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私は立っていることをあきらめ、雪の中にへたりこんだ。ビッキの柱がもっと大きく見えた。
「ごめん、未明」
言うつもりのなかった言葉が、口をついて出た。
「私、飛べなかった」
「そうか」
未明の声に、同情の響きはなかった。ただ、優しい目をしてにこにこ笑っているだけ。
飛べるはずがなかったのだ。
私はこの空と、その大きさときちんと向き合ってこなかった。私が見ていたのは母や、周りの人々、彫刻科の先生やライバルたちだった。群集の間からぬきんでて、人に私の存在を認めさせる。それが私の考えていたことだった。
高く、もっと高くとあがきながら、私が見ていたのは空でも大地でもなく他の人々の頭の高さだった。私は自分の大きさにとらわれて、世界の大きさが見えていなかった。
「これから、ちゃんとする。もう一度飛ぶ」
この無窮の空に、自分をまるごと投げ込むのだ。背伸びをするのではない、飛ぶのだ。
「そうか」
さっきと同じ口調で、未明はそう言った。
ちっとも同情していない。
「少しは慰めてよ」
独り言のつもりで、小さく呟いたのは私だ。
「『頑張れ』なんて言ったら失礼だろ」
私の声に答えたのか、それも独り言だったのか。
「かっこいいよ、月島は。おまえと同期ってのは、俺の自慢だ」
真顔でそう言った。
「今までも、これからもずっとだ」
もつれた感情に胸を締め付けられて、息が止まった。
「あ、そう」
何も感じていないふりをして、私はそう言った。
未明にとっての私もちょっとは特別な存在なのだ。そのことを彼の口から聞けて、それで満足だ、そう思うことにした。それ以上の望みが生まれてくる前に、私は流れをぶったぎった。
「結婚決まったんだってね、おめでとう」
沈黙があった。私は急いで目をそらしたから、未明がどんな顔をしたのかわからなかった。
「もう、知ってたか」
「うわさで、いろいろね」
「そうか」
「式には出席しない」
私は立ち上がり、尻の雪を払い、歩き出した。
「旅に出るよ、いい機会だからさ」
その場の思いつきだったが、本気だった。
ビッキのように一人の野生の人となって、空を仰ぎ、森を歩き、風を聴いてみたくなった。
私の背中に未明が叫んだ。
「たまには降りてこい。疲れたら休みに来い」
この男はどうしてこう、中途半端に優しいのだろう。本当の私は小さくて弱くて、支えてほしくて仕方が無いのに、どうして気づいてくれないんだろう。特大の雪だまをぶつけてやりたい気持ちだったけれど、押し殺した。
「気が向いたらな」
私はそう返して、男みたいに、映画のヒーローみたいに、振り返らずに手を振った。
短編としてカットアウトした部分はこれでおしまいですが、もとの長編はまだまだ続きます。むしろ、このあと訪れる場所で本編がはじまるのです。需要あれば投稿します。




