第二章 反董卓連合、立つ(二)
洛陽科学研究所……
この施設では、各地から名だたる科学者たちが集まり、多くの部門に分かれて、兵器や新薬の開発・研究が行われていた。
また、発掘された古代遺跡の研究なども行われている。
最も……ここ数年は宦官による腐敗により、他の官職と同様賄賂で地位が売り買いされるようになり、
回される予算も私利私欲に耽る者たちによって浪費され、ほとんど研究所としての機能を果たしていなかった。
しかし、董卓によってそんな無能な官僚たちが一斉に粛清・追放され、新たな研究者たちが主任になってから、少しずつであるが本来の機能を取り戻し始めた。
そして……生物部門の主任に任命されたのは、生物医学で高い功績を残した陳宮であった。
彼の主導の下、この施設では数多くの生体実験が行われた。
その目的は、種の交配、薬品の注入、肉体の改造によって、より強力な生命体を生み出す事にあった。
漢王朝が隆盛していた頃は、倫理的な問題で禁忌とされてきた人体実験も、今は頻繁に行われている。
董卓に逆らった罪人や、貧しさのあまり身を売った民が主な実験体となっていた。
「う、うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ――――――っ!!?!?」
馬上で悲鳴を上げる一人の武将。
彼が跨っている馬は、何とも異様な姿をしていた。
まず、一般的な雄馬よりも一回り大きく、筋肉で膨れ上がっていた。
全身は血を浴びたように真っ赤で、馬だというのに、まるで肉食獣のごとく蹄は尖った爪と化し、口には鋭い牙がびっしり生え揃っている。
常軌を逸した速度で、四方を壁で囲まれた空間を走る赤い馬。
武将は必死で馬にしがみついていたが……
やがて馬の加速に耐えかねて、振り落とされる。
宙を舞う武将の体は、地面に叩きつけられ、骨が折れる音が聞こえる。
鉄程度に頑丈な武将の骨を折るぐらいだから、それだけ馬の加速が凄まじさを物語っている。
「あ〜あ……また駄目かぁ……」
壁に開けられた格子戸から内部の様子を見ていた陳宮は、ため息を漏らす。
「やはり、無理があったのでは……」
「“赤兎馬”の能力は常軌を逸しています。乗りこなせる武将などとても……」
陳宮の部下である研究員たちが、揃って進言する。
彼らは普通の人間なので、少年か少女といった容貌の陳宮と比べると大人ばかりである。
陳宮は眼鏡の奥の瞳に失望の色を浮かべる。
「前に試した人は、加速時の重力で心臓が潰れて死んじゃったんだっけ。
それよりはマシだったけど……」
「ひ、ひぃぃ……」
落馬した武将の下に、赤い馬が近づいてくる。
鼻息荒く、牙の間からは涎が滴っている。
馬は、ゆっくりと武将に首を近づけ、その顎を開くと……
「ぎゃぁぁああああぁぁぁああぁぁぁぁあぁっ!!!!」
馬が生きたままの人間を喰らう凄惨な光景に、他の研究員は思わず目を背ける。
大した感慨も無さそうに見ているのは、陳宮だけだ。
“赤兎馬”は、陳宮が得意の生物改造技術で生み出した魔獣馬である。
武将の血と幻獣の細胞を用い、筋力増強剤など無数の薬品で強化した結果、肉食獣と馬の特質を併せ持ち、それらを凌駕する凶暴性と機動性を備えた、合成獣が誕生した。
人肉を主食とする幻獣の細胞を移植された為か、馬でありながら肉食動物で、見たとおり肉と見れば人間だろうとその牙で噛み砕き、捕食してしまう。
筋力と瞬発力は常軌を逸しており、武将の腕力を持ってしても容易に抑え付ける事はできない。
ゆえに、並みの武将では到底乗りこなせない怪物に仕上がってしまった。
「一個の“兵器”としては申し分ないのにな……
全く、みんな大した事ないねぇ」
これまでに、赤兎馬に人を乗せて走らせる実験で、十人の武将が死亡している。
