新入生の君達には未来の我が国を担う人材になることを期待すると同時に妹と仲良くやってほしい」


にこやかな顔で壇上に上がり挨拶をする。

恐らく女子生徒は目を輝かせていることであろう。完璧な第一王子は狂い姫さえもご心配なさっている。なんてお優しいことだろうかと。そう思っているのだろう。


(馬鹿らしい)


何が一番腹が立つか、それはハインリッヒが本気でそう言っていること。

彼は本気で妹のユリアナの身を案じてそう発言した。


(お前が兄なんかじゃなければ、お母様は病まないで済んだかもしれないのに)


王妃と王女の心を犠牲にして立つその王子は、ユリアナにしたら悪魔そのものだ。




***





入学式が終わるとハインリッヒは席を立ち、当然のようにユリアナに話しかける。


「ユリアナ!入学おめでとう」

「口を閉じなさい、下賤。わたくしはお前に名前を呼ぶ権利を与えていません、尊称で呼びなさい」


普段から狂い姫と呼ばれる(ように振る舞っている)ユリアナはあくまで傲慢なだけの王族である。

高位の貴族にはそれ相応の態度で接するし、理不尽ではあれども刑に処すようなことはしない。


ただ、兄のハインリッヒを除いて。


彼女は狂い姫のペルソナを着けていない素の時はプライドは高いものの冷静沈着で温厚だ。けれどその時でさえもハインリッヒを兄と呼ばれることを嫌がる。


この態度が過剰であると理解していても彼女は心からハインリッヒが嫌いだから、ユリアナの横暴性を増した状態で接するとなれば(おとし)め、(けな)し、その存在を許さない。


「けれどユリアナ、僕たちは兄妹なんだから」

「名を呼ぶなと言ったでしょう。今後、わたくしのことを名前で呼んだり兄妹などと戯言を吐いた場合直系王族に対する不敬罪で拘束させます」


そう言い放つと、いつのまにか来ていたアルファに声をかけられる。


「姫様参りましょう。ここにこれ以上いる意味は御座いません」

「…ええ、そうね。下賤、今の言葉ゆめゆめ忘れることのないように」


その場にはただ立ち尽くすハインリッヒのみが残された。





***




「シナリオ通りだったわね」


入学式から寮に帰ってきて、当然のように横に控えるスキアに文句を言った後(俺は姫さんの従者なんで一緒にいるのは当然です、と言われて言い返せなかった)ソファに座って寛いでいたユリアナはそう呟く。


「シナリオって…例の乙女ゲーム?のですか」

「ええ、わたくしとマティルダとノーリッジ(魔法騎士団長子息)セント(聖教会教主子息)が同じSクラスだったでしょう?」

「俺もですけどね!」


スキアはドヤ顔で自分のSクラスを自慢する。

調べようと思えば調べられたが、それじゃあ面白くないからと今日の今日までクラスは知らず、発表の際は思わず小さくガッツポーズをしていたほどだった。


「お前の存在はイレギュラーだからわたくしがわざわざ圧をかけてのSクラスなのよ。お前の成績通りだとギリギリ落ちていたもの」


と、ユリアナは裏事情を暴露する。

その事実に思わず膝から崩れ落ち、床を叩いて


「クッソ、やっぱり筆記が悪かったか…!」


と喚き出した。


「首席を取れって言ったのになんでギリギリ落ちるのよ」

「うぐっ…」


呆れた、とユリアナに言われスキアは思わず床に崩れ落ち、わざとらしく泣き真似をはじめる。

アルファ、とユリアナは声をかける。すかさず即死級の一撃がスキアの脳に直撃した。


「お、お前!兄に対して手加減とか」

「姫様が許可されたので。兄さんはうるさいので死んでください」

「妹が酷すぎる?!」


即死級の攻撃を受けてなお文句を言えるほど元気であるスキアの異常性には誰も突っ込まない。それがこの3人の中では常識であったためだ。


「…あれ、俺はイレギュラーなんですか?」


なんやかんやで痛みで冷静になったスキアは先程のユリアナの言葉を反芻し疑問を口にした。


「ええ。ゲームにはわたくし(ユリアナ)に従者なんていないもの。そもそも、お前たちとわたくしが出会った原因だって無能なゲームのユリアナなら起こし得ないもの」

「…ならあなたはゲームの中で味方もなく一人だったんですか?」

「そう…なるのかしら?」

「姫様!今の姫様には私も不本意ではありますが兄もおりますので!」

「ふふ、そうね。頼りにしているわ」


本当に嬉しそうにそう笑うものだから、黒髪の兄妹は何も言えずに黙ってしまった。

例えそれが作られた笑顔だと理解していたとしても。


お読みいただきありがとうございました!

モチベに繋がりますので、下の評価欄より星1〜5の評価をいただけると嬉しいです。


ユリアナの腹違いの兄、ハインリッヒの初登場です。

彼は本当にユリアナを心配しての発言ですが、彼女の本心も力も覚悟も何も知りません。彼の中では守るべき弱い妹でありそれが余計彼女を傷つけることを知らない。彼は何も知らない。


次回更新は明日18時です。

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