放り出された空の中で
「うわああぁあああぁぁ―――――」
落ちる堕ちる墜ちるっ!
勇者―――マヒロはだたさっきまでと変わらずに空の彼方から落ちていくばかりだった
もがいたところで変わらない速度でマヒロは墜ちていく
もうだめなのかよ?
何をしたところで変わることは何もない
諦めた心がマヒロの心を捕らえかけたその時、マヒロはふと思い出した
『願いを叶えよ』
それはマヒロが最後に聞いたニノラの言葉だった
目の前の視界を木の葉が覆い尽くす中にその声はずっと響いてよく耳に残っていた
そうだ、俺は願いを叶えるために扉を開けたんじゃなかったのか?願いを叶えるために(本来はそんなことさっぱりだったけど)パレスに来たんだ。今更墜ちたことが何だっていうんだ?大体今日はコレで二回目・・・・って違う!
「もう誰かたすけ――――」
ゴオォオォオオォォォオオ―――――
「?!」
真っ逆さまに墜ちていく俺の耳に轟音とも唸り声とも言いがたいような
それでいて、けして人間ではない、まるで獣が発するような声がこの空にこだまして響いている
一体何―――?
俺が周りの状況を確認しようとして身体を捩ったその時、俺の眼には信じられないような光景が映った
「嘘・・・・・だろ?」
俺の周りを集団で囲みながら旋回している生き物―――いや、正確には大きすぎて生き物なのかどうかすら俺には判断がつかない
俺の人生経験が浅いせいなのか、はたまた最近の教科書が悪いせいなのか・・・
俺の目の前にはライオンだかトラの獣顔に、手足はまるで馬のような見たこともない真っ白ひづめがきらりと輝いていて、背中にはどんな動物よりも大きい羽がついている
俺が降りていくことに為す術を持っていないのに対して
彼らは自分の羽を持っているというのに落ちていく俺にご丁寧に合わせて旋回していらっしゃる
「なっなんだよっ?」
言ったって分からないのは百も承知だったのに俺の口からはポロポロと強がりな言葉がこぼれだした
それを分かったのか解っていなかったのか
俺が言葉を発したその刹那、奇妙な動物たちは大きく吠えて俺に突っ込んでくる
「ヒッ?!」
殺られるっ!
俺は反射的に瞳を閉じて硬直寸前の身体を縮めた
ガシッ
俺が身体を縮めたその瞬間
俺の襟元の服は信じられない速度と強さで掴まれた
「うえぇっ」
痛い
俺はほぼ無意識に首元を押さえてジタバタともがいた
「そんな速度で落っこちてたのにえらく元気が良いねぇ・・・まぁその分だったら体調に心配なさそうだけど」
「えっ?」
俺の耳には凛とした、それとしてか細くもなくキツイ声でもないその主は俺に向かって笑いながら言った
「大丈夫?」
「あ、はい大丈夫です。えと、助けて頂いて有難うございます」
慌てた俺は服の襟を直しながら正座をする格好になって俯いた
俺に向かって笑っている――――マヒロよりも随分大人びて見えるようなその少女は「そんなにかしこまらなくても良いよ」と言いながら丁寧にマヒロに向かって手を差し出した
「じゃぁまずその格好から崩して」
「えっ?あ、はい」
俺は差し出された手に反射的に手を添えた
「僕の名前は“サラ”よろしくね。で、こっちが“ルラ”」
少女―――サラは坐っている足元を指差して言う
足元?
俺はゆっくりと今自分が座り込んでいる場所を確認する
「!」
一瞬だけ顔が歪んだかもしれない
俺たちが坐っている場所―――それはルラ、サラが指を差したさっき俺に向かって突進してきた――動物――だった
左右に向かって大きく羽ばたいている羽が此処ではさっきよりもより鮮明に見えて俺の心臓は驚きを隠せなくなって主張をはじめる
四方にもルラと同じようで一回り(と言っても十分過ぎるくらい大きい)小さいルラたちが周りを取り囲んでいる
おそらくルラがこの群れ一番の存在なのだろう
直感でそう感じた俺は背筋に冷たいような脂汗を感じたが、なるべく平然を装って笑顔をつくった
「龍崎 マヒロです」
「?なんか長いねぇ・・・もしかして・・・・・」
サラは呆けたような呆気らかんとした声で言った
「ニノラ導師様のところから来た?」
「そうですけど・・・・なんですか?」
俺は怪訝そうになったサラの顔に身構えた―――必要はなかった
「へぇっ!じゃぁマヒロは魔法導師っ?それとも勇者っ?」
俺の予想に反してサラは満面の笑みで俺に質問してきたからだ
ルラがやや上昇しながら飛んでいるその風にのって目に入り込むゴミに瞳を閉じつつ照れくささからか頭をかいた
「一応勇者らしいんだけど・・・わかんない」
正直なところ、一気に曖昧な説明で捲くし立てられた俺はこのペンダントがどう導くのか、なんで扉の向こうがこんな所なのか聞きたいことが多すぎて自分の頭でさえも混乱していた
そのなかで今一番明確な答えが出ているもの
それだけはマヒロのなかでもハッキリしている―――願いが叶う―――ということ
現実ではありえないこんな世界でそれだけは多分一番信じていい物のはずだ
何故かそんな言葉が出て来たのはいつも冷めているマヒロからは考えられないくらいに非現実的だった
馬鹿げた都市伝説だとさっきまで後ろの連中に向かって思っていた気持ちが嘘のようだった
この願いが叶うなら俺は――――
その時、サラの声が耳に響いた
「じゃぁ扉“押せたんだ”いいなぁ〜」
「うん」
ぼんやりと考えていた俺は慌てて返事をしてしまった
ん?“押せたんだ”?
どうしてそんな羨むような口調でいうのか俺には分からなかった
「その押せたって言うのはどういう意味で――――」
俺が聞き出そうとしたその時、背後から黒い影が伸びた