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4.女の子の呪い

「多分ここの部屋じゃないかなあ?

彼女、寮の監督やってるから。」


寮の監督か。なるほど、彼女らしい。

寮の監督をやれば1人部屋が与えられるのだから。


「……ヴェルタ?」


俺が声を掛けると部屋からバタンゴトンと物音がしてきた。

それから大きな音を立てて扉が開くと、腕を捕まれ部屋に引き込まれた。


「アラルさんっ!」


ヴェルタはまだ真っ白なまま、目を赤くして泣いていた。

ウサギみたいだ。


俺がぼんやりそんなことを思っているとヴェルタが縋り付いてきた。


「アラルさんなんか嫌い!他の女の子好きになるなんてひどい!

どうせ私は!可愛げがなくて!胸も小さくて!嫌味で!冷徹な女よ!」


ヴェルタは一単語ずつ胸を叩いてきた。

な、なんだろうこれ。


「誰もそんなこと言ってないだろ!?

なあ、俺の話を聞いてくれないか?」


「嫌!」


彼女はそのまま俺に抱きついてきた。

なんだこれは。嬉しい。最高。


「えーっと、ヴェルタ、さん?どうしちゃったのこれ。」


イシククルがドアの入り口で引き攣った顔をしてヴェルタを指差した。


「なんか、駄々っ子になっちゃってますけど……。」


「ドア閉めて。」


俺はヴェルタの背中をさすってあやしながら、2人に部屋に入るように伝える。

こんな可愛い姿を、2人はともかくとして、他の奴に見せる訳にはいかない。


「ヴェルタは感情が昂ぶるとこうなっちゃうんだよ。」


「感情が昂ぶるってレベルじゃないでしょ……。」


「……そういう呪いなんだよ。一族の血にかけられた呪い。」


ヴェルタは生まれついて呪われていた。

というより、ヴェルタの家そのものが呪われていて感情が昂ぶると色素が抜け真っ白になり、思ったままの言動をするようになる。

幼い頃はあまりならなかった……というか、幼い頃は感情を抑えたりする必要はなかったのであまり気にしていなかった。

しかし成長するにつれ感情を押さえる必要が出てくるとこの呪いは効果を表した。


普段は冷静な彼女も、一度怒ると手がつけられなくなる。

やがて彼女の周りから友人は減っていった。


彼女はこの呪いが起こらないよう感情を抑える術を学び始めた。


そして俺は彼女のこの呪いを解きたくて解呪師を目指した。


ヴェルタになんのしがらみもなく笑って欲しくて。


「感情が昂ぶると色素が飛んで、心のままに行動してしまう……っていうか……子供みたいになっちゃうっていうか……。」


「誰が子供よ!

アラルさんが悪いんじゃない……!」


また泣き出したヴェルタをあやす。

彼女がこうなるのは何年ぶりだろうか。

もう長いことこんな姿見てなかった。


「アラルさん大っ嫌い。もういい。どっか行っちゃえ。」


「その割には抱きついてるけど。」


「心のままに行動してるって、そういうこと……。」


「ヴェルタ、一度話を聞いてくれ。

それを聞いても君の気持ちが変わらないならコシボルカの祭りのパートナーを解消してくれても、婚約を破棄にしてくれても構わない。」


「いや!」


……困った。

何を言っても嫌と言う。


「ヴェルタ、私とは話したくない?」


バングウェウルがヴェルタの横に跪いて話しかける。

女だとわかったけれど、その姿は様になっていて腹が立つ。


「……バングウェウル……。」


「あのね、その……クルさんも私と同じだったの。」


「へ?」


「だから、クルさんも異性化の呪いがかかってて……つまりクルさんはこんなだけど男で……しかも私の婚約者らしいの……。最悪なことに……。」


イシククルが「何が最悪なことに!だ!」と叫ぶが、誰も何も反応しなかった。

事実最悪だろう。


「……おとこ?」


「そう。

ヴェルタは覚えてないか?

