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夕日も見えない雨に

 大半の生徒が聞いてもいない授業をただの説明の殴り書きで済ませようとする大人たち


 傷の舐め合いのつるんだ奴らに


 ただたむろってるだけの五月蝿い奴ら


 もう慣れた、もう慣れたよ



 帰りのHRが終わると、雨だったせいもあってか生徒たちは一斉に帰り支度を整えてランドセルを片手に傘を持って廊下へと飛び出した


 外は生憎の曇り空に土砂降りの雨、傘があってもなくても変わらないような天気だ


 俺―――[龍崎 マヒロ]はランドセルと傘を両手に抱えて下駄箱への道をゆっくりと歩き出した


 この雨だ。いくら傘を差したところで雨に濡れるのは免れないだろう


 都市伝説で話が盛り上がっている後ろの連中を尻目に俺は傘を持ち直した


 今更何が都市伝説だよ。もう廃れた廃墟のマンションで自殺した奴なんてほっとけばいいだろ?


この町の都市伝説―――“開かずの扉”は何故か最近この小学校の噂話として有名になりつつあった


誰が言い出したのか、その開かずの扉を開けることが出来れば自分の本当に望んでいる願いが叶うという。何処までが本当なんだかさっぱり分からないこの話を俺は馬鹿馬鹿しく思っていた


 後ろではさっきよりもより一層五月蝿い声が聞こえる。俺はため息をつきたい衝動にかられたが、俺にとってはこの場でため息をつくことはあまり格好のよいことではなくむしろ恥ずかしい気がして、ため息を押し戻した


俺は自分の下駄箱から靴を取り出して上履きを履き替えた。その時、俺の背後から聞きなれない声がした


「マヒロちゃ〜ん、もう帰るのぉ?」


「・・・・・・・・・」


 振り返った俺の後ろには五、六人の見慣れない―――というか誰だか分からない奴等がいた


 いきなりなんだよ


 俺は返事も返さずにランドセルを背負い直して歩き出した


 こーゆうのはかかわらないのが一番


 俺はほんの少しだけ足を速めて傘を開いた。後ろの連中に気を配りながら


 俺が無視をしたのが気に入らなかったのか、連中は声を荒げた


「待てよ龍崎!」


 そう言われて待ってる奴の気が知れないだろ?俺は反射的に走り出していた―――持っていた傘を投げ出して


「あいつを捕まえろッ」


 あぁ俺なんかしたっけ・・・・・?


 いくら考えたところで思い当たる節がありすぎて分からなくなってくる


 この間もたしか「気に入らない」とかそんな理由で数人に追いかけられたっけ?その前もたしか同じような理由で――――


 俺は善良な小学生なのにどうしてこうも追いかけられなくちゃいけないんだよ


 その時、俺のランドセルが勢い良く誰かに引っ張られた


 やばい


 俺は振り払うように身体を捩ったがただの無駄な行為だったようだ


「なんだ、呆気なく捕まりやがって」


「・・・・なんだよ。用があんなら早く言えば?」


「なっ――――」


 俺を捕まえた連中のボス(?)らしき奴は顔を赤らめて口を開いた。まさか俺がこんな大きな態度で出るとは思わなかったようで、少しばかり動揺しているのが見て取れた


なんだ、こんな奴なのか。俺はさっきより口調を強めた


「早くしろって言ってんだよ。何なんだよ――誰なんだよお前らは」


 激しくなってきた雨に俺の服は力なくうなだれ始めていた


「そのすかした態度が気に入らねぇんだよ!しかも俺は同じクラスの小林だよ、覚えてねぇのかよ?!」


 同じクラス?良く考えてみればそうだったような気がしないでもないし、違うような気がしないでもない


本当に俺はコイツと毎朝顔を合わせているのだろうか?俺が考え込んでいると、相手は苛立ちを隠せなくなったように声を張り上げた


「お前っふざけるなよ!」


 酷く鈍い音がして、俺の頬に激痛が走った


「いって―――――」


 口の中からは生々しい温かさの血が俺の中に充満した


 痛い


 堪えきれない痛さに俺は地面に手をついて頬を押さえた


 痛い


「どうしたんだよ。さっきまでの威勢はどうしたんだよ龍崎!」


 痛い


 俺は起き上がって、背負っていたランドセルを下ろすと、逃げるように走り出した


「おぃっ!待て!」


「逃げるなよ!龍崎!!」


「待てぇ!」


 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い俺にかまうな


 ほっといてくれよ


 行く当てなんか無い俺は何処へ行くかも分からずに走った


 とりあえずあいつ等から遠ざかるならなんでもいい


 俺が角を曲がろうとしたその時、前方から二手に分かれて俺を挟み撃ちにしようとしている小林達が見えた


 つかまってたまるか


 意地になっていた俺は近くにあったマンションの階段の手すりに手をかけて、一気に駆け上がった 


 下からは俺の足音に混じって小林の声がする


 もう追いついてきたのか?


 俺はさっきよりもより一層力を込めて上った


 足音だけが虚しく反響して響く


 俺にはさっきよりも小林の声が近くなってきているのがわかった


 焦った俺は立ち止まって小林を待った


 此処まで来たのだ、もう何処へいったって変わらないだろう。俺は呼吸を整えた


 俺が立ち止まってすぐに小林が俺に追いついた


「もう逃げらんないぞ!」


「はじめから逃げてねぇっての!」


 ゼイゼイと息が上がっている小林に向かって俺は怒鳴っていた


 すると、小林はにやりと笑って俺を見た


「へぇ、マヒロちゃんも怒鳴ったりするんだ?」


「五月蝿い」


「そうだよなぁ、お前だってイラつくことぐらいあるし・・・・お前んちだって大変だよなぁ?お前ん家は親居ないもんなぁ?」


「五月蝿い」


「大体お前は気に入らないんだよ。かわいそぶっちゃって悲劇のヒロイン役かよって感じ――――」


「五月蝿いんだよ!親のことは関係ないだろ?!」


「・・・何熱くっなってんだよ?」


「家のことは関係ないだろって言ってんだよ!どうしてお前みたいな何でも持ってる奴からなんでそんなこと言われなくちゃいけないんだよ!」


 俺の眼には涙が溢れ出していた


「は?何泣いてんだよお前――――」


「五月蝿いんだよ!」


 俺は振り返ると階段をまた上りだした


 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いんだよ


 ほっといてくれよ


 俺は一番上まで上りきると、目の前にあったドアを開け放った


 俺の視界が明るく開けて、眩しい夕焼けが俺を照らした


 俺は屋上まで上りきっていた


「はぁはぁはぁ―――――」


 息が切れた俺の目の前に何故か大きな扉があった


 どうしてこんなところに?


 俺が立ち尽くしていると、下のほうから不意に小林の声に混じって別の声がした


 さっきまで俺の後ろで都市伝説の話をしていたクラスの連中の声だった


 クラスでは真面目そうな眞子や律までもそのメンバーに入っていたらしく階段の下のほうから小林と話している声がきこえる


 まだ居たのかよ


 俺は小林への苛立ちが隠せなくなって舌打ちをした


 もういい


 どうなってもいい


 俺は目の前の扉に手をかけて勢い良く押した


 此処から何処かへ行けるなら―――


 扉は軽々と開いた―――

 

 不意に力強い風が俺の背中を押した―――いや、違う


 扉の中に向かって強い風が吹いた。俺は急に吹いた風に驚いてドアノブから手を放してしまった


「!」


 俺は扉の中に引き込まれた



「うわぁああぁあああぁぁぁあああ―――――」



 扉は俺を一のみすると、音もなく閉じた


  

 

 

 

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