裏切りの短剣
豪華な装飾が施されたその短剣にはある噂があった。
本当かどうかは分からない。いつからその噂が出回ったのかも。
その不吉な噂は人々を恐れさせ、誰もがその短剣を所持したがらなかった。
その噂とは、「この短剣の持ち主は必ず裏切りにあう」
曰く、この短剣を所持した王は、腹心の大臣に国を乗っ取られた。
曰く、この短剣を所持した将軍は、右腕ともいえる部下に後ろから刺された。
曰く、この短剣を所持した冒険家は、その手柄を仲間に全て横取りされた。
本当かどうかは分からない。いつからその噂が出回ったのかも。
ある時、噂や呪いを信じない成金の男がその美しさに惹かれて短剣を購入した。
しばらくして男はその噂通り、家族に裏切られて全財産を失う。
男は絶望のあまり、残された短剣を自らの喉に突き立てる。しかし、なぜか刃が刺さらない。
「私はこの短剣にまで裏切られては、どうしたらいいのだ!」
それから数年。男は再び莫大な財産を築き上げていた。
あれから男はどうにも短剣で死ぬことが出来ないため、それならばとがむしゃらに働いた。
そうするうちに彼の周囲には良い友人、良い仲間が集まり支えてくれた。
あの短剣は「悪縁を断ち切る宝剣」として今も大事に奉られている。