どっから見てもハニーは可愛い
絵を描いてくださった方:@zasiki1 さん(TwitterのIDです)
生徒ナンバー:6
あだ名:ハニー
所属:バカップルグループ
概要:気が強い風に見せているが、本当は泣き虫で甘えん坊。ダーリン一筋である。
〇〇〇
今の状況を一言で表すと、ゲームの中ってことで良いと思う。
クラスメイトの1人がこの世界についての簡単な説明と、説明書とやらの画面をだしてくれた。原理は分からないが、あの放送主は不思議な力があることは分かっている。それだけの情報で俺がするべき事は、ハニーを守ることだ。
「守ってみせるから、心配しないで」
「うん、ありがとう」
恐怖でハニーの涙が頬を伝ったので、涙を地面に落とさず俺の胸で受け止める。ハニーが背中に震えてる腕をまわすので、優しく頭を撫でる。
説明書を見終わり、この場から離れていくクラスメイトが多くなってきた。全員で協力すれば良いのだが、説明書には「3個以上のパーティーが近くにいる場合が長時間続いた場合、ゲームオーバーとなります」と書かれている。ゲームオーバーとは何を意味するのかが分からないし、教室であった出来事を思い出せば、ルール違反はできない。すると強い人と一緒に行動をしたくなるのが心理であろう。だが説明書にはステータス=将来の有望性というのが書いてあり、信用できる人以外には見せたくない。つまりパーティーを決めるときもっとも信用できる3人を選ばせ、それ以外は切り捨てたと周りは思ってしまい、信用できなくなってしまう。グループとして孤立したのだ。
「もう大丈夫。きっと私たち生き残れるよね」
しゃっくり混じりの声を出しながら、上目で俺を見つめる。
「死になんかしないよ。もしもそんなときがあるなら俺が代わりになるよ」
ハニーの額に優しくキスをして、不安を洗い流せるように微笑む。
「もお~、ダーリンは本当に格好良いんだから」
「ハニーの方も可愛いよ」
「ありがとう」
ハニーが俺の胸元から離れて、少し赤く腫れた目はまっすぐ芯の通った瞳に変わっていた。そんなハニーの儚い笑顔を俺が守らないとな。
「おーい、いつものようにバカップルだな」
陽気な笑いと共に、声が背後から聞こえる。
振り向いてみるとそこには茶髪で女好きと名高いクラスメイトが芝生の上にあぐらをかいていた。関わったことは少ないが、やんちゃであるがとても優しくて面白いクラスメイトである。
「バカップルってことはそれだけ愛し合ってるってことだから、俺たちにとっては嬉しい言葉だよ」
「やっぱり、お前はどこにいても変わらずいつものダーリンだな」
俺とハニーがいつもさっきみたいな会話をしているので、クラスでは自然にダーリンと呼ばれるようになった。
「いいあだ名だよな、それ」
「はぁー、なんでそんな思考になんだ」
「でも君もいいあだ名持ってるよね?たしか……月仮面君」
「なんで幼稚園の頃のあだ名知ってんだよっ!」
「俺の友達に月仮面君と一緒の幼稚園を卒園した人がいてさ」
「ちゃっかりそれで呼ぶなよ」
睨んでくるが俺の表情を見てため息と共に、怒りを吐き出したように見えた。
月仮面君の由来は幼稚園でお芝居の時に主役だったためノリノリでやった結果、アドリブばっか入れたせいで、他の子供を出演させずに幕を下ろしたというものだ。話を聞いた両親はこっぴどく叱り、わざわざ家まで出向いて謝ったという事件があったらしい。
やれやれといった感じで月仮面君が頭を掻いていると、また後ろから声が聞こえた。
「あっちの方に建物があるよ」
こっちはいつも月仮面君にべったりな男子だ。関わったことはほとんど無かった気がする。
「お、ジュン、サンキュー!」
「別にいいよ。それよりお前達誰?」
キッと強い視線で俺とハニーを睨んでくる。瞳には警戒の色がうかがえた。
「一応クラスメイトのはずなんだけどな。ジュン君」
「知らない。ボクには月仮面くんがいればいい」
淡々とそう言って人差し指を月仮面君に向ける。
「うーん、友達と一緒にいると楽しいだろ?」
