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何も起こらなかった。私たちはそういうふうに振舞った。相変わらず未明と私は一番近くにいて、お互いの作品を批評しあったり、一緒に美術館に行ったりして、ときどき誰かにつきあってるのかと訊かれるたび、そんな馬鹿なと否定した。
未明は私と少しも似ていなかったけれど、同じ目の高さで同じものを見ることができる、かけがえのない友人だった。恋愛感情だなんて得体の知れないもののために未明を失うことを、私は恐れた。
あのころの私にとって、未明は世界で唯一の重要人物だった。この国のすべての人が一夜にして死に絶えたとしても、私は何も気にせずにノミを握るだろう。でも、未明だけは別だ。未明のいない世界で生きていきたいとは、私は思わなかった。
そんな相手に必要とされず、愛されてもいないと感じることは辛い。
でも、そんな痛みも、大人になるまでに誰もが体験するありふれた感情のひとつなのだろう。
私は私のひそかな片思いを大切にしまっておいた。それはとても平凡なものだったし、私の臆病さの証拠でもあったけれど、それなしには知りえなかった、たくさんのことを教えてくれた。