表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

美波と桜示先輩

 大きなリボンを揺らし、少女は走っていた。

 彼女の名前は十塚美波(とつかみなみ)。高校一年生。

 甲斐葉高校に通う、剣道部のマネージャーだ。

 ウサギのようにピンと張ったリボンに、まんまるとした瞳。

 学校制服の上に、首からにぶら下げた十字のシルバーアクセサリーが揺れる。


 すっかり寝坊してしまった彼女は、慌てふためいて体育館に向かっていた。

 今日は桜示先輩の大事な試合なのに……っ!

 こんな日に寝坊するなんて!

 高くなりはじめた陽の光が照りつき、美波はちょっと与太る。

 貧血と眩暈を感じるが、踏ん張って美波は走る。

 原因はわかっている。

 寝不足だ。

 でも、急がないと……、――ぁ、ぅ。

 視界が暗転し、脚から力が抜けた。

 美波は天を仰いで、ふらりと地面に吸い込まれ……、

「おっと」

 その体が何かに支えられる。

 腕だ。

 男の人の優しい腕……、

「お……桜示(おうじ)先輩ッ!!」

「遅刻だぞ」

 一つ年上の先輩、黒曜桜示(こくようおうじ)が美波を覗き込んでいた。

 すでに剣道着に着替えていて、準備万端だった。

 美波の顔が真っ赤に染まる。

「ご、ご、ごめんなさいっ!」

 押しのけるようにして立ち上がると、表情を見られないように明後日の方を向く。

 先輩、いきなり覗き込んでくるとか反則だよ……。

 聞こえないようにそう呟いた。

「すみません、私、遅刻して……」

「それはいいよ。ちゃんと連絡入ってたし。

 それよりお前、大丈夫かよ。寝不足か?」

「…………」

 美波は返事をしなかった。

「ははーん」

 桜示の瞳が意地悪く光る。


「さては俺のプレゼントが嬉しくて寝れなかったんだな」


「…………~~~~~~っ」

 美波は、

 さらに真っ赤になって、

 涙目になり、

 そして拳をふりあげると、

「――っ! ――っ!!」

 無言の抗議を唱えながら桜示をポカポカと殴った。

 ――いきなり後ろからプレゼントを首にかけて来るな!

 ――ドキドキして全然寝れなかったよっ!

 ――嬉しくて死にそうだったんだぞ! 先輩のばかっ! ばかぁっ!!

「ははは、わかった、もう試合前日にプレゼントはしない。

 毎回遅刻されたら困るからな」

 桜示は笑いながら、美波の攻撃を受け続けた。


「おーい、黒曜ッ!!」

 そこに、顧問の大声が飛び込んでくる。

「〝トイレに籠ってます〟じゃあ限界なんだよ!

 さっさと試合に戻れ! お前武道をなんだと思ってやがる!」

「あ、ヤバイ……」

 笑っていた桜示の顔がサッと青ざめる。

 そして真顔に戻って美波の方を向くと、

「美波、気分が悪かったら控室で休んでろよ」

「だ、大丈夫です!

 先輩こそ、試合、頑張ってください!」

「ああ、見とけよ」

 桜示はニッと笑って、

「勝ちに行ってくるわ」

 そうキザっぽい冗談を飛ばして走って行った。

 美波ももう倒れない程度に、体調を鑑みながら後を追う。

「――はぁー、やれやれ」

 初老の男性教諭が頭を掻きながら現れた。

 剣道部顧問の大畑先生だ。

 美波が遅刻を平謝りすると、先生は、

「頼むよ。ウチのエースは、お前が居ないと試合をやりたがらないんだから」

「……? どういう事ですか?」

 美波が首を傾げると、

「お前が来るまで試合の引き伸ばしさせられたんだよ。

 普段は人に迷惑かけるの嫌がるくせに……。

 意地でもお前に応援して欲しいみたいだぜ、あいつ」

「…………」

 先輩、私の事、待っててくれたんだ。

 美波は胸が熱くなるのを感じた。

 申し訳ないのと、それから、隠せないくらい嬉しくなった。

 たぶん凄い顔になってる。

 それを見ていた顧問はまた、

「はぁ、やれやれ」

 と呆れた顔でぼやいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