「そんなことはない」
俺に対して素っ気ない態度が気にくわないのか、ハニーの拳が少し震えていた。
「あの、私のダーリンが仲良くしようとしてるのに、その態度はありえないわよ!」
ハニーが立ち上がって、ジュン君に向かって人差し指を突き出す。
「なんか言った?」
絶対聞こえていたはずなのに、睨みをよりいっそう強くしてわざと聞き返した。
「うぅ、怖いよダーリン!」
可愛い子供のように、ハニーが俺の胸へと帰ってくる。
「おーい、オレを無視しないでくれよ」
月仮面君がのそのそとがに股で歩きながら聞いてきた。
「なんでもないよ。さっさと行こうか」
ジュン君が月仮面君の手を握って、建物があると言っていた方向に歩き出す。
「おい、ジュン。行くならこいつらと一緒に行こうぜ」
俺たちの方に無邪気な笑みを浮かべながら月仮面君が言うが、どうもジュン君は納得し難い表情だ。
「さっきも1人入れたのに、またもう2人入れるの?」
「いいじゃん、いいじゃん。大勢の方が楽しいと思うしな」
月仮面君は笑いながら肩を叩いてると「……分かった」とジュン君は渋々了解してくれた。
*
あのあとジュン君についていくと、町のような所に到着した。コンクリートの煉瓦で建造された建物が多く、歩くところも綺麗に舗装されている。活気がよく八百屋のような店から大きな男性の声が聞こえ、また違うところからも大きな女性の声がした。そんな声が無数に行き交う中、大人から子供までたくさんの人がごった返していた。
丸い月の中心にに三日月が刺さっている模様が刺繍されている旗が、一般の家の窓や、店頭にも、そこらじゅうに掲げられている。
「そこらへんにいるやつから財布をスって、その金で一応住むところは確保しておいた」
ジュン君が平然とズボンのポッケから革の財布を取りだし、月仮面君に渡す。
「お前って本当に手先器用だよなー」
「簡単だよ、今度2人の時に教える」
「お、サンキュー」
「ちょいちょい、君達そんなことしてダメだろ」
日常会話にスリの話題がでてくるなんてハニーが怖がったりしたらどうするんだ。まったく。
「だってよ、ここゲームの世界なんだぜ。タンスから薬草を勝手に奪うっつうのもあんじゃん」
「この世界はただ外見がゲームのように見えても、ここに住んでいる人は仕事を持って、命を持って生きてるんだよ」
「お前とオレって本当に性格が裏と表だな」
「話をそらさない。で、どうするの?」
「へいへい、分かった。金はもう使っちまったから、金貯めたら後で返せばいいんだろ。あ、でも誰か知らないよな」
「宿の店主からスった」
「自分の盗まれた金で人を泊めさせるって、えげつないな。ま、そいつに渡せばいいんだな」
どうにか分かってもらえたようだが、ジュン君の視線がとても痛い。
人混みのなかに入ろうと思ったとき、視界に入ってきたのは3本の赤いメッシュが印象的な男と、おばあさんだった。
「おい、ババァ。金出せばこの場から見逃してやるって言ってるんや」
「わ、わかったから、だから暴力だけは」
おばあさんは手に持っていた、所々に傷がついてる使い込まれた財布を、メッシュの男に渡して一目散に逃げ出した。まさしくカツアゲの現場を目の当たりにした。頭が動くより先に俺は歩き出していた。ハニーも2人のやりとりをみて苛ついてるのか、俺のことを止めようとはしない。
残り数歩のところでメッシュの男はこちらに気がついたのか、俺に向かって不適な笑顔をつくりやがった。まるで今さっきやった行動を誇りに思っているかのように。
胸ぐらを掴みコンクリート製の家の壁に叩きつけるように体全体を押した。
「ちょお待てや。いきなりはおかしいんちゃう?」
未だに平然と不適な笑顔のまま会話を始める。
「今なにした」
「ん?ちょおっと金貸してもらっただけや」
「ふざけるな」
俺が空いてる拳を振り上げようとした瞬間、月仮面君に止められた。
「おっとダーリン、悪いな。次からやらないようにオレがいっとくから」
「こいつと知り合いなのか?」
「悪友……ってとこかな」