イシククルって……よく俺の家に遊びに来てたんだ。

一回か二回会ったことあると思うんだけど……。」


幼い頃のイシククルは10秒以上同じところに留まれなかったので、ヴェルタと話したことはないかもしれない。

案の定覚えてないようで首を傾げていた。


「俺は割と仲良くしてたんだよ。

それで、そいつにいきなり女になったから助けて欲しいって言われたんだ。

……こいつと仲良くしてたのはそういう訳で、全然、恋仲でもなんでもないから。」


ヴェルタは信じられない、という風にイシククルを見ていた。

イシククルはうん、と頷きながら「オレは男だ。確かにちんこが生えてないし、こぉんな美少女になってるから信じられないとは思うけどな……。ああ、巨乳になった自分が悔しいよ。ごめんな、巨乳で。」と言った。


「……下品。」


「うん、いいよ、あいつの相手しないで。」


イシククルの姿を体で隠し、ヴェルタの顔を覗き込んだ。


「なあ、まだ怒ってる?パートナー解消?」


「…………よかった……。」


「え?」


「わ、わたし、アラルさんに、見捨てられたのかと……。

アラルさん、学校に入ってから、オシャレし出すし、女の子にモテて、話しかけにくくて。

成績一番になって、あのサリム先生のところで勉強してるって聞いて、遠い人になっちゃったんだ……。

でも、わたし、わたしは婚約者だからって、だから、釣り合えるように頑張って、オシャレとかもして、でも、でも、」


泣きじゃくりながら縋り付いてくるヴェルタ。

ああ、俺は彼女を随分追い詰めていたようだ。


「ごめん、俺……ヴェルタに認めて欲しくて色々やってたんだよ。

美人で賢くって、非の打ち所がないから、俺が頑張んないとって思ってた……。」


彼女をぎゅっと抱き締める。


「俺が好きなのはヴェルタだけだよ。

婚約解消しないで。

コシボルカの祭りで一緒に踊ろう。」


「うん、私も、世界で一番アラルさんが好き……!」


後ろで下手くそな口笛と拍手が聞こえるが無視をした。


俺の頭はヴェルタでいっぱいだ。


俺とヴェルタは見つめ合い、そして……。

彼女の肌と髪が徐々に黒くなっていく。


「ん?」


「あれ?キスシーンの流れでは?」


「いえ、違います。」


ヴェルタは、いつものクールビューティなヴェルタに戻っていた。

……あともう少しだったのに……!


「婚約解消せずに済み良かったです。

父の手を煩わせたくありませんから。」


「それツンデレってやつ?」


「素直になりなよ。」


2人はやれやれと首を振っていたが、ヴェルタの赤くなった耳を見てフッと笑ってしまう。


「あら、この婚約者、自慢げな顔してますわよ。」


「いやね、ヴェルタが可愛いからって。

私だって彼女の友人ですから、彼女の可愛さは知ってますけど?」


バングウェウルは大げさに手を払う。


「そういえば君達は友達同士なんだな。

どういう繋がり?」


「あーそれは、私がその、泣きついたのよ。

ヴェルタは学校一の秀才って聞いてたから、彼女ならなんとかしてくれると思って。」


「最初は何かと思った。背の高い男が泣いてるんだもん。」


なるほど、俺とイシククルの時と似たような感じか。

ただこの2人はお互い初対面なこともあり苦労したらしく、揃って遠い目をした。


「ひよっ子解呪師のアラルはダメなのか?こいつも学校一の秀才だぞ。」


「うーん、私、外見は男だけど中身は女だし頼みにくくて……。

それにアラルさんって怖いし……。」


「怖い?」


そう言われたのは初めてだ。


「いつも1人でカッコつけてるじゃない。

それに図書室でのこともあったし……。まああれは嫉妬したからってわかったけど。」


……なるほど。確かにいつも1人でカッコつけているな。

イシククルがゲラゲラ笑っていたので、今後は1人でカッコつけるのはやめることにしよう。


「あの、お二人は婚約者同士ということなんですね?

