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こんな世界でも、生きるために  作者: クウネルアソブ
一章 決意
1/3

異世界グランドール

 背中に当たるゴツゴツとした感触と、手に触れる冷たい感覚によって意識を揺さぶられながら、ユウは起きた。

 目を開けると暗闇が広がっていた。暗い。完全な暗闇というわけではない。三十メートルほど先には灯りもある。壁が光っている。全体的に光っているわけではなく、部分的に光っている。

 どこだ、ここ。洞窟……か?


 ユウの記憶が正しいなら、確か授業を受けていたはずだ。

 誘拐とか……?いや、ないか。ユウを誘拐したところで、という話だ。


 そんなことを考えていると周りからこんな暗闇にはちっとも似合わない明るい女の声が聞こえた。「うおー、ここ何処?」

 ユウはこの声に聞き覚えがあった。


ゆかり?」

「おおっ!その声はユウくん?」

「そうだけど、ここは?」

「分からない!」


 黒沢縁くろさわゆかり。仲の良いクラスメイトの一人だ。天真爛漫という言葉を体現したかのような性格をしていて、セミロングの綺麗な黒髪を無造作に伸ばしている可愛らしい女の子だ。

 ユウはこんな状況なのに元気だなあ、と思った。ユウ達の話し声で目が覚めたのか、次々に周りから声が聞こえ始めた。


「ユウ達か」「暗い」「え、え、え?」

「うんそうだよ」

「だよーっ」


 声の感じからすると順に大竹良弥おおたけりょうや錦乃美希にしきのみき倉田辰巳くらたたつみだろう。

 良弥はメガネをかけていて顔立ちもいい。そのせいか頭が良く見えるがその実、馬鹿だ。

 美希は色素が元々薄いらしく、他の人と比べて明るい髪の毛をしている。ショートカットで自分のことを何故かボクと呼んでいる。所謂ボクっ娘というやつだ。その可憐な容姿も合間って、かなりモテていた。

 辰巳は百八十センチに迫ろうかというほどの巨漢で、髪もさっぱり短いからなのか、初対面の子供なんかにはよく怖がられている。しかし実際は全く怖くない。むしろ控えめな性格だ。


 この様子だとユウを含めて五人か。どうやらいつもつるんでいる仲間がみんな集まっているようだ。ユウは気になったことを聞いてみた。


「みんな最後に覚えてる範囲では何してた?」

「俺は確か……授業を受けていたはずだ」

「私もーっ」

「ぼくもだね」

「ボ、ボクも」


 ユウを含めみんなが混乱していると縁が言った。


「悩んでても仕方ないし、とりあえずは灯りがある方に進んで出口を探しに行ってみよっ!」


 立ち上がったのだろう。砂利を踏むような音が聞こえた。

 みんなもその意見には賛成したようで立ち上がる音が聞こえる。


「それじゃ、とりあえず光のある方に沿って進んでいくか」


 良弥がそう言うと、みんなで壁に沿って進み始めた。ユウはこの暗闇の中で動くことに躊躇していた。とはいえ、このままここに残れば一人で暗闇に残ることになる。それは嫌だ。

 仕方なくユウも移動することにした。灯りはまだ先だ。灯りがある場所はまだ先だ。足元をよくみながら、壁伝いに恐る恐る足を進めた。地面はやっぱりゴツゴツしている。洞窟……だろう。どこからか湧き水でも流れてるのかみんなが歩く度に、水の弾ける音が聞こえる。

