とびますとびます
『ゲームの説明をします!まず――』
「先生の悪ふざけだな。ドッキリとかしたかったんじゃねぇの」
一緒に話していた友達の肩を叩きながら、ある男が馬鹿笑いをしていた。
男は校則違反を犯して、染めてきた茶髪をしている。その友達もワックスでガチガチに髪をセットしていた。
よく2人はつるんでおり、学年の男子で発言力が高いグループだ。偏見で不良グループと呼んでいる。
「え、でも、怖いよ」
「大丈夫だよ、きっと」
不良グループと話していた女子二人が、手足を少し震わせながら手を握りあっていた。この2人は学年で可愛いという噂で、男子から人気がある。可愛いグループと呼んでいる。だって、可愛いとしか言えないんだから、しょうがない。不良グループが口説いていた最中なのだろう。
心配そうにしている可愛いグループを不良グループはチャンスだと思い、猛アタックを仕掛け始めた。お気楽だな。
「大丈夫だからな。俺が絶対守る」
「うん……ありがと」
えーと、教室のど真ん中で、ドラマや漫画でしか聞いたことがないような台詞を軽々と言ってしまうのは、学校が認定するバカップルである。しかも美男美女だ。
静寂に飲み込まれていた喧騒がチラホラと這い出てきた。
それを止めるかのように、放送からわざとらしい咳が聞こえる。静寂に飲み込まれた。
『この状況に慣れてきたようですね。それでは早速本題に入りましょうか!次に邪魔した生徒はペナルティをかします』
「おい、てめぇ!いいかげ――」
可愛いグループとの会話が邪魔されるのに対して不良グループの茶髪が怒鳴ろうとするが、途中で強制的に止まった。俺が茶髪を殴り飛ばしたからだ。なにやってんの、俺。
不良グループの黒髪がすぐさま俺の顔面へと拳を振りかざすが、可愛いグループの一人であるショートヘアーの……名前忘れた。まぁショートヘアーの女の子が身をていして俺と黒髪の間に入ってくれたので、黒髪は殴るのを途中でやめてくれた。名前を忘れましたが、女神さんありがとうございます。
「おい、茶髪の不良。殴りかかろうとするならやめといた方がいいと思うぜ。そんなことしたら、放送してるやつの邪魔になるからな」
俺の肩に手をおきながら、後ろからパズがにょっきりと現れた。
「このままいけば、テンプレ通りお前は死亡フラグを回収することになるぞ」
後ろからパズが堂々と話す。前にこい、前に。あと、手が震えてるぞ。
『素晴らしいですね!その通りです!もう少しで茶髪の不良はこの場から消えてました!』
放送からの拍手と笑い声が教室内にこだます。
その音を塗りつぶすかのように女子の悲鳴が耳に突き刺さった。
悲鳴のする方を見ると、茶髪の不良がいつのまにか茶色のロープで亀甲縛りされており、口にはガムテープが貼られていた。そんなことよりもっと驚いたことは、さっきの悲鳴は女子のオタッキーなグループから発せられたのだが、実は歓喜の悲鳴だった。たぶん初めてリアルの亀甲縛りを見たんだろう。しかも犠牲になった不良はイケメンな方だったことも加担している。女子って怖い。
『これぐらいおちゃのこさいさいだから、1人の人間を消すことも簡単だよ。手っ取り早く説明するから、少しぐらい待ってあげようね!これから10分の間に1人から3人のパーティーを組んでね。組み方は10分後に手を繋いでるだけでいいよ!さぁ、早く早く!』
俺達は反抗するという選択肢が無くなった。つまり、この放送に従うしかないのだ。
「もちろん、オレとジュウだよな?」
「つーか、お前らしか友達いねぇよ」
パズに向かってため息混じりで、返答をする。肩が痛いから、あまり強く掴まないで。
「よろしくね~」
こんな状況下でもジュウはおっとりとした目だ。あ、ゲームは離さないんだ。しかもプレイ中だし。
俺とジュウとパズは手を繋いで、互いに手汗がヤバイことを確認しながら10分待った。手汗を抑える方法をあとで調べてみよう。あとがあるかは分からんが。
あらかた決まったようだが、あの2人が心配だ。
誰とも関わらず、いつも1人のやつがこのクラスには2人いる。そいつらを俺は孤独グループと呼んでいる。
やはり、1人だ。席に座ったまま突っ伏している。この状況ですら寝たふりか。
『うんうん、決まったようだね。それでは今回のくえすとは異世界に行って、先生を倒すのが目標だよ!そこでは今作ったパーティーが大切になってくるから、仲間を大事にするんだよ!……そういえば判断がとても素晴らしかった、茶髪の不良を殴った生徒には特別なスキルをあげるよ!さて、生徒諸君。君達の未来は地球にとれだけ価値があるんだろうね!』
放送を終える合図のように不思議なチャイムが鳴り出した。
そのチャイムはまるで眠りに誘う死神の笑い声のようだった。
*
俺を含めたクラスメイトは、全員芝生に寝ている。気持ち良さそうに。