二話「追跡された異世界召喚者」
「そろそろ来る頃合いかと思ってたよ。おれを連れ戻しにきたんだろう」
朽ち果てた神殿の瓦礫に座り込む甲冑姿の青年は、沈んだ瞳で黒衣の男に言った。
「分かっているなら抵抗するな。大人しく首を落とされろ」
黒衣の男は巨大な刃を青年に向けている。青年もまた剣を背負っているがそれを抜く気はないらしい。
「とはいえ、この世界でオレたちの噂が広まったのは、計算外だ。もう一人のバカが失踪者たちを殺し損ねたせいだ」
黒衣の男はフードと口元を覆うスカーフをとった。汗の滴が垂れる。男はふぅと息を吐いた。
青年の姿がない。
黒衣の男は周囲をキョロキョロし、舌打ちした。
「黙って連れ戻されるわけないだろう」
青年の声が背後でした。
「このオタ野郎!」
黒衣の男は身を翻しながら、刃を構える。金属と金属のぶつかる音と火花が散った。
「おれは勇者だ」
青年は黒衣の男に刃を振り下ろす。血が飛び散る。黒衣の男の右手の小指が床を転がった。
「てめぇ、ニートだったろうがよ!」
黒衣の男は痛みに耐えながら、青年のステータスを見た。
ライフマークは24。
HP268
Lv59
黒衣の男は、警察庁が急拵えで開発した「異世界転送装置」によってこの世界に召還されたため、自力でレベル&経験値上げをするほかなく、チート召還された青年とは戦闘力に絶望的開きがあった。
「あんな家に戻るつもりはない!ハーレムを手放すつもりもない!」
青年は吼えた。
加速。
青年の剣が、真っ正面から、黒衣の男の腹部を深く、刺し貫く。
「これが…異世界召還者…か…」
黒衣の男の意識は遠のいた。
「こんな迷惑な野郎が異世界をうろつくようじゃ、おちおちクエストもやってらんないな」
青年が唾を吐く。
この野郎…と手を伸ばすが、黒衣の男は異世界「エターナル・ファンタジー」の地上から消滅した。




