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1.悪役王女ユリアナ


2021/03/19 大幅な改稿を行いました。話の内容に変更はありません。



「ねえ、わたくしが転生した人間と言ったら信じる?」


美しい少女は誰もいない空間に向かって突然そう問いかけた。

侍女は隣の部屋に控えており、正真正銘少女しかいないこの部屋。少女の視線は天井を向いている。


彼女は国王と正妃の間に生まれた唯一の子、第一王女ユリアナ。数ヶ月後には成人年齢である16歳の誕生日を迎え、次期王座が確定しているはずであるにも関わらず、未だ立太子していない。というのも、我儘王女と名高く王に適性がないと判断した現王が立太子を渋っているというのが専らの噂である。王妃もユリアナが10歳の時のお披露目会を境に体調不良で臥せっていることからユリアナの心労が祟ったせいと言われるほどだ。


血統第一主義の大貴族でさえ公爵家出身の母を持つユリアナではなく、子爵家出身の側妃を母に持つ第一王子ハインリッヒを推すものもいるほどだ。一応、準王族と言われる公爵家と一部の上位貴族がユリアナを推しているお陰で辛うじて王女としての体裁が保てているが、民衆からの評判はあまり良くない。




「転生ってあれですか。聖教会が認めた聖人にのみ神からもたらされるという、再び生を歩める奇跡とかいうやつですか」


その瞬間、ユリアナの視線の先。天井からひょっこり黒髪の青年が現れた。

音も気配もなくの所業であったがユリアナは特に驚くことはなく、その様子から青年の期待していたようであった。


「ええ、それで間違ってないわね。で、信じるの?」

「そりゃあ、姫さんは最も尊いお生まれですし、いずれは聖人と認められるお方。当然信じます」

「スキア。余計な言葉はいらなくてよ」


にこやかにそう言ったスキアと呼ばれた青年にユリアナは顔を顰める。それが本心からの言葉ではなく適当に良さそうな言葉を繋げただけのものだと理解しているからだ。


「つい先日も聖教会のことを散々こき下ろしていた神をも恐れぬ姫さんが転生するなんて本当のことなら世の末だなと思ってます」

「お前、それ不敬だと理解していて?けれど聖教会は神の意志とか言って政治にも干渉してくるし、無駄に民からの信頼も厚いから邪魔なのよ。かといって排除できるわけでもないし」

「ほら、そういうところですよ」

「神を信じることと教会をどう思うかは別の話よ」

「…まあ、俺に対して姫さんが嘘をつくとも思えないんですよね。で、姫さんの前世はなんだったんですか?蛇ですか?」

「噛み殺してやってもよくってよ」


睨みを効かせるユリアナにスキアは両手を挙げ降参の意を示す。

その様子に毒気を抜かれたのかため息を一つ吐き、ユリアナは前世を語る。


「こことは違う世界の人間だったの。今とは違って平凡な女だったわ」

「姫さんの前世が平凡…?嘘だぁ、こんな恐ろしい王女がどうなれば平凡になれるんですか」

「昔は昔、今は今。記憶があっても別人よ」

「まあ確かに。伝記を読んだところで影響は受けても偉人そのものにはなりませんしね。それで?」

「この世界は前世やっていた乙女ゲームの1つに酷似しているの」

「オトメゲーム…なんですかそれ」

「平凡な女の子が見目麗しい男性と出会って恋を育むゲームよ」

「姫さん、前世でそんなのやってたんですか…?」

「知らないわよ、はっきり覚えているわけじゃないし。ここからが大事なのだけれど、そのシナリオの通りだとわたくし死ぬのよ」

「………はい?」


シナリオはこうだ。

庶民のマティルダは類い稀な光属性を持つことから、貴族ばかりの魔法学園に唯一の庶民のSクラス生として入学し、見目麗しく揃いも揃って高位貴族の攻略対象と出会い恋を育む。

そこで邪魔になるのは第一王女ユリアナ。彼女は光属性同様希少な闇属性の魔法を持つもその魔力量は少なく、魔法を発動できない。

そこで庶民なのに自分と違って『特別な』彼女に嫉妬し、陰湿なイジメを繰り返す。

しかし最後には攻略した男性とともにユリアナを断罪。ユリアナは処刑されめでたくハッピーエンド。王座は優秀な第一王子ハインリッヒが継ぎ王国は長く栄えることとなる。



「色々突っ込みたいところはありますが……。とりあえず攻略対象ってのは誰のことなんですか?」

「ハインリッヒ、宰相子息、魔法騎士団長子息、聖教会教主子息ね。隠しキャラもいるけどまあ…必要ないし」

「え、第一王子殿下ならともかくとしてたかが一貴族に過ぎない宰相子息やら団長子息やらが仮にも王女たる姫さんを断罪?しかも聖教会子息だなんてかんっぜんに国政に干渉してるじゃないですか」

「ハインリッヒが許可したのよ」

「いや、第一王子殿下も姫さんより年長とはいえ立場は下ですよね?たかだか庶民を虐めた程度で自分より立場が上の姫さんを処刑ってどんな権限を持ってそんな…あの国王が許可するわけなくないですか?」