 やっぱり混乱してたり不安なのか、みんな口数はあんまり多くない。縁だけはいつもと変わらないが。

 そんなことを考えているうちに灯りがあるところまで来た。


 縁が不思議そうに言った。「おおーっ。光ってるねー」

「これは——」良弥がメガネのブリッジを押し上げながら言った。「鉱石が光っているのか……」


 すごく頭が良さそうに見える。そんなことはないが。

 しばらく進んだがどうやら洞窟は一本道らしい。しかしクネクネ曲がってて出口は見えない。出口があるとは限らないけど。


 ユウは自分の前と後ろを見た。前には四人いる。後ろには……居ない。ユウが最後尾らしい。ユウを含めても五人だけだ。



 どのくらい経ったか。そういえば、今は何時だろう。ふと、そんなことを思った。ポケットに入れてあるはずのスマホで、時間を確認しようとした。

「……ない」小さな呟きだったけれど、美希には聞こえたらしい。「何がないの?」


「スマホがないんだ」

「そうなんだ」

「そっか!スマホがあれば助けを呼べるかもねっ」縁は名案だっ!と言うように言った。

 ユウは、ああその手があった、と思った。同時に時間を確認することしか頭に浮かばなかったのに、関心されてしまった事に若干のむず痒さを感じた。


 ガサゴソ音がする。多分、今のでみんな自分のスマホを探しているのだろう。

 美希が自分のポケットを漁りながら「私もないや」と言った。

「俺もないな」良弥が言った。

 ユウが縁と辰巳は?と聞くと、「私もないみたい」と、どこかションボリしたような声を縁が出した。辰巳は「ご、ごめん。ボクもないや」と申し訳なさそうに言った。


 どう言うわけかみんなスマホを持っていないらしい。困った、時間がわからない。


「時計つけてる人っている?」ユウはあまり期待せずにみんなに聞いた。帰って来た答えはやはりと言うべきか、みんな「ない」と言うものだった。


 そんなことをしているうちに出口についた。よかった、出口があって。外は暗い。恐らく夜だ。周りは……何も無い見晴らしがいい丘だ。遠くの方に灯りが見える。あれは……街、だろうか?

 みんなが外に出た。ユウは最後尾だったので、一番最後だ。ふと、自分たちが出てきた洞窟が気になり振り返ると、そこには何もなかった。言葉が出なかった。だって、確かに洞窟のような場所を歩いてきたのだ。それにみんなも気づいたのだろう。


「おおっ!さっきまでの洞窟が消えた」

「不思議なことばかり起こるね」

「どうなってるんだ?」

「な、な、な」


 みんな口々に驚きの言葉を口にする。辰巳に至っては驚きすぎてうまく言葉が出てこないようで、壊れたテープのようになっている。

 そんな騒ぎを聞きつけたのか、近くに女の子が来ていた。

「どうしたの?」と、彼女の口から鈴の音の様に凛とした声が聞こえた。


 目が、赤い。真紅の瞳だ。髪型はショートで可愛い。まるで一種の芸術品のようで、彼女がそこに佇むだけで世界が喜んでいるのでは、と錯覚するほどだ。ハッとしてから、ユウは自分が彼女に見蕩れていたことに気がついた。じっとみ続けるのも失礼だと思い、一度視線を外しもう一度彼女を視界に入れた。本当に可愛い。しかし先ほどは見蕩れていて気づかなかったが、服装が変だ。なんというか、アニメとかのファンタジーものの、物語から出てきたかのような格好だ。ワイン色のローブを羽織っている。彼女には大きいのかぶかぶかだ。しかしそのアンバランスさが、決して悪い方に働くことなく彼女の良さを引き立てている。腰にはダガーがさしてある。それ以外にもポーチなんかを腰に巻いているっぽい。髪の毛の色も、灰色だし。中二病っぽい……多分違うんだろうけど。歳の頃は十五、六程に見える。背は美希より少し高くて百六十程度か。


「もしかして今まで洞窟にいた?」彼女は、冷めた目で尋ねた。

「はい、そうなんです。でも、なぜかその洞窟が消えてしまって」ユウが答えた。

 

 彼女は「そう」と、さして興味もなさげに言葉を返し徐に歩き出した。「ついてきて」それだけ言って。みんな困惑して立ち止まっていたが、彼女が振り返り「置いていくよ」と言ったので仕方なくついて行った。

