魔法族と魔力の土地の国の王様略して魔王様の苦労
初めましての方もお久しぶりの方もありがとうございます。
隣国に魔王呼ばわりされている王視点一人称。
深く考えずに書きました。深く考えずご覧ください。
あるーひ、島の中、九目さんが、出遭あた。
何にって?自らを魔物呼ばわりする自称勇者一行にだ。
九目というのは頭と目が九つあって腕も6本ある3~5mほどの大きさの黄色や茶や黒の毛皮の獣である。
頭一つにつき目が一つ。あまりエコではない姿。頭を九つ乗せるから肩は大きく、図体も大きく、その図体を養うために凄い大食漢。だが普段成獣は花の蜜や蜂の蜜を好む大人しい獣。だから一つの島に多くは生息できない。せいぜい1家族。隣国からはその恐ろしい姿から魔物と勘違いされているがわが国では保護獣指定。
だけど此奴のキモが貴重な薬の原料に成ると隣国にばれた。
それまで我が国固有の領土としてどこの国も興味を持っていなかったのに、しかも魔物の島として忌み嫌っていたくせに突然隣国が魔物を倒し我が国の領土を魔王から取り戻すのだーとか言って態々異世界から勇者を召喚して寄越してきた。
もちろん丁寧に一網打尽にした。
更にこのまま放っておくと一方的に悪者に祭り上げられて今後一寸かなりうっとおしいと見通せたのでここ1万年に及ぶ我が国と相手国とその国が立つ前のあのあたりに在った国の歴史資料全部耳をそろえて『翻訳チート』とやらが与えられた勇者の目の前にそろえて置いた。そしてその資料にはあの島が我が国以外の何物にも属したことが無い事を示す内容が記載されている。
勇者の仲間の神官に“この世のすべての嘘と真実を見抜く”審議の魔法をかけさせた上で。
あとで全世界に配信魔法でこの光景を流すつもりで映像記録魔法をこっそりかけた上で。
「……で、何か言いたいことがあるか侵略者たちよ。」
余は魔物の国の王様でもなければ魔族の王様でもなく、魔法を使う千族と魔力を宿す土地の国の王、黒王。
失礼な隣国は余の事を魔王、我が国の民を魔族などと呼ぶが略し方が酷い。魔王だの魔王だの、何か別の物になっているではないか。まあもう一々訂正するのが追い付かないのでタダの悪口とあきらめて大体放っておいて来たが。
切り殺された母九目の残した子九目を抱きかかえ、涙目で自称勇者をにらむ保護官の横で余は黒髪黒目の勇者と金髪碧眼の神官と褐色の肌に黒髪の傭兵と同じく赤毛で小柄な盗賊(職業名だそうだ)に、この整った顔で軽蔑のまなざしを贈りながら訊いた。
自分で言うのもなんだが余は美しい黒髪に切れ長の目が凛々しい、鼻筋の通った顔に、華奢だが背の高い美丈夫である。
『他は正しい自己評価ですが華奢と丈夫が合わないと思いませんか。アンタは美丈夫じゃなくて美男子というか美青年です、しかも細い。』
などと臣下には言われるが気にしない。だって丈夫に憬れているからな!心の中でぐらい好きに呼称させろ。華奢と丈夫を足せば±0だろうが。
兎に角この顔で軽蔑の眼差しだの侮蔑だのを送ると結構効く筈。
案の定、勇者たちは慌ててうつむいたので顔を上げるように言う。こういう時に相手の顔見ないなんて無礼である。だいたい効きにくいではないか。
残念ながら我らが保護官に救援を求められて島にたどり着いた時、手遅れだったのだ。
「……すまない……。」
内容をきちんと読んでいる証拠と他の者にも内容が解るようにと声を出して資料を読ませた後、項垂れた10代半ばぐらいの少年勇者。侵略者の手先なので勇者とは口では呼んでやれぬしやらぬが。
「そうか、何が済まないんだ?ああ、母九目の蘇生が済んでない事か?早くやるが良い。」
出来ないと知っていて言ってみる。
「いや…蘇生……できるのか?」
世間知らずの異世界産勇者が仲間に訊く、すると金髪の神官がゆるゆる首を振る。ちなみに横にだ。否定の意。
「我らを嫌いなのは知っているが早くやってくれ、目の前で唯一の暖かな家族である実母を殺された幼い子九目が人を恨む前に。」
「いえ、その」
応えにくそうに心底困った様子ででもそれをいえない様子で小さく首を振る神官。
「やったのはそちらだが獣に人間がどこの国の国民と区別がつくとも思われぬからな。そちらが恨まれるのは自業自得だがうちの島民が被害を受けたらどうする。責任取ってくれるのか取らないだろう?今まで取らなかったのだから。殺したからには責任取って生き返らせろ」
「無茶云うんじゃねえよ!」
一息で言っている途中で赤毛が切れた。むう。何様のつもりだ。
