総合評価は・・・
――――バシャアアアアァアアアアアアアアアアンッッ
足元から水しぶきが身体に当たったかと思うと、それはあっという間に消え去って力強い風へと変わっていた
「え?もしかして俺このまま落ち・・・・・る?」
俺はどんどん速度を増して急降下している
気が付けば、俺は飛び込んだはずの水の中ではなく、何故か青い空から地上への急降下の真っ最中にあった
「うわあああぁぁああぁあ―――――――」
落ちる
堕ちる
墜ちる
落ちる―――――!
俺が覚悟してギュっと瞳を瞑った瞬間、俺の身体は何かの力で呑気な声と一緒に上へと引っ張られた
「試験終了じゃのぉ」
「え?」
あ、この声は・・・・・
俺の洋服のフードに片手の杖を引っ掛けながら笑っているこの人は―――
「あのっさっきの声のっ!」
「ようやく会えたのぉお主、元気にしとったか?」
「あぁ、はい・・・・・」
「そうかそうか」
笑っているけど、こっちはとてもじゃないけど笑えそうになんかない。どうしてこの人は“浮いて”いられるのだろうか・・・・?俺は自分の下を見て自分の眼を疑った
地面は遠く、遙下のほうにあって、空はとてつもなく広々としている
このフードがなかったら俺はどうやって助けられていたんだろう?背筋が凍るような想像に俺は顔を引きつらせた
「お主だけ――――ということはもう一人は遅刻か」
「は?」
「いや、案ずるなこっちの話じゃ。ここでは落ち着いて話せないだろう、場所を変えるとするかの」
そういって俺のフードから素早く杖を抜き取ると、頭上でサッと一振りした―――ってオイッ!
ってことは俺は・・・・・
俺は瞳を固く瞑って叫んだ
「俺が落ちるっ!」
「ははははははは」
「なんで笑えんのッ?」
「大丈夫じゃもうとっくに変わっとるわ」
「へ?」
気が付いて瞳を開ければ、俺は緑が青々としている森の中に居た。この人は一体どこのマジシャンなんだ?俺は立ち上がって濡れている洋服についた砂を払い落とした
「では、お主。名を何と言う」
「え?ぁあ・・・えと、龍崎 マヒロです」
「ほう、良い名だのぉ」
「あ・・・・・ありがとうございます・・・・・?」
「わしはパレスの門番の・・・名はニノラ・ディー・ワームじゃ。ニノラ導師でかまわん」
「あっはい、えと・・・その、ニノラ導師・・・願いが叶うとはどういうことなんですか?それにさっきの、あの“試験”も・・・・・教えて頂けませんか?」
俺はなるべく丁寧な言葉を選んでニノラに言った
「言ったとうりじゃよマヒロ、これは運命じゃ多くは語れん。まぁ結果発表でもするとするかのぉ」
「・・・・・?」
「マヒロ、お主の総合評価はAランク」
「はぃ?」
「まぁ勇気に欠けるが頭の回転と冷静さはぴか一じゃのぉ」
「はぁ」
「にしてもマヒロ、どうして菊の花だと分かったのじゃ?」
「えぇ?あの、男なのに知ってるのは恥ずかしいですけど・・・・・一応花言葉ですよねアレって」
「ほう、良く知っておったのぉ」
ほっほっほとニノラは笑いながら手招いた。すると、何処からともなく地面から椅子が出てきた。俺が驚きを隠せないのを尻目に、ニノラはその椅子に腰掛けると話を進めた
「まぁヒントがでていたからなぁ」
「石像の言葉―――“信頼か”ですよね?」
「そのとうりじゃ。菊の花言葉は信頼だからのぉ。願いは人の信念という名の信頼に直結しておる。まぁこれからの運試しの試験でもあったわけじゃがの・・・そういえばお主は扉を押したんじゃったかの?」
「え?それってどの扉のこと言ってるんですか?」
今までで最低でも四回は扉に遭遇している俺にそんな質問はこくだ
「一番はじめのじゃよ。は・じ・め・の」
「はぁ・・・・」
でも俺は大抵の場合押しているような気がする
あの時も、あの時も・・・・・・やっぱり、いくら考えたって俺は扉を開けるとき押しているのだ
「多分、押してると思うんですけど」
「そうか―――よろしい」
「?」
「では勇者マヒロ、これより旅立ちの儀式を開始する」
「え?」
「心配するでないマヒロ、大丈夫じゃ。この女神のナミダ―――コレを七つ集め、このペンダントにはめ込み天空の塔を目指せ。それが出来た時、お主の願いは叶う―――この世界、パレスでな」
「パレス?」
「此処の名じゃ。お主の世界とは大分違っておるだろうがの。七つの国を旅するがよい、ゆるりとな。願いに向かって――――お主の願いが本物だった時、ナミダは答えるじゃろう」
ニノラはそう言うといつの間にか持っていたペンダントにナミダ―――キューブ型ビー玉のようなモノを埋め込んでから俺の首にかけると、空に向かって大きく円を描くように杖を振った
「これでよし――――」
俺の服はニノラの輝きに満ちたかと思うと、一瞬で消えた
「え?この服は―――?」
俺の洋服は見たこともないような西洋風のモノに変わっている。俺が戸惑いを隠せないままなのに、ニノラは話を進めた
「ではの、勇者マヒロよ―――勇者のツルギはお主の心が決まったときペンダントが導くはずじゃ」
ニノラはただそれだけ言うともう一度杖を一振りした―――今度はさっきよりも早く
俺の身体は不意にきた向かい風に巻き上げられて宙に浮いた
「ニノラ導師っ?」
「願いを叶えよ――――そして運命を――――」
「待って下さい!ニノラ導師!俺まだっ色々訳わかんな――――!」
俺が言い出そうとしたその瞬間、青々とした木々から木の葉が舞い飛び、俺の目の前を覆ったかと思うと一瞬で離れて―――視界が開けた
だがその時はもう既に俺は違う場所へと――――さっきの空へと投げ出されていた
「ニっニノラ導師ぃ――――――っ!?」
「願いを叶えよ――――そして運命を――――」
門番―――ニノラは笑いながら木々の葉を掴んだ
「運命を変えて見せよ」
空には大きな太陽が顔を覗かせていた