七人は落馬の際の衝撃や、加速に耐え切れず心臓麻痺を起こして死に、運よく生き残った者も、先ほどのように赤兎馬の生餌になった。
そしてついた仇名が“武将殺し”である。
しかし、それについて、陳宮が心を痛めることなど一切ない。
陳宮は彼らの事を、実験に使う消耗品程度にしか考えてなかった。
そんな事より、自分の造った実験体が、どれだけの能力を発揮できるか……関心はその一点のみだった。
「これは人を乗せるための生き物じゃないですよ……
かといって単独で暴れさせても……」
一度箍の外れた赤兎馬は、野に放たれれば見境なく生き物を襲う。
戦場ならば、敵味方問わず目に付いた生き物を尽く喰らい尽くすだろう。
誰か、乗って制御する者が必要だ。その誰かが全く見つからないのだが……
「一応、僕の命令は聞くように刷り込んであるけど、
やっぱり誰か乗って戦う人が欲しいよね……」
そこで、陳宮は一人の男の名を挙げた。
「呂布殿はどうだろうか……」
その名を聞いた研究員たちは、一斉に怖れをなす。
「りょ、呂布殿でございますか!?」
「ですが……あの御方は董卓様の養子……もし万が一の事があれば……」
董卓の下す刑罰を怖れて、研究員たちは皆縮こまる。
陳宮は、実にあっけらかんとしてこう続ける。
「いいじゃない。もし呂布殿でも御しきれないなら、
それだけ僕の造った赤兎馬が凄いってことじゃないか。
それはそれで、研究成果としては上出来だよ」
「しかし……」
研究員たちも、陳宮の台詞には言葉も出ない。
陳宮の下で働いていれば、自ずとこの人物の異常性に気づくだろう。
陳宮が言うのは、いつも研究成果の事ばかり。
その過程でどれだけの犠牲が出るか、何のために研究をするのか、その結果何が起こるのか……
それらの研究に付随する要素を完全に無視しているのだ。
だから、研究成果の為ならば、どれだけ人道に背いた実験だろうと平然と行う。
己の研究以外に一切興味が無いと言わんばかりに……
「ああ、手続きの事なら気にしなくていいよ。
実はもう呼んであるんだ」
「な……何ですと!?」
陳宮の手際の良さに、研究員は眩暈を起こしそうになった。
硬く閉ざされた、実験場の門扉が開かれ、呂布が一人現れる。
四方を高く分厚い鉄の壁で囲まれたこの場所は、一種の牢獄のようなものだ。
一度入った以上、外の者の許可が無ければ出る事は敵わない。
その、逃亡不可能な檻の中で……呂奉先は、赤兎馬と向かい合った。
方天画戟は携えておらず、完全な丸腰だ。
「畜生風情に人間様が武器を使えるかよ」
とは、彼がここに来る前に言った台詞だ。
ちなみに、これまで武器を持って赤兎馬に抵抗した武将もいたが、殆ど役に立たないまま食い殺されている。
初めて赤兎馬と相対した呂布は、口許を好奇で歪ませる。
「ほう……いい面構えをしていやがる」
“武将殺し”の、まさに眼だけで人を殺すような凶悪な視線を真っ向から受け止め、余裕を保つ呂布。
「あの三つ編み眼鏡は、俺をてめぇの乗り手としてふさわしいか
試すつもりみてぇだが……勘違いすんな。
俺が、てめぇを! 俺の乗り物にふさわしいかどうか試してやんだよ!!」
呂布もまた、抑えていた闘志を解放する。
その殺気の波は、分厚い壁を隔てた研究員たちにも伝わるぐらいだ。
呂布の闘気に当てられ、赤兎馬の闘争心にもまた火がついた。
「グゥロロロォォォォォォ――――――――!!!!」
およそ馬とは程遠い咆哮を上げ、突進する赤兎馬。
筋肉質の巨躯と、そこから生まれる瞬発力。
その速度たるや、並みの武将なら掠めただけで死んでしまうだろう。
規格外の重量に速度が上乗せられる事で生まれた膨大な圧力が、呂布を襲う。
轟音が鳴る……
壁の外の研究員は、固唾を飲んで見守っていた。
粉々に砕け散る呂布を幻視したものもいる。だが……
「ハッ!!」
赤兎馬の突進を、呂布は左の掌で受け止めていた。
腕が折れるどころか……
