森の魔女が死んだ時と、死んだ後
「う、うわぁぁぁあぁあぁ!」
「た、大変だぁ!川の水が溢れて村の方へ流れて来ている!皆!丘の方へ逃げろぉ!」
川を見張っていた男達が、ゼェハァゼェハァ言いながら慌てて言った。
それを聞いた瞬間、森の魔女は川へ向かって駆け出した。
「おい!嬢ちゃん!そっちは、川の方だぞ!」
そんな親切な男の制止の声を聞かずに、森の魔女はひたすら森の川に向かい走って行った。
「お姉ちゃん…!」
そんな様子を見て、駆け出した少年がいたことを、森の魔女は知らない。
川の水が迫り来る道へと、息を切らしながら飛び出した魔女は呆然とする。
目の前には茶色く濁り、木々をなぎ倒しながら暴れる川の水が、物凄いスピードで村を飲み込まんと迫って来ていた。
「あ、あれが…川…?…私の魔力で足りるの…?…いいえ…足りなかったとしても…!」
そう言って、のたうち回る水の真正面に立つ。
「結界!水をせき止めろ ここから先 一滴も通らせるな!」
そう森の魔女が叫び、呪文を唱え、更に命じると、濁流となった水の前に透明な壁が出来、水をせき止めた。
しかし、魔力が足りないのか、作り出された結界は脆く、ピシッ、ピシッ、とヒビが入る。
「魔女のお姉ちゃん!」
更に魔力を込めようとした時、いつの間にか村を飛び出した少年が、こちらへ向かって走って来た。
「ここは危ないよ!高い所へ逃げよう?!」
そう少年が言い、森の魔女の手を引く。
けれど森の魔女は、そこから動こうとしない。
むしろ、固い決意が魔女の瞳には宿されていた。
「お姉ちゃん!逃げなきゃ死んじゃうよ!」
その言葉に、森の魔女が答えた。
「うん…そうだね…。けれど、これを私が止めなければ、村に被害が出てしまうのよ?そんな事が起きてしまうの に、ボーと見ているわけにはいかないの」
「でも!」
「良いの…たとえ死んだとしても、何人もの人が助かるから。だから、良いの」
「…けど…」
少年が俯き黙り込む。
結界は、もぅ崩壊寸前。早くしないと二人ともまきこまれてしまう。
「ねぇ、君。名を教えてくれる?」
「え…。僕の名を…?」
森の魔女は、微笑み頷く。
まるで、柔らかな木々の木漏れ日の様な微笑みだった。
「僕…。僕の名前はフォレスト。フォレストって言うんだ!」
「フォレスト…フフッ良い名だね。フォレスト、高い所に向かって走って」
「っ…分かったっ……」
少年は、もぅ魔女がその場を退く気がないのだと、逃げる気はないのだと、そう悟ると、未練を断ち切れぬからか森の魔女の姿を瞳に焼き付けるかの様に、じっと見つめながらも高い所へ向かい走り行こうとする。
けれど、高い所へ向かう、その途中まで走り、ふと思い出したのか、少年が慌てて森の魔女の方を向き大きな声で尋ねる。
「お姉ちゃんの……お姉ちゃんの名は!?」
結界に大きなヒビが、パリンッ、とはいった。
「私?私の名前はね…ーーーーーー」
ーー次の瞬間、結界が崩壊し、森の魔女は濁流の中へ飲み込まれた。
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「少年は飲み込まれると思い目を瞑った。けれど、一向に自分が飲み込まれる気配すら無い。中途半端な所で立ち止まった所為で、飲み込まれると思っていた。可笑しいと思い、目を開けると、川の水が驚く事に引いて行く所だった」
「それで!それで!どうなったの?」
「その森の魔女さんは何て名前なのぉ〜?」
「魔女さん死んじゃったの……?」




