表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

歓迎の声と盗み聞き

「ようこそ!ザグラムへ!」


 セシルの声はなんだか弾むように楽しげなのが見なくても分かるほどだ


 俺はルラの背から足元を見渡した


「すごい――――」


 目の前の大きすぎるほどの城・・・・・・?


 とは対照的に足元の地面には小さな家が立ち並んでいて


 中央の道には屋台が並んでいる


 見るからに賑わっているそれは今にも楽しそうな声が聞こえてくるような気がした


「此処はこの世界の西を司る国だから交通も多いし旅人がよくやって来るんですよ」


「へぇ・・・・・」


 俺もその一人ってか


 心の中でそう呟くのが早かったか、セシルが言い出すのが早かったのか


 ルラが急にスピードを落としたのと同時に、セシルは話し出した


「勇者様はいつ頃まで此処に?」


「え?」


「?滞在なさらないんですか?せっかく白の国にいらしたのに」


 セシルの背中越しにどんどん城は近くなる


「いや別に・・・・俺は・・・・」


「楽しいですよ!此処には聖堂もありますからね〜」


「聖堂って?」


「はぃ?神話―――伝説をお聞きになったことないんですか?」


「はぁ」


「ニノラ様よっぽど忙しかったんですかねぇ」


 そういって高らかに笑うセシルはどこなく諦めの入った感じがした


「いや、忙しかったっていうかそうじゃないって言うか・・・・」


「あ、勇者様!もう着きますよ」


 セシルの声と共にルラが大声で吼える


「総理!只今帰りました!」


 ルラは大きな扉の前にゆっくりと高度を落として着陸すると


 背にいるサラを庇うように俺たちを下ろした


「良く帰ってきましたね、セシル」


 俺たちを出迎えた福与かなオーラを放つ女性はにこやかに微笑みながらさり気なくサラに目配した


「お嬢様にお怪我はありませんでしたか?」


「・・・・女王様の手のものに背中を。お嬢様でしたから急所は避けていましたが、傷は深いものでした・・・私の魔力で何処まで治ったか分かりませんが・・・・」


「そうですか・・・・ルラがここまで?」


「はい。お嬢様は勇者様に連れて来ていただきました」


「!それは本当ですか?」


「はい、此方にお連れしております・・・勇者様、此方に」


「え?あ、はい」


 俺はセシルに促されるままに差し出された手のほうへ進んで、セシルと話し込んでいた女性―――彼女と顔を合わせた


「お初目にかかります勇者様、この国の政を総理として治めておりますサウルと申します」


「初めまして」


 俺は出掛かった名前を押し戻して、何とか平然を装いながら握手を交わすことが出来た


 危ない


 緊張感と気を抜くと不意に来る焦りが心臓の主張を大きくする


「お部屋の手配はこちらでさせて頂きます」


「そんな・・・・・でも・・・・」 


「遠慮なさらないで下さい、好きなだけ居てらして下さい」


「そうですよ勇者様!総理もこう言ってることですし、ゆっくりしていって下さい」


「はぁ」


 腑に落ちないような感覚が俺の頭を支配しはじめるが


 それを振り払うようにサウルは続ける


「お手数をお掛けしますが勇者様、女王様に会って頂けませんか?」


「はぁ」


「本当に申し訳ございません」


「いや、いいんですけど・・・・・・」  


 俺の生半可な返事に、サウルは下げていた頭を勢い良く上げた


「本当ですか!ありがとうございます!」


 あまりにも嬉しそうなその顔に俺は何だか押されつつも


 サウルの秘書だという小父さんに案内を受けるように、と言われて先の道を通された


「あとで私たちも向かいますから」


「はぁ」


 心配することはないのだろうか


 俺はセシルとサウルの顔に安心感を覚えて、二人の傍を離れると、小父さんの背中を追った


 後ろのほうで、セシルに連れられていくサラと


 サウルに何かを報告しているような黒服の男を一瞬だけ見た


 何を話しているんだろう?


 一瞬の刹那的誘惑


 俺は自分の好奇心に負けて、遠ざかっていくサウルの声に耳を傾けた


「そう・・・・・またこの集団が――――」


「はい・・・今回は船の荷物を・・・・頭は今此方に――――」


「・・・・・・も一緒なのね・・・・・心配はないけれど・・・・・・・・」


「この二人は地下に――――」


「そうね、できたらそうして頂戴・・・・あとで私も・・・・・・・」


 大きく高い天井に響く自分の足音に、その会話は掻き消されてしまって


 もう聴こえない


 振り返ると、そこにはもう二人の姿はなかった


 聞く必要はなかったな・・・・・


 俺は少し罪悪感を感じながらも、小父さんの背に向き直ってさっきよりも少し足を速めて歩き出した


 足音は大きすぎるくらいに俺の耳に響いた 


  


  


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