イエスイエス
描いてくださった方:ウサミンさん
生徒ナンバー4
あだ名:黒髪不良
所属:不良グループ
概要:どっちかというと一匹狼の方が気楽と思っているが、茶髪不良と一緒にいるのは好きである。無言でキレて、喧嘩になると容赦ない。
※左側
生徒ナンバー5
あだ名:茶髪不良
所属:不良グループ
概要:静かな黒髪不良を信頼している。無駄な暴力はしない主義だが黒髪不良と組んで喧嘩を始めると、敵無しと噂されている。女好き。
※右側
※絵はあくまでイメージです。
「やってまいりました!はじまりの町!」
木造製の一軒家が連なる町へたどり着いた。綺麗に掃除されている砂利道で子供がおいかけっこしたり、近所の主婦が世間話をしたりと、RPGゲームではお馴染みのほっとする光景である。奥にはコンクリートで作られた西洋風のお屋敷があり、中心に旗が掲げられている。この世界の太陽である三日月が交差して湾曲したバツ印になっている。たぶん王様が住んでいる所だろう。
はじまりの町とはただ俺が勝手につけた名前で、本当の名前は違うと思う。
きっとここにはインターネット回線とかなさそうだな。
「はじまりの町と言ったら、まずは王様と会話をして姫を助けたり、魔王の討伐クエストを受けるのがベターなところだよな」
隣にいるパズの方へ視線を向けてみた。
「行動しなくちゃはじまんねぇし。行ってみるか」
とりあえず屋敷に向かうことになった。
「王様からお金とかもらえそうだよね」
「わかるわかる。軍資金として王様から少しだけ金が貰えて、新しい装備を買うんだよな」
「だが、その金だけじゃ装備を一式揃えられなくて、防具のみで武器が買えねぇとか、一段階上の武器を買ったらそれ以外なにも買えなかったりして」
「かといって装備だけに金をつぎ込むと、道具を買えなくて回復できずにゲームオーバーになんだよな」
「初心者のあるあるだね」
はじまりの町に住んでいる人達にとっては異次元の会話かもしれないか、周りのことは気にせず屋敷に向かって歩いていると、急に後ろから肩を叩かれた。
パズとジュウは俺の少し前を歩いているから、俺の肩を叩けるはずがない。つまり、なにかのイベントか。
振り向きつつ手を自分の胸に当てる。
「はい、俺はしがない冒険者です。なにか困り事がありましたら俺をたよってくださ……」
顔が急に熱くなるのを感じ、背中から滝のような汗が一気に吹き出す。
「えっと……たしかズムくんって呼ばれてるよね。あのー、わたしたちズムくんと一緒に行動しても良いかな?」
頬を人差し指で掻きながら誘ってくるのは、教室で俺が黒髪不良から殴られそうになった際に身を呈して守ってくれたショートヘアーの女神だ。
「そそそれはどどうゆうこちょなんだってばよ」
上手く言えたかな。緊張と恥ずかしさがピークの俺には冷静という2文字は一時的に心の辞書から離脱している。
「もう一回言ってもらって良いかな?」
「ごごめん。ななんで俺とくみたったいの」
声が裏返った。心が折れそうなので、後ろにいるパズとジュウに視線を送るが、二人とも他人のふりをしている。このコミュニケーション障害野郎共め、ゲームの説明書のことをクラスメイトに話すときの態度はどこいった。
たぶん説明書の件はゲームの世界にいるテンションと事務的な会話だったからできたが、今回みたいなほとんど会話をしたことがない女子との会話のキャッチボールができないんだろう。ちくしょう、俺もだよ。
「……あ!えっとね、三人ってこの変な所について詳しいから一緒にいたら安全かな、なんて」
そのちょっとした笑顔も俺にとっては、爆弾を体内に入れられたような緊張と焦りが体を襲うんだよ。