 道中良弥などが、色々質問をしていたみたいだった。ユウも聞きたいことは沢山あった。彼女の服装についてとか、ここがどこなのかとか。まあ天野たちが質問しても全部無視してるし、質問はしなかったけど。

 それでも、ちゃんと案内はしてくれている様で街に入った。


 街は海に面してるのか潮の香りがほのかにした。周りは城壁に囲まれていた。城壁の中の街はなんというか……雑然としていて、高低差も激しい。そのため非常に見通しが悪い。ただ、決して汚いというわけでもなかった。周囲には水路がたくさん設けられていたし、いたるところに自然を感じられた。周囲の建物は石や、木でできていて、現代の日本という感じはしなかった。まるで、時間遡行でもしたかの様だった。周りの人達はユウたちの服装が珍しいのか、ジロジロと見る様な視線が多かった。まあ、ユウたちも彼らの髪の色が、随分カラフルだったり、頭から獣耳を生やしたりしている人?が居たり、服装が変だったから似た様な視線を投げていたし、お互い様だろう。


「なんだろう、まるで日本とは雰囲気が違うね」ユウがそんなことを呟くと「本当、国以前に世界が違うみたいだね」と美希が返した。


「っていうか、さ……言葉通じるのかな、ここ」不安だ。見た感じ、日本人ぽいのはいないし。無理そうだ。「どう、だろう。でも、案内してくれてる子には、通じたし」辰巳が言った「あ、確かに」そうだ。それは、確かにそうだ。縁はクスクス笑いながら「きっと大丈夫だよっ!、皆んないるんだし。なるようになるよ!」と相変わらず一人だけものすごいテンションで言った。まぁ、そうだろうけど。なるようにしかならないだろうけど。なるようになった結末が最悪なものじゃなきゃいいけどね、なんてことをユウは考えながら、苦笑いを返した。


 良弥は「相変わらずお前は能天気だな」なんて若干呆れたように言っていた。それに対して、美希なんかも「でもそういうところが優香のいいところだよね」と少し笑っていた。

 件の本人はといえば「それほめてるのっ?」と頬を膨らませながらお気に召さなかった様子だった。そんなやり取りのお陰か、ここにきてからの重苦しい空気は幾分マシになったような気がした。


 そんな会話によって重い空気がほんの少しではあるものの、払拭されてしばらくした後「ついた」唐突に彼女が抑揚のない声で言う。

 彼女が指をさす先の建物は、木造のそこそこ大きい建物だった。看板があって、そこには、ギルド<帰還の契りを交わす者カヴェナンター>と書いてあった。


「ついたって……ここは?」

「入ればわかる」

 

 良弥の質問に答えると、中二っ娘はどこかに行ってしまった。正直、ここにきてから一番最初にあった人だったから、もっと話をしてみたかった。話してくれるかはわからないけど。


「とりあえず入ってみない?」

「ど、どうしよっか……」

「入ればここがどこなのかもわかるかもよ」

「そうだねっ。入ってみよーう!」


 ユウがみんなに聞くと縁が元気に答えながら扉を意気よいよく開けた。意気よいよすぎなんじゃ……?鈴の音が聞こえた。おそらく、扉に鈴をつけてるのだろう。ぞろぞろと建物の中に入っていった。


 建物の中は中央にカウンターがあり、左には食堂みたいなところがあった。カウンターから右のほうには大きなボードがあって、なにやら紙が沢山引っ付いている。多分、クエストとか、そんなやつ。結構、ごちゃごちゃしてる。


鈴の音を聞いてか、建物に入って来る足音を聞いてか、カウンターの奥の扉から精悍な顔つきの男の人が出てきた。歳は四十いくかいかないかくらいだと思う。その男の人はユウたちを一通り見たあとニカッと笑うと大きなよく通る声で「ようこそ!ギルド帰還の契りを交わす者(カヴェナンター)へ!」と言った。





