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高校に入学して美術部に入って、私は失望した。部員たちのほとんどは、創作もそっちのけにアニメや漫画の話ばかりしていたからだ。そうでない何人かは、自分が他とは違う高尚な趣味の持ち主であることを表現するのに夢中だった。切磋琢磨しあう空気など皆無で、将来美大に進むと決めていたのも私一人だった。ここでも私は変わり者の孤独な少女ということになって、私はその失望に喜びさえした。
だって、今までと何も変わらず、心を閉ざしていればいいのだから。それが一番、楽な生き方だったから。
しかし、ひとつ障害があった。木彫であろうと石膏であろうと、立体を扱う部員がかつてこの美術部には存在しなかったのだ。ノミも砥石も消耗品である。中学まで私はろくな指導も受けていなかったから、何をするにも力任せで、あらゆる道具と素材を無原則に浪費していた。高校でもその調子でやっていけると思っていたのである。しかし。
残念ながら、彫刻の道具や材料は、予算に含まれていない。部費では買えない、と当時の部長は言った。
私はにっこりと微笑み、足を肩幅に開き、両手を腰にあて、斜め四十五度の角度で彼女を見下ろして、言った。
「無理なんですか」
「どうして無理なんですか」
「何か方法はないんですか」
「それは不公平だと思いませんか」
あくまで穏やかに、しかし言葉を挟む隙を与えず畳み掛ける(たいしたコミュニケーションスキルだ)。
彼女は空気で壁をつくるように両手を胸の前でひらひらさせながら後ずさり、
「こ、顧問の先生に相談してみたらいいんじゃないかな」
必死の愛想笑いでそう言った。
自分でやれってか。
わたしゃ関係ないってか。
よろしい、望むところだ。
どすどすと、足音高く職員室に向かう私に、背後から声をかける者があった。
「おうい、俺と一緒にいくべよ」
それが誰あろう、大塚未明だったのである。