約20年間ラジオ番組にネタ投稿し続けた日々の、ほんの数日の事
◇◇◇ ステッカーは免罪符 ◇◇◇
自宅アパートを出る際は、必ず集合ポストに目をやるクセがついている。ラジオ番組や雑誌でネタやメールが採用されると、ほとんどの場合ノベルティグッズがプレゼントされるのだが、多くは番組ステッカーだ。予算の少ないラジオ番組にとって、封筒に入れて普通郵便で郵送出来るステッカーが定番となっている事は、あたり前田のクラッカー!
ポストを開けてみると消費者金融からの「おいおい!オマエさんよ。今月も支払い遅れてるんだけど、どうなってんじゃ?ボケがっ」という暴言を大人の表現方法に落とし込んだ「請求書」という郵便物に混じって、2通のステッカーが届いていた。1通は赤坂方面、もう1通は有楽町方面の放送局からだ。
「これっ、これっ、これっ~!」
これだけで今日1日は幸せな気分で過ごしていける。パーソナリティーが発行してくれた免罪符みたいなもんだ。
家族にバレないよう、極力郵便物は自分で回収するようにしている。たまに親に見つかって「アンタ、なんの仕事してんの?ラジオとか放送局とかから荷物届くけど、タレントでもやってんのかい?!」とか言われるんだよね。
やってねーわ、俺、いくつだと思ってるんだよ(笑)
あ、消費者金融からの延滞を催促する通知に関しては綺麗サッパリ脳内から消去してくれました。恐るべし!免罪符の力。これから早朝5時までのアルバイトを乗り切るだけの力を与えてくれた。ありがとうステッカー。
◇◇◇ 深夜1時はゴールデンタイム ◇◇◇
深夜1時、通い慣れたコンビニの駐車場に車を滑り込ませた。配達の途中、ここで休憩を取るのが毎日の定番だ。ドーン、左前のタイヤから少し大きな衝撃が伝わってくる。
「あっ、ヤッベ、忘れてた」
腐るほど利用しているコンビニだが、車道と縁石の段差が大きい事をつい忘れて侵入してしまい一人でパニクる展開、デジャブーのようだ。
いつものように、道路側から数えて3番目のスペースに止めようと眼をやると、まるで今にもトランスフォームして半径30メートルくらいは一瞬で破壊してしまいそうな大型四輪駆動車が鎮座している。
「チッ、3番目がいちばんクリアに聞こえんだよなぁ」
小さく舌打ちをして、2つ隣の空きスペースに車を止めた。軽のワゴンは、多少無神経に突っ込んでも枠内に収まるから楽でいい。
カーステレオをCDからAMラジオに切り替えると聴きなれたタイトルコールに続いてオープニングテーマが車内に鳴り響いた。オープニングテーマがBGMレベルに下がり始めた瞬間、勢いよく発せられたパーソナリティーの一言目は最近逮捕された俳優を揶揄する言葉だった。さすがお笑い芸人。今週ワイドショーをにぎわせた時事ネタをオープニングトークに持ってきた。笑いながらもこの番組での自分のポジションを把握している相方が「あの~、それ生放送で言っちゃダメなヤツだから……」と、心にも無い一言を添えてケタケタと笑い続けた。
「ぜってぇ、思ってねーだろ(笑)」
僕は車内で一人きりというのをいい事に、少し大きな声で口にした。まるで気が置けない友人に発する言葉のように。
パーソナリティーの軽妙かつ毒性を含んだトークが流れ続け、無邪気に笑いながら本日募集するメールテーマを読み上げた。思った通り、この場所はノイズが多く聞き取りにくい。
リュックのポケットからスライド式のガラケーを取り出し、本日のメールテーマに関するエピソードを打ち始める。今どきガラケー使ってるの? なぁ~んて事は言われ慣れているが、物理キーのガラケーは手放せない。
「1通目は迷わない!」
これがいつものルーチーン。細かい事は気にせず、最初に思いついたものを短めにサクサクと打ち込んでいく。最後に送信ボタンを押す前は、必ず送信先を再確認。
色々な番組にメールをしているとウッカリ送信先を間違えて、若い女性アイドルのさわやかな番組に中年男性でもドン引きするような超ドシモネタを送ってしまうという、クッソ恥ずかしいハガキ職人あるあるを経験をすることになる。送信ボタンを押した事を確認して、今度はタブレットからネットラジオのアプリを起動する。