 まずは各々自己紹介を軽くした。名前と顔を一致させる程度の軽いものだ。あの精悍な顔つきのおじさんは、名前を春日弘かすがひろしと言うらしい。ギルド帰還の契りを交わす者カヴェナンターのギルドマスターらしい。

 いや、ギルドって……なんて思ったりもしたけど、建物の年季や、春日さんの顔から冗談を言ってる感じはしない。ユウは頭を抱え込んで叫びたい衝動に駆られたが、今しがた知り合った人の前でそれをするのは少々いや、かなり憚られた。


 帰還の契りを交わす者カヴェナンターは、ユウたちと同じ様に、地球からの異郷人で大体が構成されているらしい。同郷の人が多いって言うのはなんとなく安心できる。このギルド何をするところなのかというと、なんでもクエストを受けたり、情報の共有なんかをするところらしい。ここのギルドは飛ばされて来たばかりの者に限って、入団する場合は援助金に二十コーンが出るということだ。他にもいろんなギルドがあるらしく、そのギルドの掲げる方針によって細かいところは違うらしい。


 春日さん曰く、ここは地球ではないらしい。この世界は『グランドール』と呼ばれているらしく、魔物なんかもいる俗にいう異世界だそうだ。ここはグランドールの中でもかなり荒事を生業とする人たちが集まるそこそこ大きな街らしい。城郭都市『クロックス』と言うらしい。


 この世界には、ユウ達と同じよに、あの洞窟を通って地球から、定期的に人が飛ばされてくるらしい。みんな一様に気がつくとあの薄暗い洞窟に居たそうだ。何故自分達が飛ばされたのかなんかは分からないらしい。国籍は関係なく、年齢は今までの最高で二十歳とか。一度にくる人数はある程度は決まっていて、ユウ達は少ない方。普通は十五人くらいでくるらしい。少ないと一人なんてこともあると言っていた。

 起きたら一人だけであんな場所、というのはユウならばどうだろうか。きっと耐えられないだろう。

 ユウ達みたいに、知り合いと一緒に飛ばされたり、全く知らない他人と飛ばされることもあるとか。ユウはつくづく思う。他の人と一緒というだけでなく、その他の人が、知り合いでよかった、と。


 なんでも、飛ばされて来るのには、大体の時期があるらしい。そのため、飛ばされてくる時期になると丘のあたりに人を置いて置くのだそうだが、稀に時期から外れて飛ばされて来る人もいるのだとか。それがユウ達らしい。春日さんは「案内してくれた奴には感謝しとけよ!」と言っていた。もしかしたら、彼女はいい人なのかもしれない。いや、いい人なのか。


 ユウが日本語じゃないのに、なんとなく表の看板などをを読めたことを聞いたら、ここではそういう風になっているらしい。言葉も通じるとか。

 そこまでの説明を終えて、改めて春日さんは言った。


「てなわけで、ここは地球じゃねぇんだわ」


 地球じゃない。何度聞いたって、現実味がない言葉だ。だって気がついたら異世界?自分がおかしくなったのかと疑いたくなる。でも、自分で自分を疑えてるうちは、おかしくなってない……よな?やばい、自信がない。


「地球じゃないん……ですよね、やっぱ。来るまでにも、地球じゃ見られない様な光景ばっかりでしたし」ユウが言った。腰に短剣を差した灰色の髪の女の子とか、頭から獣耳を生やした人とかね。どう考えても、おかしい。

「ああ。最初は戸惑うことも多いとは思うが、なんだ。まあ、頑張るしかねぇよ」ガハハハッなんて豪快な笑い声をあげながら春日さんが言った。


 戸惑うなんてレベルで済むのか?