「きゅわしくはないきゃど……ちょっと会議をしちぇもいいきゃな」
「…………あ、いいよ」
ごめんなさい、聞き取りづらい喋り方して。微妙にひきつった笑顔が俺の心を蝕む。
すぐさま踵を返し、今までずっと後ろにいたコミュ障の2人の首根っこを掴む。そのまま引きずり、近くにあった家の後ろに隠れる。
3人で円陣を組ながら小さい声で会議を開催した。
「お前らよくいきしゃあしゃあと、他人のふりしてくれたな」
「ズム君ごめんね」
「オレはズムのような下着泥棒をした童貞のような挙動不審野郎が目の前にいたら、誰だってよそ見をしたくなるだろ」
「え……そんなに酷かった……?」
パズとジュウは容赦なく首を縦にふる。
「お、お前らも同じになるだろ」
「それを言われたら、僕はなにも言えないな」
「オレはなんねぇよ」
「パズ君はなんだかんだ言って、話すときは話すよね。声が小さくて何度も聞き返されて心おれるけど。あ、でも好きな人の前になると本当になにも喋んないよね」
「……え!?パズに好きな人がいるって初耳だぞ」
「あれ、気がつかなかったの?バレバレだと思うのにな」
「てめぇら!いい加減にしろ!今はそんな話じゃなくてあの女子と一緒に行動するかどうかだろ!」
おぉ、顔を真っ赤にして可愛いね。
「しかし、本当にどうする」
俺が一旦会話の流れを遮断して元の道に戻ると、2人の表情に曇りが差し掛かる。
「おっそい!ウジウジしてないで男なら女子ぐらい守りなさいよっ!」
俺含めて肩を組んでいた3人の心臓が大きく脈をうつのと比例するように、体全体がぴょんと浮いた。
声の発信源の方を見ると、黒髪の艶やかなロングヘアーをして、綺麗に整った顔立ちで美人の部類に入る女子だった。同じクラスの学年委員長のなんだっけ。さすがコミュ障を極めた俺、名前を覚えていない。
「さっきの女子のパーティーメンバーだ。もう一回ズムがいけ」
「なんでだよ!パズは誰とでも喋られるんだろ!俺のテンパりダメージより、お前のゴモゴモダメージの方が少ないだろ」
「なんのことを言ってるか分からないが、とにかく、オレはあいつとだけは喋りたくねぇんだよ」
「ぼ、僕がいってくるよ。さっき逃げたことを悪いと思うし、ここでパズ君がいったら一生背負っていく心の傷ができそうだしね」
後半の理由はよく分からないが、いつもゆったりとしてるジュウがとても格好よく見えてしまう。それはもう、勇者のように。
「ジュウ、お前は本当にいいやつだ。ありがとう」
「てめぇは命の恩人だ。もとの世界に戻ったら昼飯おごってやるよ」
「スムーズに死亡フラグたてるのやめてほしいな。まぁ、今回は断ることにすればいいんでしょ?」
「そうだな。一緒に来たらストレスで胃に穴が開いてゲームオーバーになるからな」
ジュウは俺とパズと視線を交わし、大きく頷く。
ジュウがこの場を立ち去る後ろ姿は頼れる男の背中だった。
「会議は決着ついたようね。それで、決定案はなにかしら」
1つ深呼吸をしてジュウは立ち止まり、ロングヘアーの女子と視線を交わした。
「我は一端の兵士であるため、全てを捨てる覚悟で戦場にやって参りました!任務成功のためには――」
「はいかはい、イエスかイエスで答えなさいよ!」
「え、あわわきゅ、ぼ僕は、いえ、僕たちがだした結論は――」
「断るっていうのはありえないよね」
ロングヘアーの女子はジュウの胸ぐらを両手で掴み、恐ろしいほど据わった瞳で睨んでいた。
「もちろん断るはずがありません!」
大声でジュウは大空に向かって言い放った。
俺は隣にいたパズと抱き合って泣いた。きっとジュウも涙目だろう。