掌は赤兎馬の頭を掴み、暴れる赤兎馬を押さえつけている。
陳宮は、赤兎馬の体重と速度を瞬時に計算、それを使って呂布の握力を割り出す。
その結果算出されたのは、どんな研究者も目を疑うであろう数値だ。
左手で赤兎馬を抑えたまま、右の拳を握り締める呂布。
そして、腰を捻って、赤兎馬の顔面に正拳突きを叩き込んだ。
「ヒャハァッ!!」
型も何もない、ただ無造作に放たれた拳打。
だがその一撃は……
「ヴァアアアァァアアァァアァッ!!!」
顔面にめり込み、振り抜いた時には、赤兎馬の巨躯を吹っ飛ばしていた。
研究員達は、蒼ざめた顔で眼前の光景を見やる。
物理と科学を奉じる彼らにとって、赤兎馬に比べて遥かに矮躯の呂布が、自分の倍以上の重量の生物を拳一発で吹っ飛ばすなど、あってはならぬ事だからだ。
改めて……武将という存在の神秘を思い知らされる。
だが、陳宮は、割と落ち着いた様子で見守っている。
「この程度……呂布殿の戦いを見ていれば簡単に予測できる事さ。
驚くほどの事じゃない」
あの、董卓と呂布が始めて邂逅した一戦を、陳宮は一秒たりとも忘れてはいない。
二人の攻防の流れは勿論……
両者の微妙な筋肉の動きなども、1ミリ単位違わず正確に記憶していた。
加えて、彼の頭脳は、武将の戦いぶりを見ただけでその筋力や瞬発力、あらゆる肉体のデータを正確に割り出すことが出来る。
科学者として生きる為に授かった、奇跡の脳髄の持ち主だ。
「むしろ僕にとって意外だったのは……赤兎馬の方だよ」
「ヒャ……ヒャハハハハハハハ!!!やるなぁ、馬公!!」
呂布は、楽しそうに笑い出すと、今迄赤兎馬を押さえていた左腕をかざす。
彼の左手は、痛々しい噛み傷が穿たれており、血が滴っていた。
「こ、これは……!?」
「呂布殿が右の拳を放つのに、一瞬だけ左の掌による拘束が緩んだ。
その隙を狙って、赤兎馬は呂布殿の左腕に噛み付いた……」
先ほどの攻防を、見逃すことなく捉えていた陳宮が解説する。
「一矢……いや、一歯報いたというべきかな。
やるねぇ……さすがは僕の造った赤兎馬だ」
「そして、俺様を後ろに下げたのは……
あの董卓に続いて“二体目”だ」
董卓もまた一体の獣であるかのように語る呂布。
地面を親指で指し示す。
呂布の足下の地面には、二条の抉れた痕が残っている。
赤兎馬の突進を受け止めた際、全ての圧力を相殺しきれずに、体が後ろに下がってしまったのだ。
一体何年ぶりだろうか。この自分が、痛みという感情を覚えたのは。
「いいだろう……俺様が乗ってやる価値はありそうだ」
そういった瞬間、呂布の姿が掻き消えた。
飛蝗が人間サイズになったぐらいに跳躍した呂布は、そのまま赤兎馬の背中に飛び乗る。
「グルゥゥオオオオオオオオオオオッ!!!」
闖入者の存在を知り、全身を躍動させて暴れ出す赤兎馬。
何とか呂布を振り落とそうとするが、呂布は赤兎馬の身体を確りと掴んで話さない。
「ヒャハハハハハ!!暴れな暴れな!!」
彼は、自身を襲う激しい震動を、愉しんでさえいるようだ。
馬に乗る者の中には、そういった楽しみを見出す者もいるが……赤兎馬の場合は、まるで次元が違っていた。
落馬すれば、即死に繋がる状況である。
それでも呂布にとっては、ただの刺激的な遊戯に過ぎない。
「ヒャハハハハハハ!!どうしても俺様をご主人様と認めないつもりかぁ!!」
心底楽しそうに哄笑する呂布は、赤兎馬の首に両腕を回す。
そして、そのまま裸絞の要領で絞め上げた。
「グゥロロロロォォォォォォン!!!!」
嘶く赤兎馬。その暴走は更に激しいものとなるが、呂布は全く体勢を崩さない。
絞め上げられた赤兎馬の首に、無数の血管が浮く。
赤兎馬の大木のように太い首を軽々と絞め上げる呂布が凄いのか……
呂布の大木すらへし折る腕力に耐え切れる赤兎馬が凄いのか……
「だったらそれでも構わねぇ!!