「その、春日さん、はここにきてからどのくらい……立つのでしょうか。ここのギルドは帰還を目的にしてるんですよね?」ユウは聞いてる途中でどう呼ぶべきか迷った。


「ああ、この世界ではカスガって名乗っている。できればみんなもそう呼んでくれ」


 ユウは名乗っている?と疑問に思ったがそれはひとまず置いた。


「はい、わかりました。それで……」

「ああ、俺はここにきてもう二十年くらいは経ってる。このギルド自体も三百年以上も前に設立されたギルドだしなぁ。そういうわけで、そのうち帰れるなんて楽観視はしない方がいい。まあこの地に骨を埋めるくらいの気持ちの方がいいぞ」


「そんな……」と情けない声で辰巳が言った。

 正直、そんなきはしていた。帰れるなら今頃カスガさんは帰ってるだろうし。


「まあこんな訳の分からん世界に身一つで放り出されんのは、かわいそうってもんだろう?だからこのギルドが設立されたんだ。ここは帰還の方法を探り、その同志の支援もしている。あとは、この世界に飛ばされちまった同郷の者に事情を説明したりするためにもな」

「同志の支援、ですか」

「ああ。ここに入団するなら、さっきも言ったが援助金の二十コーンと、この世界で生きるために必要な知識なんかを教えてやる」

「生きるために必要な知識?」


 尋ねてみたはいいけど、多分ろくなことじゃない。


「ああ。たとえば生きてくなら当然、金を稼がなきゃならん。それには、誰かとパーティを組んで戦うのが手っ取り早く金を稼げる。強くなることで自分の身も守れるしな。まあ常に身の危険は付き纏うが」そう言った春日さんはニヤリと笑った。そういえば、案内してくれた彼女も腰に短剣差してた。多分、そういう荒事を生業にしてるのだろう。


「パーティっていうのは何人くらいで組むものなんですか?」良弥が尋ねた。

「大体パーティは三人から六人くらいで組むものだな」

「た、戦うっていうと、やっぱり魔物とですか?」辰巳が不安そうに聞いた。やっぱり、命のやり取りなんて不安があるのだろう。


「大体はそうだな。ただ、ときには人と戦って殺さなきゃならないこともある」

「そ、そんな……」

「まあ人を殺す場合は大体が山賊退治の依頼や、追い剥ぎなんかに襲われたときが主だけどな。それに、最初のうちはそんな依頼は受けさせねぇから安心しろ」

「そうですか」


 安心したような顔で辰巳が返事をした。気持ちはわかる。


「まあ商人なんかの道に進む手もある。こっちはしばらくはめちゃくちゃ稼ぎも少ないし、大変だろうがな」


 それは、そうなのだろう。つい昨日まで高校生をしていたユウ達ができる気はしない。そうなると、必然的に生きるためには体を使って戦う道ぐらいしかなくなる。まあ女の人なら、それ以外にも体の使い道があると思うけど。でも、それってどうなんだ?やっぱり身売りは抵抗があるだろうから、みんな結果的には戦うんじゃないだろうか。


「まあ入団したらそれなりに働いてもらうが、肌に合わないってんなら抜けることもできる。その場合最初の援助金の二十コーンは返してもらうがな」

「二十コーン……」

「ああ、悪い。この世界の金は分かんねぇよな。金貨がホルノ銀貨がコーンで、銅貨はトルクだ。金貨一枚が銀貨百枚相当、銀貨一枚が銅貨百枚相当だ」

「日本円でいうと、どの程度でしょうか」ユウが尋ねる。

「ん〜俺の感覚でいうと一トルク百円相当だな」


 なるほど、恐らくこれは悪い話ではないのだろう。一トルク百円相当なら二十コーンは二十万円相当だ。

 それをみんなも分かっているのだろう。みんなが眉間にしわを寄せ唸っている。そんな風に一頻り悩んだ後、ついに決心したのだろう良弥が言った。


「俺は入ろうと思います」


 え?まじで?そんなすぐに決めちゃうのか。まあ確かに、うだうだ考えても仕方ないのかも、だけどさ……本当は良弥どういうことかよくわかってないわけじゃないよね?とかなり失礼な事をユウは思っていた。


