表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

天より墜ちたる巨人 その呼び声

 普段通りの学業を済ませ、放課後になった。リクハルドは食べ歩きをしようとイェレミアスを誘ったが、


「ごめん、僕、今日はちょっと用事があるんだ」


 と断られてしまった。


「そうか、そりゃ残念だ。明日は期待してるぜ、それじゃな!」


 仕方なく一人で帰宅することにしたリクハルドは、通学路の途中にある商店街を通ったところで、気づいたことがあった。同じ時間でも、普段より暗かったのだ。


「……今日は、日が落ちるのが早いな。何か、変な事でも起こらなきゃいいが」


 リクハルド自身は、痴漢や変質者の存在を指して言ったつもりだったのだが……


 偶然にも、彼の言葉の直後、『それ』は墜ちてきた。


「……な、何だ!?」


 見上げた空の上で、何度か光がまたたいたかと思うと、突然ひときわ強い光……いや、炎が上がった。

 炎を吹き出しているモノは、燃えているがために、その輪郭が見える。

 鋼に包まれた、巨人。


「……エクエス・カリュプス……!?どうして、こんな辺境の街に!?」


 ───この惑星では、巨大な人型ロボットが普遍的に存在している。

 100年ほど前に発掘されてから、まず戦場に、それから民間にも投入されている。

 その中でも、軍用に使用されているものを指して呼ぶ名が『鋼の騎士エクエス・カリュプス』だ。平均的な全長は20m、今ではほとんどの国の軍で主力兵器となってる。

 略称として、ECと呼ばれている。

 民間のものについては、後述する。


 炎を纏ったそれは、リクハルドが見ている前で、彼の通う学校へと墜落した。

 衝突の轟音、爆発音、それから少し間を置いて、人々の叫び声と、駆け足で逃げる際の不規則な足音が響く。


「な、何か知らんがヤバそうだ……!」


 リクハルドもそれに倣って逃げようとしたが、すぐに思いとどまった。


「……そうだ、イェレミは!?あいつ、用事があるとか言ってたが、まだ帰ってないんじゃないのか!?」


 最悪の事態を考えた彼は、学校へと走った。逃げ惑う人々を最小限の動きでかわし、密集している所は避け、真っ直ぐに。


 程なくして学校に辿り着いたリクハルドは、衝撃的な光景ばかり見ることになった。


「……おいおい、二年の校舎、ほぼ全壊かよ!?」


 機体が墜落したときに直撃したのだろう、リクハルドらのクラスがある校舎は、そのほとんどが崩れ落ちていた。だが、不幸中の幸いか、彼のクラスは半分程度の被害で済んでいた。

 それ以外では、ガス管が破裂したのか、火災が起きている。


「……他のクラスの人には被害が及んでなきゃいいが……むっ!?」


 心配するリクハルドの視界の端で、墜落した機体が動き出す。漆黒の装甲を持つそれは、炎が鎮火してはいたが、背中───アンバランスなほどに大きなバックパックの下部、その時のリクハルドには知る由もなかったが、スラスター部分だった───に、火花が散っていた。

 そして、漆黒の機体が立ち上がると同時に、別の機体が2機、その目前に着地した。


「……まさか、こんな所で戦闘する気か!?勘弁してくれ、せめてイェレミを見つけて連れ帰るまでは……!」


 幼馴染みにして親友を心配するあまり、本当に逃げ遅れているとは限らないということを失念している。そんな彼の視線の先、新たに現れた機体が、銃を構える。


「おいおい、やめてくれ!この黒いのが避けたりしたら……!」


 間違いなく、直撃、跳弾、破片、どれかに当たる。しかし、それを省みて射撃を中止することは、十中八九有り得ない。マズルフラッシュが閃き、絶体絶命と思われた、その時……金属同士・・・・がぶつかり合う激しい音が鳴った。


「……ん、まだ……生きてる……?」


 恐怖に身をかがめていたリクハルドは、目の前にいる巨人を見やった。

 それは、両腕で弾丸を防ぐ姿勢だった。まるで、リクハルドを守るように。

 何故、そうしたのかは分からない。しかし、続く銃撃も同じように受けているので、リクハルドはこれ幸いとイェレミアスの捜索を続けた。


(助かった……ありがたい。だが悪いが、感謝は後回しにさせてくれ……イェレミ、どこに行った!?)


 心の中で感謝と謝罪をして、半壊した自分のクラスに入る。果たして、イェレミアスはそこにいた。片足が、吹き飛ばされたらしい机の間に入っているように見える。


「イェレミ!無事か!?」


「リク君!?わざわざ戻ってきたのかい!?」


「当然だ、親友だからな!それで、どうだ!?足に痛みは!?」


 話もそこそこに、状態を訊く。


「うん、大丈夫。ただ、引っかかってるみたいだ……」


 角度や向きを変えながら引くが、一向に抜ける様子がない。いくつもの机が重なっているため、簡単には動かないためだ。


「分かった。じゃあ、持ち上げるからその間に出るんだ」


 リクハルドはそう言うと、迷わず、躊躇せずに、イェレミアスの足を挟んでいる机に手を掛け、


「ふんッ……ぬぅぅ……!」


 僅かに隙間を広げる。


「よし、抜けたよ!」


「ぶはぁぁっ、重かったぁ!さあ、逃げるぞ、怪我は無いな!?」


「うん、心配かけてごめん!」


 鋼の巨人達を後目に駆け出す二人。





 だが、災難は続く。





 二人が離れたためか、漆黒の機体は防御一辺倒の態勢を解き、立ちはだかる。

 対する二機は、再稼働した相手を手強しと見たか、爆発物……銃身の下部に設置された射出器により発射されるグレネード弾を撃った。

 漆黒の機体は回避行動に移るが、突然バランスを崩し、直撃ではないものの、爆風を至近距離で受けることとなった。

 対EC用の擲弾てきだんとなれば、その威力たるや対人用のそれとは比べものにならず、漆黒の機体は大きく吹き飛ばされる。

 そして吹き飛ばされた先は、リクハルドらの目前であった。


「どわぁぁ!?せっかく逃げられたと思ったのに!?」


「ヤバいよ、僕達どうなるのさ!?」


 進行方向を塞がれた形となった二人。

 今度こそ万事休すかと思った矢先、転機が訪れた。


『キミ達!……お願い、どうか、ボクに協力して!』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