2通目のメール内容を考えながら小走りで店内にかけ込み、ブラックサンダー、ホットロイヤルミルクティーを手に取りレジに差し出すと、初めて見る男性店員は不機嫌そうで合計金額以外、何も言葉を発しない。眠いのだろうか。
そして、小さなビニール袋にチョコとホットドリンクを入れちゃった~!やっぱりねぇ、入れてくるタイプだと思ったわ、うんうん、そうだろそうだろ。若干オシャレを意識した無精ヒゲと無造作ヘアが、イライラを増幅させる。
僕は「お前みたいな愛想もデリカシーも欠如した店員は、あと2〜3年したらAIに仕事とられて、リストラされっゾ」と言ってやり、レジ前から立ち去った。もちろん、心の中で。
店員に見抜かれない所作で素早くホットロイヤルミルクティーを袋から抜き出しポケットに移した。
「こういう優しさ、配慮、オマエらには分からんだろう、うんうん」
車に戻ると、さっき起動させておいたタブレットの小さなスピーカーからかすかに聴こえてくる女性声優の声。少し舌ったらずのおだやかな声。きっとこの声だったらどんなに悪意のこもった罵詈雑言を発しても、リスナーを不愉快にすることなくネットで炎上も皆無であろう。タブレットのボリュームを上げようと思っているとツイッターに複数のリプやDMが飛んできた。
「メール採用されてましたよ~」
どうやらさっき送ったメールが採用されたようだが聴きそびれた。もちろん、自宅のPCでタイマー録音してあるので何の問題も無い。
こういう時はAMの電波で聴いている方が有利だったりする。どうしてもradikoだと30秒~40秒ほどタイムラグ、ディレイがあり、結果メール送信が遅くなるワケだ。1通目に送る事が多いベタなネタほど顕著にスピードの大切さを通関する。きっと僕とかぶったネタを送ってきたリスナーさん、ハガキ職人さんは何人もいるだろうから、今日はラッキーだった。
タブレットから流れる女性声優のラジオはオープニングからのフリートークが続いているようだ。さっきまでカーステレオから流れていた芸人さんのAMラジオとは大違いで人気声優らしい穏やかなほんわかトークが展開されている。出てくるワードも、「マカロン」とか「ハーブティー」とか、事あるごとにイチイチかわいらしい。
「くぅぅぅぅ~! 癒されるぜぇ。」
さっきまで、犯罪を起こした俳優をネタにいじり倒していたAMラジオにドシモネタのメールを送り即採用されていた自分の心、浄化されるわぁ~(笑)
ちなみに、この番組はタイトルに「レデイオ」という文字が入っているが、厳密に言うとインターネット配信番組であり、ラジオでもレディオでもない。視聴するのもネット回線やアプリが必須だし、番組によっては動画配信もされているのでテレビの感覚に近いものもある。
ここ数年、長寿番組、人気番組の終了が相次ぎ「ラジオは終わった」的な記事やニュースを見る事が多いけど、ホント?!
いわゆるAM、FM電波をラジカセみたいな機械でダイヤル回してチューニング~!グ~グ♪グ~ググ~ってのが減っただけで音声を楽しむコンテンツやリスナーは増えてるんじゃない?って思うんだよねぇ。大学生とかに話を聞くと、意外とradikoを使ってたりアーカイブでラジオや音声配信番組を聴いてたり、かなり多い。
タブレットをチラっと見てリスナーのツイートを確認すると、癒し効果を無力にする呪文が並んでいた。
「こいつバカ、ネタつまんねー」
「この職人キライ、死ね」
最近は少し慣れっ子になってきた感じはあるが、やはり同じ番組を聴いているリスナーにバカとか死ねとか言われるのはメンタルを低下させる。
数年前に初めて叩かれた時は軽いパニック障害みたいな状態になり、インターネットやSNSからしばらく距離を置いていた時期もあった。僕より何倍も面白いネタを凄い数投稿している有名職人さんの名前を検索したら、みんなある程度は叩かれたり罵詈雑言を浴びせられており「あぁ、別に僕だけじゃないって事かぁ」と少し楽になった事もある。
これ以上、自傷行為のようなプレイを続けるドMでは無いので、ツイッターを閉じタブレットのボリュームを最大にした。
