未来への約束2
「と、まぁこんな具合でしょうか」
「長い語りを急ピッチですいません」
「いいえ、勇者様のお役に立てましたなら何よりです」
小父さんは気のいい笑顔を浮かべると、さっきよりも幾分歩くスピードを緩めた
「それでですね、勇者様――――この伝説には続きがあるんですよ」
「続き――――ですか?」
「はい」
それはどんなものなんですか?
とは俺が聞かなくても小父さんは言ってくれるようで、俺に質問の余裕をつくらせない程度の速さで口を開いた
「この話はそれぞれの国の中心を仰せつかっているか、又は内部の人間にしか分からない――――もっともわかっておられるのは魔族の方々くらいかも知れませんが」
「どういう・・・ことですか?」
内部の人間―――この人もまた、内部の人なのだろう
俺は出来るだけ話を聞き取るため、慎重に聞き返した
「私は生まれも育ちもザグラムの宮殿なものですから、余計に耳にするのですよ」
そういいながら、小父さんは少し遠い目をしていた
「この話に出てくる勇者と魔法導師はそれぞれにナミダを持っていたと云われているんです」
「それぞれにですか?」
「はい」
さっきの伝奇によれば少なくても七つだったはずなのに・・・・
勇者に魔法導師、二人ともなれば数も二倍。どうやったら今の話とくっ付けることが出来るんだ?
俺が言い出そうとしたときには、もう既に小父さんは話し始めていた
◆ ◇ ◆
それぞれに旅立った勇者に魔法導師は姿を見せなくなったが、反対に『後継者』としてパレスを訪れるものは月日が経つにつれてふえていく一方だった
だが『後継者』たちの中には悪意を持ったものも多く、願いを叶えるためだけに来る者も少なくはなかった
そこで、パレスでは世界一の魔力を誇るニノラに門番を任せることになった
強大な魔力により不死の異名を持つニノラは扉を制限し、格下げのランク付けや採点を行うことにより以前とは比べ物にならないほどの数にまで減少していた
だが時が経つに連れて『後継者』はまったく姿を現さなくなってしまった
そんな時、一人の少年と少女が姿を現した
少年は扉を引いたことにより『勇者』に
少女は扉を押したことにより『魔法導師』に
二人は願いを叶えるために旅立った
だがその間もなくのこと
パレスは崩壊の危機を迎えることになる
それは勇者―――少年が手にした七つのナミダの願いによるものだった
少年は心から無を望み、全てを消し去ろうとしていた
皮肉にも、勇者だったその少年は世界を壊すほどの力に満ち溢れ
強欲なまでのただの塊となしていたのだった
純粋に求めるが故の無垢な愛情は果て無き時によって残酷な卑劣に変ったのだ
しかし、少年が勝利を確信した次の瞬間、少年の願いは掻き消えたのだった
それは魔法導師―――少女のナミダによって
少女はナミダでは払えない代償を自分の時間と引き換えにして
この世界を救ったのだった
少年は心を取り戻し、聖堂を白い国―――ザグラムに立て全ての人々が幸福になるようにと心から誓った
そして少女の形もない亡骸を黒い国―――デゥクスに祭り、海の安定を願ったのだという
ナミダはこの世界―――パレスに二種ある
それは七つ集めたものだけに分かる幸福に満ちた誘惑と
本当に一握りの誰かを助けたいと願う心のどちらかに反応し
世界はそれに答える
願いを叶えたいという気持ちは一体どちらが強いのか
「永久に」
そういった二人の後にはただ何を想うのだろう
二人に等しい二人が現われ世界は壊れて一人によって戻り
そしてまた誰も訪れず
扉を開く者は居なくなった
ナミダは各国ごとに祭られ、未だ何処かに隠されて眠っているという
その詳細は各国の王のみぞ知っているとされ、
外部者、又はその子供でさえも知られてはならない
願いを叶えるために
ナミダを集める者、
それは国を知り、王を暴き
この世界を食い尽くすのみ
願いを強く求めよ
世界は強い想いにのみ応えよう