俺はてめぇを力ずくで屈服させてやる!!
もし俺がてめぇより弱くなったら!!
殺すなり喰うなり踏み潰すなり、好きにしろや!!ヒャッハ―――――ッ!!!」
「ヴァオォォォォォォォォォン!!!」
暴れるだけだった赤兎馬は、いつしか壁の中を駆け始めた。
あたかも、呂布が赤兎馬を乗騎としているように見える。
信頼関係も欠片もないただの暴力で、呂布は赤兎馬を制御しているのだ。
「赤兎馬っつったなぁ!!てめぇもこの狭ッ苦しい世界が不満なんだろ!!
だったら俺様と暴れようぜぇ!!
好き放題、やりたい放題によぉ――――――ッ!!」
「グァァラォォォォォォォォォン!!!」
鬼は鬼を知るのか。呂布は赤兎馬の鬱屈した感情を理解していた。
実験体として生み出され、狭い檻の中で走り回り、惰弱な乗り手を振り落としては、その肉を貪る毎日……
こんなものではない。自分はこんなものではない。
内なる闘争本能が、殻を破ろうと日々内燃を繰り返している。
そして、その殻を外から砕き割ったのが……呂奉先という男だった。
怪物として生まれた自分を乗りこなせるのは、同じ怪物である呂布のみ。
だからといって、両者の間に友情や信頼が芽生える事はありえない。
彼らの関係は、互いの暴力が相殺し合う事で、いずれも死なない状態を保っているだけの事なのだ。
僅かでも均衡が崩れれば、どちらかが屍と化す運命……
だが、それが彼らに最も相応しい関係。
呂布も赤兎馬も、ただ自分以外の全てと争い殺すためだけに存在しているのだ。
赤兎馬に跨った呂布は、実験場内部を何度か周回した後、進路を変えて突き進む。
その先には、ただ壁が立ちはだかるのみだった。
「な、何!?」
「ま、まさか!!?」
呂布がやろうとしている事を直感し、戦慄に凍りつく研究者たち。
果たして、彼らの読みは当たっていた。
「ヒャッハッハッハッハッハ―――――――ッ!!!!」
「ギャロロロォォォォォォォォォン!!!」
神速の槍と化した赤兎馬は、全身の力で壁にぶち当たる。
乗り手によって限界まで闘争本能を引き出され、
さらに呂布の覇気を上乗せした突進は……
堅牢な壁を打ち破り、その身体を外の世界へと勇躍させた。
それは、赤兎馬があの実験場から始めて外に出た瞬間であった。
「ヒャハハハハハハハハハハ―――――――ッ!!!」
実験場から飛び出した呂布と赤兎馬は、そのまま直進方向へと駆け抜けていった。
ありえない事が起きてしまった。
実験とは、安全な環境を整えた上で行うもの。
どれだけ危険な猛獣が相手だろうと、分厚い檻の中に入れていれば、研究者たちの安全は保たれる。
それが研究を行う上での常識だ。
だが、その常識は、今目の前で砕け散った。
絶対に壊せず、乗り越せないものとして造られた壁が、破壊されてしまったのだ。
これでは、研究における前提が根本から覆されたのも同然だ。
皆が蒼ざめているにも関わらず……
陳宮だけは、眼鏡の奥の瞳を輝かせている。
「すごい! すごすぎる!!
あの壁を乗り越えるならまだしも、粉々に破壊してしまうなんて!!
今までの赤兎馬じゃあ絶対に不可能だったことだ!!
呂布殿だ!呂布殿は、あの赤兎馬の潜在能力を更に引き出したんだ!!」
自分の計算を超えた事に、陳宮はただただ感動している。
これから起こるであろう大惨事を、彼は理解しているのだろうか……
研究員は思わず声を荒げて叫ぶ。
「そ、それどころじゃありません!