「そうか。入団手続きは明日になる」


 ニカッと笑いながら春日さんはカウンターの後ろに行くと、革袋をを良弥に投げ渡した。良弥が受け取ったときに、ジャラッと硬貨がぶつかり合う音がしたから、きっと二十コーンが入っているのだろう。

 良弥が革袋の中を覗き込んだ。一瞬息を飲んだような気がした。二十万円分の銀貨を目の前にしたのだ無理はない。


「確かに受け取りました。ありがとうございます」

「いいってことよ。これからは仲間なわけだしな!」


 ガハハハッと豪快に笑ったあと春日さんはユウ達を見回しながら尋ねた


「お前らはどうする?無理知恵はしないが」


 少し悩んだあと縁も「私も入ります!」と意気よいよく言った。そのすぐ後に「み、みんなが入るならボクも、入ろうかな」と辰巳が言った。

 美希はすごく嫌そうな顔をしながら「戦いとかしたくないけど、仕方ないかな。ぼくも入るよ」と言った。


 魔物と戦うとか、いかにも無理っぽい。


「ユウはどうするの?」美希に聞かれた。ユウは眉根にものすごく深いシワを刻みながら「とりあえず、明日この街を見てから決めようと思う」と答えた。「そっか」美希は少し驚いているようだった。恐らく、いつもはユウが周りに流されるタイプだからだろう。他の面々も多少驚いている。コイツら…


「もし入団するとしても、その後でも構いませんよね?」

「大丈夫だぜ。まあ確かにこの世界の一端を見てから決めるってのは悪くない考えだと思うからな。あんまりそういう奴はいないがな」


 ユウは苦笑いしながら「そうなんですか」と返した。多分、これお世辞だよな……わかんないけど。それともおれの心が汚れすぎ?どうだろう、と内心でまた苦笑いしてしまった。


「ほらよっ」と言いながら春日さんが各々にカウンターの下から出した革袋を投げ渡していく。それをみんなが確かに受け取ったのを確認した後、ユウにも何かを投げ渡した。


「これは銅貨、ですか?」ユウが聞くと「ああそうだ」と春日さんが言った。「五十トルク分だ。まあ、うちのギルドに入るにせよ入らないにせよ、金がないと話にならんだろ。餞別だ」ユウはこの厚意に素直に甘えることにし、お礼を言った。


「それじゃあ、ひとまずは話がまとまった訳だし今日は、もう宿舎にでも行って体を休めるといい。明日、入団の手続きをするからユウ以外の奴らはきてくれ。宿舎の場所までは案内してやる。ユウもそこで寝るといい。一応、うちのギルドの加入者は無料でそれ以外は一日10トルクもらうんだが、まあ今日のとこは無料で使ってくれていいぞ」

「親切にどうもありがとうございます」


 この申し出はものすごく助かった。ユウは正直、今日は野宿かなと思っていた。だって、宿の場所とかよくわからないし。


「風呂なんかもあるから適当に使ってくれていいぞ」


 それを聞いた女性陣はここにきて一番の笑顔を見せた。お風呂ってそんな嬉しいのか?や、体がべたついたりするのは、嫌だけどさ。


「ありがとうございます!」縁が非常にいい笑顔でお礼を言った。「いいってことよ。やっぱり日本人だからなぁ、風呂には入りてぇよなぁ」そういうことらしい。いや、どういうことだよ。日本人なら風呂に入りたいのだろうか……ないよりは、あったほうがいいんだろうけど、よくわからない。


「んじゃ、行くか。お前ら、ついてこいよ」そういうと春日さんはカウンターから出てきて宿舎まで案内してくれた。

どうも、初めまして。宜しくお願いします。


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