見知らぬ場所で目覚めて
最初の3つが同日投稿でしたが、1日ずつずらしておけば、今日まで毎日投稿になったんだなー、とか思ってます
「───あれっ?」
目が覚めたアンドロイドの少女は、見知らぬ場所にいることに気づいた。
「……ほぇ?ボク、どうしたんだっけ……」
アンドロイドのくせして、寝ぼけているようだ。半分閉じた目でそれと分かる。
現状が把握できず、まともに働かない頭をなんとか動かして記憶を辿り───
「あ゛─────ッ!!」
思い出して跳ねるように立ち上がり───
ごすんっ!
「あ゛─────ッ!?」
頭上の板に頭を痛烈にぶつけた。
一分後。
「……大丈夫か、あんた」
リクハルドが、少女が目覚めた場所の戸を開けて現れた。
少女は呻きながら頭を押さえていたが、なんとか頷く。
「物置ぃ!?ヒドいよ、いくらボクがアンドロイドだからって、女の子をそんな汚いとこに置いとくなんて!」
リクハルドの家、その居間で、頭のてっぺんに×の形に湿布を貼った少女が抗議した。
それにリクハルドが言い返す。
「うるさい、あんたが『すぐ去る』とか言ったくせに気絶するからだろうが!」
「うっ、それはっ……で、でも、気絶しちゃったものは仕方ないじゃない!ボクだって好きで気絶したわけじゃないし!」
「あれから俺達がどんだけ苦労したか知らんくせに!近くにでかい廃坑あったから隠すのは出来たが、大変だったんだぞ!」
敵が撤退し、少女が気絶した後。当然機体を放置するわけにもいかず、リクハルド達は近くの廃坑に隠すことにしたのだが、なにせ教わった操縦最低限のみ。セミオート操縦故に多少のサポートがあって、廃坑には入ったが、今度はコクピットハッチの開け方が分からない。
アレコレとデタラメにボタンを押して、運良く開いたからまだ良かったが。
そして次の問題、少女の運搬だ。ただでさえ人を運ぶのは大変なのに、彼女はどう見ても重装甲のロボットボディ。当然、重い。
廃坑内の木の通路───ちょうどコクピットと同じくらいの高さにあった───がギシギシと嫌な音をたてるのを聞きながら運ぶ二人は、戦闘中より生きた心地がしなかったという。
二人してリクハルドの家に戻ったら、心配した彼の母にこっぴどく叱られたり、少女を匿おうと言われたり、そのために物置までまた運搬しなければならなかったり。
ちなみに、イェレミアスの家には電話───普通の家庭に有線式のものは一つくらいある───をして「安全が確認できるまで一晩泊まってもらう」と伝えてあった。
「う、うう~……ごめんなさい……」
以上のことを滔々と語ったリクハルドに、少女はしゅんとなって謝った。
「ゴメンで済めば警察は要らん!」
相変わらず怒り心頭のリクハルドだったが、母・カリナと友人・イェレミアスがそれをなだめる。
「こらこらリク君、女の子を泣かせちゃダメよ。不可抗力だったんだから、あんまり責めちゃ可哀相よ」
「そうだよ、それに僕達を助けてくれたのも事実なんだし」
「……まぁ……確かにちょっと言い過ぎだとは思うが……って、おい……」
リクハルドが少し反省している間に、カリナは少女に挨拶していた。
「おはよう、アンドロイドさん。私はカリナ・ジリアクス、そっちの仏頂面してる男の子、リクハルドのお母さんよ。リクハルドの隣にいるのがイェレミアス・ラハティ、彼の親友よ。あなたの名前、教えてくれる?」
「え、あ、はい」
急に優しくされたからか、少し混乱したようだが、少女は答える。
「えっと、ボクの名前は『トゥーリア・ヤルヴェライネン』です。見ての通りのアンドロイドで……えっと、これ以上は答えちゃいけないので……」
語尾が小さくなっていくが、リクハルド達は特に気にしてはいないようだ。
「トゥーリアちゃん、ね。少しくらい事情は聞いたから、ほとぼりが冷めるまでここにいるといいわ」
「えっ。えーと、リクハルドくん、話しちゃったの……?」
意外な言葉に、少女……トゥーリアはリクハルドに確認をとる。
「隠せることじゃないしな。大丈夫だ、今この場にいる者以外は誰も知らないはずだ」
「そう、なんだ……。あ、ありがとうございます、そのー……お、おねーさん!」
「おばさんでいいわよ、それくらい気にしないわ」
……とは言え、カリナの見た目は結構若い。トゥーリアが『おねーさん』と呼んだのも、それらしい雰囲気があるからだ。
「それはそうと、朝ご飯がまだだったわね。ちょっと待ってね、用意するから。イェレミアス君もトゥーリアちゃんも食べていくといいわ」
「すみません、おばさん」
「え、ボクもいいの?」
「ってかトゥーリア、お前食事すんのか」
「うん、エネルギー補給の一環だよー」
リクハルドには、食ったものがどうなるかを訊く勇気は無かった。
ちなみに、当然のことだが、昨晩の件で学校はしばらく休校することになっていた。