試験スタート
じっとりとした汗が俺の額に流れている
背中に痛みが走ったかと思うと、俺は地面に仰向けになって寝転んでいた
また此処は何処なんだ?
俺が起き上がってみると、此処は紛れもなくさっき居た場所とは明らかに違っていた
俺が堕ちた―――正確には堕とされた場所は薄暗い箱に蝋燭の明かりを灯したような光を放っているただ俺の目の前に重々しい扉があるだけだった
蒸し暑くて息が上がる。俺は立ち上がってズボンについている砂埃を手で払うと解けかかっていた靴紐を結びなおした
また扉なのか?俺は飽きれたように心の中で呟いた。でもさっきまでの屋上の扉とはわけが違うようだった
そういえばあの声は試験開始とか何とか言ってたっけ・・・・・・
いくら考えたって分からない答えに俺は頭を悩ませていた
「一体俺に何させたいんだよ・・・・・?」
そもそも試験なんかしてどうするのだろうか?俺は此処から帰れるのだろうか?後ろから追ってきていた小林は?さっきの声は?どうして俺はこんな場所に居るのだろう?――――声が言っていた願いって何なんだ?
よく思い返してみれば、俺の願いは叶うとかそんなようなことも言ってた気がする――――
俺は扉にゆっくりと歩み寄ってドアノブのような可笑しな模様の凹みに手をかけた
俺の願いが叶うなら―――
手のひらに俺は精一杯の力を込めて扉を押した
ギギィィッ――――
上がった息を整えながら、俺は開いた扉の向こうへと歩き出した
何が待っているのだろうか、此処には
バタンッ
俺が暗闇の中へ歩き出した瞬間、扉は大きな音をたてて勢い良く閉じた
「うわぁっ」
扉の音だけが反響して響いていた
蝋燭の明かりが―――扉が無くなってしまった俺の前にはただ何処までも暗闇が広がっている
俺にはまたさっきまでの不安な恐怖心が押し寄せてきて汗ばんだ手をギュっと握った
その時、不意に俺の目の前から生暖かい熱風が吹き込んでくると共に足元から淡いくらいに消え入りそうな光が出て来て、俺の視界を照らした
「石像・・・・・・?」
俺の眼には四方にのびた道の先に、様々な花の絵が描かれた扉。そして扉の前には意味も無さそうにいくつかの石像が連なっていて、俺の行く手を塞ぎつつあった
「どうすればいいんだよ――――」
俺が意味もなくため息をついたその瞬間、突然石像が口を利いたのだ
『汝、何を望んで此処へ来た』
「は?」
またこれなのか?そんなのはさっき言った―――というか見抜かれたわけだが、それでも伝えたはずなのだ。今更なに言ってんだ?俺は訳が分からなくなって頭がこんがらがった―――俺が言うのが早かったのか分からないが、また別の石像が話し始めた
『汝、何を望んで此処に来た―――信頼か?』
「だからさっき――――」
『汝、何を望んだ―――知恵か?』
『汝、何に望んだ―――正義か?』
『汝、何が望んだ―――悪か?』
『汝、何を望んだ―――勇気か?』
『汝、何が望んだ―――孤独か?』
『汝、何を望んで此処へ来た――――今答えて今選べ』
俺を丸め込むように次々に石像たちは俺に言葉を投げかける
だからさっき――――
苛立ちを抑えきれなくなって石像たちに向かって叫んだ
「俺が望むのは――――」
ん?願いを答えろと・・・・・選べ?俺は四方に伸びた道に眼を走らせてから駆け出した
扉を選ぶんだ!答えはむしろ関係なんかないはず!それは―――
「答えと選ぶは=(イコール)で直結してるからだろっ?」
俺は菊の花が描かれている扉に手をかけて開け放った
バァァアアアアァンッ!
その瞬間、俺の背後からとてつもなく大きな―――何かが爆発したような音がした
「嘘――――だろ?」
俺の背後からさっきの石像たちが動き出して追ってきたのだ。その手には鎌や剣、色々な物騒な道具を持っている
早くしないと小林のような中傷じゃ済まないのは明白だった
俺は目の前に向き直って開いた扉の中を見た
そこには井戸のようなものに溢れるほどの水が入っていた
もうコレに賭けるしかない
俺は深く息を吐いてから井戸の中へと飛び込んだ