「死んだ者は生き返らねえよ!てめえら化け物にはできてもこっちは人間なんだよ!自分でやれよ!」
「なんと!そちら“も”出来ないのか!?ならなぜ勝手に取り返しのつかないことをやった!?責任とれるからやったのではないのか!?死んだら取り返しがつかないのは同じだったのではないか!!」
“も”を強調し、我らはできないと伝えると同時に大げさに驚いてみせてよろりとよろめき、
「なんと無責任な……!!」
「なんと惨い~~~~!!」
非難のまなざしで余が勇者一行を見ると同時に余の横で子九目を抱いた保護官が大げさに緑の髪を振り乱し、伏して嘆きの声を上げる。せっかくの美女の外見があまりの嘆きで台無しに見えるがある種壮絶な美しさもあるかもしれない。
「この子は未だ3か月!独り立ちできるまで2年9カ月もかかるのに……!」
「いや、それよりミルクをどうするのか……まだ乳ばなれしておらんのに……ああ、飢え死にか……惨い、むごすぎる……。」
「そんな!黒王様!何とかなりませんか!?」
保護官が余の膝にしがみつく。別に態々跪かせたわけでは無い、保護官が嘆きのあまり座り込んだのだ。
「北海の魔獣のミルクがこの九目のミルクに成分が似ている筈だが……アレを飼育しミルクを手に入れるなど不可能……まして乳離れするまでとなると……何も害をなしていない罪もないその子九目が金銭目的の侵略者の手先の為に己が母を失い骨と皮になり、人への恨みを持ち死ぬは必定……」
チクチク言葉に入れる非難の言葉、効いているか勇者一行ら、貴様らの所為だぞ?
ふむ、神官と勇者は暗い顔をしているところを見ると効いている、か?
「はっ!死ぬんならいいや!恨まれてどうするとか言っておいて何も心配いらないじゃねーか!」
むう、貴様の良心はどこだ盗賊。
「心配いらない?何を言っているの?この男……?」
我の側近、水の女魔法使いが信じられない物を見る目で盗賊を見る。
「恨みを持って死んだらどうなるか知らないのー?」
我の側近、風の魔法使いの垂れ目男が揶揄するように嗤う。
「えー、そんなはずないよー!300年前それで大嵐起きてこっちは村三つ、向こうは5つほろんだって記録にあるよー?ほらここー!」
子供のような外見の風の魔法使いの弟子が指し示した資料をもって虹色の羽根でふわりと我らと勇者一行の目の間に飛び込む。
「……は?」
勇者一行が目をせわしなく瞬かせる。
「そんで自分たちが九目を殺したせいなのに、逆恨みして侵略軍を送ってきてるから撃退してるー!
あの時の村の損害賠償と反撃に要したアレコレの賠償こっちが求めたいよー!」
因みに風の魔法使いの弟子は蝶明種という民族で、小さいが1000歳まで生きる。そして今400歳だ。青年である師匠より若そうというか幼く見えるというかへたすると女子児童にみえても年が上で、当時の歴史体験者でもある。
「酷かったよー?九目の恨みの心と憤りが魔力爆発起こして暴風雨よんで熱帯低気圧とドッキングして大波ざぶざぶ津波ドカン、あっという間だった―!」
赤毛が黙る。
神官の魔法がまだ聞いているので真実を示す蒼い光がきらりきらりと風の弟子の言葉を飾っているからだ。
「兄さん、……ようやくあの島に黄金糖が根付いたって喜んでたのに……すべて無駄ね……」
保護官の兄は砂糖栽培の農家だったか。それより子九目の事を憐れんでやれ。お前その子九目の保護官だろうが。もうその子九目にはお主しか頼れるものは居ないのだぞ。
「あの島も豪風で消えるか……すべての思い出や緑や何も知らぬ小鳥や動物たちと共に……」
土魔法使いの男がぼそりと呟いた。くすんだ緑の口布でさえぎられているしぼそりとした口調なのに割と低めの良い声の言葉ははっきり聞こえる。
「貴方の故郷、消えていますっけ……。」
火魔法使いが憐みの表情で土魔法使いを見る。
「あの災害の再来か……。」
災害記録のスチル写真を土魔法使いが資料集の中から広げてその表面を褐色の肌の指で撫でた。
「お金も、費やした時間も、これまでの人生も……」
保護官が先ほどの台詞の続きを呻いた。
むう。
「国王として出来る限り島民の保護につくそう」
先ほどは兄、すなわち自分の身内たちより九目の心配してやれと心の中で突っ込んで悪かった。口には出さぬが謝罪をこめて保護官の肩に手を置く。
「でも私たちは避難できても……お金を保証してもらってもっ!!小さなころからこの島で過ごした思い出も何もかも……!」
涙目で余をふり仰ぎ、続いて再びうつむくと同時に悔しげに拳を床に叩きつける保護官。