女性声優のこの上ない穏やかな声が「今日はみなさんのゴールデンウィークの思い出とかエピソード送ってくれるかな? メールアドレスは」と、言い終わる前にガラケーでメールを打ち始めていた。
彼女どころか友達もゼロの非モテ人生を歩んできた僕にゴールデンウィークの楽しいエピソードなどあるわけもなく、色々な経験や情報を組み合わせ、なんとなくネタを構成していく。このネタだったらパーソナリティーが話を広げやすいんじゃないか? 他のエピソードに話しが脱線して行って面白くなるんじゃないか? そんな気持ちで作っていく。
どっかのパーソナリティーが言ってました。
「クソつまんねぇー体験談送ってくるんだったら、嘘でもネタでもいいから面白い話送ってくれよ」
まぁ、これはパーソナリティーがかなり破天荒な方だったので極端な例だが、やっぱり番組のテイストやパーソナリティーさんの趣味嗜好を考えて送ってみるのは、メールが採用される近道だと思う。
「ゴールデンウィークは一日も外に出ず、食事は全部デリバリー、ゲーム三昧の思い出しかありません」
「彼女と海外旅行に行ったら大喧嘩、そのまま空港でフラれました、トホホ」
こんなメールを手短に3~4通送りタブレットを閉じた。
再びカーステレオのボリュームを上げAMラジオに戻ると、まだまだオープニングトークを引っ張っている。
さすが時事ネタや有名人、著名人の不祥事が大好物なだけある。まだまだ話し足りない雰囲気だ。単純に不祥事をイジって終わるだけではなく、笑いやネタにしつつも真剣に考えさせられる部分をリスナーに投げかけるバランス感覚が、この番組を人気番組に押し上げた理由の一つだと思う。スイッチが入った自分も暴走モードで悪意に満ちたメールを送りまくった。採用、採用、採用。
「お~っ、もう1時半かぁ、バイト戻るかな」
猫のように軽く伸びをしてロイヤルミルクティーを口に含んだ。ヌルっ……。
車を発進させ大通りに出て信号待ちをしていると、最後に送った放送ギリギリのドシモネタがラジオから流れてきた。
「お、やったね、本日2通目の採用~」
パーソナリティーの口からは「テメェ、なんでもアリじゃねーんだぞ、こんなメール送ってくんじゃねーw」という最高のホメ言葉。対向車に眼をやると、冴えない男性が一人ニヤニヤと笑っていた。きっと彼は仲間だろう。
深夜1時はゴールデンタイム、見知らぬ誰かとつながる時間。
◇◇◇ 職人の向こう側 ◇◇◇
この日、僕はとあるラジオ番組の収録に来ていた。お客としてではない。スタッフとしてだ。ハガキ職人として有名になって番組からお声がかかり放送作家に!という、超カッコイイ憧れのアレではない(笑)
たまたま募集していたラジオ番組のスタッフに応募したら、なんか人が少なかったようでウッカリ採用され、なんとなく関わっている。
作業内容も作家業務とは全く関係なく、機材のセッティングしたり、お水やティッシュを用意したり、収録風景を写真に収めたり、まぁ、ADみたいなもんだ。テレビと違ってラジオは特にスタッフが少ないから、大手の放送局や有名番組でもこんな感じかもしれない……。
一休みしていると知り合いのハガキ職人からリプライが飛んできた。
「ハガキ職人から放送作家になった人一覧」
一番見たくない内容だ。僕はとても性格が悪くひねくれているので、ハガキ職人で大活躍、有名になって放送作家に!という身近な人間のサクセスストーリーを知ってしまうと、ストレスレベルが急上昇してしまうのだ。圧倒的敗北感(笑)むかし、好きだった女の子に「メール読まれたらお金になるの?タダ?!意味ないじゃーんw」と言われた事を思い出す。
僕はラジオに興味を持ったのも遅かったし、どう考えてもプロの作家になれるほどの根性やセンスも持ち合わせておらず理解はしているつもりだ。もう一度言っておこう。ハガキ職人からプロの作家になった人を見ると、圧倒的敗北感(笑)そして、尊敬の念を、そっと添えるプラスアルファ。
落ち込んでいると、本日のパーソナリティーさんが到着した。軽くご挨拶をしただけで、特に言葉をかわす事もなくリハーサル、本番が終了していく。
「お疲れ様でしたぁ~!」
僕は、少しニヤニヤしながら元気よく挨拶をし深々と頭を下げた。今日も言いそびれた、いつか彼に伝えよう、僕のラジオネームを。