あ、あんな化け物が外に解き放たれてしまったら……」
研究者たちの危惧は、まさしく現実のものとなる。
「ヒャハハハハハハハハハハハ――――――――ッ!!!!」
赤兎馬に乗って宮中を駆け巡る呂布。
彼の頭に、障害物を避けて進むという良識は無い。
進路上に何があろうが、ただ破壊するだけだ。
それが生きた人間であっても……
何も知らぬ文官や宮女、そして取り押さえようと集まった兵士達も、赤兎馬に触れたが最後、身を砕かれ、血塗れの亡骸と化して床に転がった。
宮中を吹き抜ける一陣の暴嵐。
宮殿は、死を運ぶ魔馬の駆ける地獄と化した。
赤兎馬の脱走という緊急事態を迎えながら、まるで意に介した様子の無い陳宮に、研究員たちは一斉に詰め寄る。
「早く赤兎馬を止めないと!!」
「陳宮殿ならば、赤兎馬に命令を下せるんでしょう!?」
「大体、最初から無茶な実験だったんですよ!!」
「ああ……これでこの研究所もお仕舞いだ……!」
激昂する者、悲嘆する者、落胆する者と反応は様々だが、
皆日ごろの陳宮の対する不満を一斉に爆発させている。
そんな、研究員たちの叫びに対して陳宮は……
「黙れよお前ら!!」
居並ぶ研究員達を一喝する。
今の陳宮は、普段のどこか無垢であどけない表情を完全に捨て去り、
己の研究を至上とする、狂気の容貌を顔に張り付けていた。
「いちいち五月蝿いんだよお前らは!!
僕の研究のお零れで飯を食っている分際で、この僕に意見するんじゃない!!
今の赤兎馬を見ただろ!あれを造ったのは僕だ!
僕の研究の素晴らしさが、今証明されたんだ!!
そのために、ゴミクズみたいな人間が
何十人何百人死んだところで大した損失じゃあない!!
いいか!研究に犠牲はつきものなんだよ!!
犠牲が怖くて研究をやめるなんてのは芋虫にも劣るただの臆病者だ!!
そんな事も理解できないからお前達は三流五流のままなんだ!!
お前らみたいな無能で役立たずなボウフラどもを
この僕が助手として使ってやっているだけで身に余る光栄だというのに、
感謝するどころか意見するとは何様のつもりだ!!
いい加減にしろよお前ら! 僕をいらつかせるな!!
この僕の頭脳を研究以外のことに煩わせるのが、
人類にとってどれだけの損失か分かっているのかゴミ蟲ども!!
僕は天才なんだよ!この世界じゃあ、頭の出来が全てなんだよ!!
僕に逆らうな! 僕に従え! わかったかこの低脳どもが!!」
あらん限りの罵言を一気にまくし立てる陳宮に、研究員たちは圧倒される。
これで実力行使に訴えても、相手はまがりなりにも武将……
腕ずくでどうにかできる相手では無い。
一気に喋り倒した為か、陳宮は荒い息を吐いている。
ようやく落ち着いた時には、口許に悪戯めいた笑みを浮かべ、こう続ける。
「ふふふ……呂布殿と赤兎馬……
彼らはもっともっと進化する……いや、僕がさせる!!
君達をあらゆる生命の頂点まで、この僕が押し上げてあげるよ!!
その時こそ、僕の頭脳が至高である事が証明されるんだ!!
あはははははは!! あははははははははははは!!!」
高笑いを続ける陳宮。
この者の脳髄には、膨大な知識と研究への執着、
そして、己が頭脳を至上とする天井知らずの自尊心しか詰まっていなかった……
最終的に、赤兎馬の暴走によって合計45名の死者が出た。
宮中でこれだけの惨事を引き起こしたにも関わらず、董卓の養子である呂布は、全くお咎め無しで済まされた。
正式に呂布の乗騎となった、赤兎馬も同様である。
それでも、全く責任を追及しないわけにはいかなかったので、赤兎馬を生み出した生物科学部門は閉鎖となり、職員は全員罷免された。
ただし陳宮だけは、赤兎馬の管理係として残ることを許された。
それどころか、新たに独自の研究施設を与えられ、前以上の権限を持つようになった。
赤兎馬を手にした呂布は、さらなる凶悪な武威を誇るようになり、叛乱を起こした北方の異民族を、瞬く間に討伐して見せたという……