「俺の妹も……」
土魔法使いがぽつりとつぶやいて、涙にぬれた目で写真を撫でる。
「そういえば貴方の妹さん……ドリアードときいています……。」
火魔法使いが土魔法使いに寄り添いその手をそっと優しく握る、ルビーの様な瞳がウルウルと土魔法使いの整った顔を……火魔法使いもしかして土魔法使いの事好き?詳しいな。
兄が土妖精系エルフなのに妹ドリアードなのか、そういえば両親は大恋愛だとかなんとか聞いたことあったな。両親、土妖精エルフとドリアードの大恋愛だったのだな…………それにこの男、背の低いのが普通な土妖精系なのに背が高いのはドリアードの血筋のお蔭だったのだな。納得した。うーむ……しかしもし火魔法使いとこの男の仲が上手く行ったら男同士なので孫の顔を見られない事確実になる土魔法使いのご両親には悪いが火魔法使い、上手く行くといいな。余は応援するぞ。余は禁断の愛とか恋とか萌えるたちで……おっと今そんな場合では無かったな。
「避難先の、土が合わなくて、死んだ。」
火魔法使いの手や眼差しに気づかないのか、そう苦渋の表情でつぶやくと九目に複雑な目線を投げかる土魔法使い……。
……この者が土魔法使いになった理由はそれが原因とかだろうか……ノーム系は知識オタクの道に進む者が多いのに農業魔法系に進んできたのが変わっているとは思っていたのだが……。
「これから災害を起こすかもしれなくても子九目は被害者だ。正確には被害者遺族だ。恨むのはお門違いだろう。
むしろ我らこそ、守れなかったことを、そして人の争いに無垢な獣を巻き込んだことを責められるべきだ。例え我らが隣国人から人などでないと謂れのない差別をされていても同じ人が欲から犯した罪を人として。」
気を取り直させるべき余は土魔法使いに声をかけ肩に手を置く、さりげなく気持ちが前向きになる魔法も併用する。おまじない程度だがかけないよりは良いだろう。
因みに言葉の半分は勇者一行らに対する嫌みである。人の欲望に巻き込まれたのは本当だが隣国の目的が九目事態であることは解っている。そして九目の生息できる島も序に狙われていた事も。
余の言葉に「分かっています」と土魔法使いは苦い顔でつぶやき、続いて勇者を睨んだ。
余も睨んだ。
土魔法使いに寄り添う火魔法使いも睨んだ。
影の薄い水の女魔法使いも馬鹿を蔑む目で睨んだ。
保護官と子九目も睨んだ。
風魔法使い師弟たちは1回の災害において出た被害総額がいくらかとか復興にかかる支援はとか避難先はとかもう計算を大声で始めた。奴らクール。
翌日、収監されていた牢の中で相談したという勇者一行は北海の魔獣のミルクを手に入れることを約束するというので北海の魔獣を手に入れるのにどうやるつもりなのか訊いたら「自分達ならどんな獣も魔物も」と勇者と盗賊が声をそろえ、「一殺だぜ!」だの「手に入れて見せる!」などと武力を使うつもり満々だし殺すつもりだと自信満々に答えやがり腐ったので北海の国と我が国の間に戦を起こす気かしかも生きて捕まえなければならないのに殺してどうする無意味!害悪!とコンコンと説教した。
「“勇者のお目付け役”全員もそろってその結論に至ったとは……もしかしてお主ら侵略者一行、政治的にあほばっかりなんじゃないのか?お前らの国と北国仲好いのに戦起こさせるようなまねをしようとするって友好国がいの無い国だな!」
「戦争に成るとしても魔界とヒョウ国だし。」
「うち等関係ないもん。」
余の言葉に友好国国民へ薄情な事を言う勇者の仲間たち(傭兵と赤毛の盗賊)。
おい、勇者がショック受けた顔をして貴様らを見ているぞ?もしかしてそこまで考えていなかったのか?勇者。
「……友好国がいの無い奴らだな……」
余は改めてしみじみと呟いた。
当然翌日、北国にもこの一連の映像、流したが何か?
無論、“この世のすべての嘘と真実を見抜く”≪審議の魔法≫を映像にかけるかどうかはヒョウ国の自由意思に任せた。
そのかいもあってか、紆余曲折も在ったが子九目が餓え死ぬ前にミルクが届くようになった。
良かった、これで災害(九魔が恨み死ぬ)が起きる前に恨みが消えてくれれば……、あとは天寿を全うさせるまで見守るだけだ……。
母を失った子九目と、召喚国&仲間に騙された形の勇者がかわいそうな事に成った。
実は神官も自国が正義で魔国は悪と信じてついて来たので可哀想。
ホイホイ魔法をかけた理由はそれだけ自信満々だったから。
薄々気づかれているでしょうけれど
九目=頭が九つある熊
異世界産勇者=地球人