十三話「魔神カズシはゲームを降りたい」
渦から解放され、轟音に打って変わったのは、静寂だった。
『やぁ、お二人さん。秋葉原のオフ会ぶりだね。君らにとっては十七年。異世界召還者の僕にとっては百年。元の世界では一年ちょっとしか経過してないっていうんだから不思議だよね』
骸骨のあしらわれた玉座から立ち、黒いマントに髑髏の仮面を被った魔神カズシは、愉快そうに笑った。
「思い出話もそこまでだ。悪いがお前には死んでもらう」
タカピィは世界最高の切れ味と言われる「龍神剣」を構えた。
「オフ会では根暗だったけど、こっち来てからは少しは喋れるようになったのね」
続いて伊織も激闘をくぐり抜けてきた「木こりの斧」を構える。
魔神カズシは『まて、まて』と両手を降った。
『つい先日、異世界つれもどし人という奴が僕のところへ来た。この世界で死ねば元の世界に戻れるらしい』
「ああ、それが何だ」
タカピィは速く戦闘したそうに苛立つ。
『僕は他人に命令や指示をされるのが嫌いで、そのときは異世界つれもどし人を追い返してしまったわけだが…』
魔神カズシは髑髏の仮面を脱ぐ。
髪の長い陰険そうな瞳をした素顔が晒され、伊織もタカピィも「ああ、あいつこんな顔だったっけ」と思った。
「僕もそろそろ現実世界に戻ろうと思うんだ。だからわざわざ戦闘しなくても殺されてあげるよ」
魔神カズシはそう言って笑ってみせた。
「どういう意味だ」
「僕はこの世界に召還された当初はラッキーと思ったよ。チートな魔神として好き勝手できるわけだからね。でも、何でも手に入る世界なんて退屈でつまらないものだよ。だったら現実世界で就職して、最初はこき使われながらも最終的に出世してやろうって思えるようになったのさ。この百年でね」
魔神カズシは鼻をこする。
「百年でねって…気づくの遅すぎだろ」
タカピィは龍神剣を地面に落とした。
「でもせっかく百年で築き上げた魔神の世界を手放すのももったいないと思ったのも事実。だから二人に気持ちよく引き継いでから僕はここを去ろうと思ったんだ」
「それ、本気?私たちを騙すつもりじゃなくて?」
伊織は警戒しながら木こりの斧を構えたまま尋ねる。
「本気だよ。いつまでもこんな甘えた世界になんていられないよ。夢はいつか覚めるから夢なんだ。人が大人になる瞬間って年齢や成人式の日なんかじゃない。厳しい現実を受け入れようって思えたときが、その瞬間なんだって思えたよ」
「やれやれ、耳が痛いな」
タカピィは地面に落とした龍神剣を素早く拾い、魔神カズシの心臓を貫いた。
「これで、ようやくあっちの世界に戻れるな?カズシよ」
ゴボっと血を吐きながら魔神カズシは笑う。
「あり…がとう…僕が消滅し…魔神ジュエリーが、七つそろったら…世界を思うがままにしたら…いいさ…この世界を支配する、効果的な方法を書いたノートが…玉座の下に…隠してある…二人とも幸運を…バイバイ」
魔神カズシは消滅。
伊織とタカピィは七つの魔神ジュエリーを手にした。
「なぁ、イオリン。俺たちは膨大な魔力を得られるわけだから、君を前の世界の姿に戻すこともできるぞ」
タカピィが言った。
「いいの。私はこのむさ苦しい男の姿のままで生きてみせる。みてこの大胸筋。旅を始めた頃は革のジャケットの中に収まってたのに、今じゃチャックを開けてないとダメだもん。男になって鍛えるってこういうことなのね」
伊織は七つの魔神ジュエリーがひとつになって二人の頭上に浮かび上がるのを見て、こんな綺麗な虹を見たことはない、と思った。