「そんなのご都合主義よ。気にしたら負けだわ」


ユリアナはあっけからんと言い放つ。

確かに、この世界で生きある程度の事情を知っているスキアからすればこんなめちゃくちゃ(・・・・・・)未来(シナリオ)はどう頑張っても推測ができない。それならばなるほどユリアナの言う通り多少無茶苦茶な設定でゴリ押ししたとしか考えられない。




「で、姫さんはどうなさるつもりですか。これから『いい姫』にでもなって死ぬことを回避しますか?」

「何を今更。わたくしは絶対に王にはならない。そのためには自らを犠牲にすることもやぶさかではない。そう以前にも言ったはずよ。ハインリッヒが継ぐシナリオがあるならば、わたくしはそれに従うわ」

「…俺は、姫さんの願いを叶えたいですが、死んで欲しくはありませんよ」


苦しそうな顔をするスキアに、平然な顔でユリアナは言った。




「知ってるわよ。そんなこと」






***





「さて姫さん。魔法学園の入学試験会場なわけですが」

「これ、わたくし行く必要あるのかしらね。何がどう転がっても1番上のSクラスでの入学は決まっているのに」

「俺のためって思ってくださいよ。ただの従者である俺は普通にテストに受からなきゃいけないんですから」

「なんで従者のために王族が出向かなきゃいけないのよ。おかしいでしょう」


周りに聞こえないようひそひそと小声で話すユリアナとスキア。

ここは魔法学園内の試験会場。王族たるユリアナも例外なく参加する。たとえ入学だけでなくクラスがすでに決まっていたとしても。


今日はスキアは隠密ではなく第一王女付き従者として試験を受けにきている。スキアの黒い髪と瞳は王国人どころか世界中見渡してもスキアと彼の双子の妹以外に持ち得ないため非常に目立つ。それはユリアナの本意ではないため、今は魔法で栗毛色の髪と緑の目というありふれた色彩に変えていた。


「第一王女殿下だわ」

「あの従者、庶民出身でなにをしても許されるからと姫様のお気に入りになってしまったとか」

「姫様といえば、先日もお気に召さないドレスを持ってきた商会を潰されたとか」

「しっ、おやめなさい。聞こえたらどうなるか」


彼女らを見て貴族の子女たちは噂する。ユリアナはあまり社交界に出る方ではない。だからこそ事実が誇張され、ユリアナの悪評を増やす。ユリアナ自身が一切否定しないのも余計それらを広がらせる原因となっている。

ちなみに例の商会は、詐欺事件との関連が発覚したために取り潰しにあっただけである。その立件にスキアは関わらせたが、それだけだ。


「…目立ってますね、俺たち。髪隠す必要あったんですかね」

「お前という存在は目立っても個人に注目は集まっていないでしょう?」

「表現が難しすぎじゃあありません?」


ユリアナはこの話は終わりだとでも言うようにため息を一つつく。




「さて、行くわよスキア。やるからには1番…は都合上取れないけれど」

「本来の姫さんの力を発揮した瞬間、姫さんのイメージは540°変わりますからねぇ」

「180°じゃないの?」

「正反対になってさらに一回転するので180+360で540です」

「…よくわからないけどいいわ。わたくしは『下から数えたほうが早いけどビリではない』を目指すわ。スキア、あなたは全力でおやりなさい」

「武術試験もですか?」

「そこはセーブしなさい。でも主席は狙って」

「…めんどくさいっすね」

「黙りなさい。これも国のためなの」

「わかりましたよ、奴隷姫」

「それ、余所で言ったらわかっているでしょうね」

「言った瞬間俺の首が物理的に飛ぶこと請け合いですね」


奴隷姫、これはスキアがユリアナにつけた名。スキアに言わせれば、彼女の生き様はまるで奴隷だから、だそうだ。

それに対し、ユリアナは否定するようなことはしない。ただ他所で言うなと念を押すだけだ。


「これより、魔法学園入学試験を開始する!呼ばれたものから来て試験を受けるように!」

「一斉にやればいいのにね」

「姫さん、今から試験されるのは魔法行使能力です。一斉にやれるようなものじゃないんですよ」

「知ってるわよ。どうせわたくしは部屋に通されてそのまま退出するだけなのよ」

「さすが王女」

「黙りなさい」




「でははじめにユリアナ第一王女殿下、会場においでくださいませ」

「こういうのって身分順に呼ばれるのよね。じゃあ行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませ、姫さん」







「ドキドキするなぁ。まわりも貴族様ばっかりだし。失敗したらどうしよう」


お供のスキアと離れ、ユリアナは1人試験会場の部屋に向かって道を開ける受験生の間を悠々と歩いていると、庶民が集まっているあたりから声が聞こえた。

その声は、誰かに向かって話しているわけではないらしい。

ずいぶんと独り言が多い庶民だ。

…いや、このセリフは聞いたことがある。


視線を向けると、そこにはオーロラピンクの髪を持つ少女がいた。

見覚えがある。それも前世で。画面の向こうにいた彼女はー乙女ゲーム(この世界)の主人公。


ユリアナは目をスッと細め視線を外し、何事もなかったかのように歩く。


「殿下、いかがされましたか」

「気にしないで頂戴」



「この子さえいれば、この国は…」


ユリアナの目は、遠く未来を見ていた。


お読みいただきありがとうございました!

モチベに繋がりますので、下の評価欄より星1〜5の評価をいただけると嬉しいです。


ユリアナの行く末を見守っていただけると幸いです


次回更新は明日18時です

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