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終わりの場所

作者: 有馬千



 大きな月が、私を見下ろしていた。

 流れ星がキラキラと輝き零れ落ちる。

 流星雨だ。

 いくつもの流れ星が、こんなときに――そう、こんな時に。こんな素晴らしく夜空を彩っていた。

 それは、まるで祝福のようで。

 或いは、空が泣いているようでもあった。

 冬の夜空は星が綺麗に輝くというけれど。

 それは本当なのか、ちょっとわからない。

 思い出せる限りでは、夜空を見上げる機会なんてなく。

 だから普段の夜空の様子なんて、覚えてなんていないから。

 ただきっとそんなことはどうでも良いんだろう。

 今見上げている夜空は、確かに綺麗なんだから。

 比べる必要はないんだろう。

 そうして夜空を見上げながら、ゆるゆる、歩く。

 雲ひとつ無い夜空。

 私の息が、雲の変わりに視界を流れた。

 静かな夜。

 明かりの消えた街。

 私の暮らす街には海があり、静かな街にさざなみの音がひびく。

 乗り捨てられた車。

 チカチカ、チカチカ。

 寂しく明滅を繰り返す街頭。

 人の気配は無い。

 そう、誰の気配もない。

 堤防の上に乗り、両手を広げて歩いてみる。

 子供の頃にやったみたいに。

 瞼を閉じると、潮の匂い。

 子供の頃から嗅ぎ慣れた、匂い。

 深呼吸をして、体中を満たす。

 さぁて、どうしよ。

 瞼を開けて、手を下ろす。

 自然と唇が笑い出した。どうしよだって。

 月に照らされて輝く海。

 綺麗な夜空。

 とっても素敵な景色だと思うけれど――。


 大きな月が輝いている。


 今夜、地球に衝突するらしい。


 それを迎える最後の場所は、なんだかここではない気がした。

 だから、そう。

 歩き出す。

 通いなれた道。

 みんなは地下へと非難して、誰もいない道。

 冷たい潮風に吹かれながら、ぶらぶら歩く。


 そうして、やってきたのは家だった。


「ただいま」

 勿論返事なんてない。スイッチを押す。

 点かない明かり。

 大丈夫。自分の家だから、見えなくたって何とかなる。

 両手で壁に触れながら、そうして自分の部屋につく。

 暗くて物の輪郭程度しかわからない部屋。

 ぼすん、とベッドに腰掛けて。


「やっぱりこの場所が好きだなぁ」


 自分の家の、自分の部屋が。

 私はどこより好きらしい。

 布団に包まる。

 冷たかったけれど、大丈夫。きっとすぐにぬくくなるから。

 明日死ぬって思ったら、それはやっぱり怖い気がして。

 だから、全て夢にしよう。

 瞼を閉じて、布団をぎゅっと抱き寄せて。


 それでは皆様。

  おやすみなさい。


 死んだら夢で、逢いましょう。

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