……ならなんの呪いか、特定できるかもしれませんよ。」


ヴェルタが凛とした声でイシククルとバングウェウルに救いの言葉を投げた。


「本当か!?」


「どうやって!?」


「記憶を見るんです。」


ヴェルタは人差し指を一本立てた。

イシククルが不満げな声を上げる。


「もう記憶は確認したぞ〜?」


「バングウェウルも何回も確認したよね。

でも今まではただ闇雲に記憶を辿っていました。

今回は婚約者の2人、という繋がりがわかりました。

婚約者という目印があるのと闇雲に探すのでは訳が違います。」


彼女は褐色の指をバングウェウルの額に乗せた。


「もう一度、今度は婚約者という言葉を目印に記憶を辿ってみて。」


ヴェルタは呪文を唱え、金色に輝きだす。

俺はまたポーッと見惚れていた。


「なあ、お前見惚れてないでさ、なんかできないわけ?」


「なんかって?」


「婚約者同士の呪いとか無いの?」


「ああ、うん、あるよ。

末長く2人が幸せになれるようにというまじない、相手が浮気をしないようにというまじない、そういうのが呪いに変化してしまうこともある。」


相手が浮気をしないようまじないをかけたところ、相手が勃起不全になってしまったなんて笑い話もある。

こういう恋人同士や夫婦同士、婚約者同士の呪いは多いもので、ヴェルタもそれを知っていたから記憶を辿るよう提案したのだろう。

かけたとしたら2人のどちらかしかないだろうと踏んで。


まじないは呪いと書く。

程度が違うだけで、同じ種類のものなのだ。


魔法をかけ終わったのか金の光が消え、バングウェウルは天を仰いでいた。


「バングウェウル?」


「……思い出した……。

香水の瓶あそこに閉まったんだった……。」


そうじゃない!

俺は彼、いや彼女の肩を叩く。


「婚約者のことは!?」


「え?ああ、うん。そう、私、婚約者が出来たのよね。」


どうやら彼女は魔法がかかったばかりで記憶が混濁しているようだ。

少し待つべきだろう。


「少し休む……」


俺の声は届かなかったようで、バングウェウルは話を続けている。


「どんな人か知らないけど、親は渋い顔してたしそんなに良い人じゃなさそう。

私、外見はこの際とやかく言わないから、ニキビが出来て悲しくなったり、髪の毛がまとまらなくて憂鬱になったり、月の物で苦しくなったりする女の子の気持ちがわかるような人と結婚したい……。」


髪の毛がまとまらないだけで憂鬱になるのか。

そんな女の子の気持ちはわからない。

ある意味、背が高くて高学歴で高収入な男を捕まえるより難易度が高いかもしれない。


「だから、私おまじないしたの。

家にあったまじないの書を使って……。

叶うといいな……。」


おまじない!?それだ!


「ど、どんなおまじないなんだ!?」


「錠前と鍵を清潔な水に浸して、錠前に私の名前と血を、鍵に彼の名前を書いて湖のほとりに埋める。

1週間たったら取り出して、錠前に日の光を、鍵に月の光をあてるの。

それから自分で肌身離さず持ち歩いて、更にそのあとは枕の下に入れて……」


バングウェウルはズラズラと手順を説明する。なんて長くて手間がかかるんだ!


女の子の気持ちがわかるような人と結婚したいという願いが、相手の性別を変えて自分の気持ちをわからせる、というものになったのもわかる。

こんなに長い手順を踏んでいたら厄介なまじないになるというものだ。

そしてその分の代償も大きく自分の性別すら変えてしまった。


「よくやり遂げたな?」


「だって、結婚したら私はもうその家に、夫に縛られるのよ。せめていい人がいいじゃない。」


彼女は虚ろな瞳でこちらを見た。

確かに女性は家のことをしていることが多く、社会に進出する女性は少ない。

縛られる、という表現は彼女にとって大袈裟でもなんでもないのだろう。


「……呪いの方法はわかりましたね。

アラルさん、解けますか?」


「ここまでわかってればな。

バングウェウル、その錠前と鍵はあるか?」


「なんと、肌身離さず持つようにって書いてあったから首から下げてたんだ。」


制服の下からジャラリと鎖が鳴る。

彼女はそれを外すと俺に渡してきた。

確かに錠前と鍵がそこについている。


「よし、じゃあ早速呪いを解こう。」


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