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我らが太古の星シリーズ

分解

作者: 尚文産商堂

人類が滅んでから、もう何千世紀と経った。

みんなは、どこに行ったか分からない。

彼らが死んでからも、私はずっと地球を守ってきた。

もう、記憶も分からない。


私の子供たちも、どこに行ってしまったか分からない。

宇宙が平坦化したことで、宇宙中の銀河を見ることができなくなり、また、銀河も形を保てなくなった。

その兆候は、わずかな測定から見出された。


一般的には宇宙の平坦化問題と言われているそれは、宇宙の膨張にも関係がある。

膨張スピードが速ければ、宇宙は際限なく広がっていき、最終的には何も残らなくなる。

一方で遅ければ、途中で収縮に転じ、最終的には1点に集中することになるだろう。

その観測値から得られた結果は、宇宙は極めて膨張しているということだった。

このことから、この宇宙はいわゆる開いた宇宙であると判断された。

私は、最後の一人になるまでこの宇宙を観測することとなった。


人類が滅んだのは、ある致死性が100パーセントと言われたウイルスによってだった。

ニトロウイルスと呼ばれたそれは、感染すると体内でガスが生成される。

そして、そのガスを食糧として、数時間後爆発的に増えたウイルスによって、体は四散する。

さらに、四散した地点から、半径2mは、障害物がない限り直接感染し、空気中も漂うことができる。

数キロメートル離れたところまで飛ぶことができるという研究結果もあった。

今となっては、どれも意味がないように見える。

ニトロウイルスは、マイナス200度から1500度に耐え、放射線にも強く、数万Gという超高圧の環境であっても、DNAは破壊されないという性質をもっていた。

唯一の弱点と言えるのが、希ガスだった。

だが、それに対しても、空気中濃度が8割以上で1時間かかって、やっと1パーセント死滅するという効率性の悪さが、破滅へと導かれるための重要な布石だっただろう。

そもそも、このウイルスがどのようにして発生したか、誰もわからなかった。

血清も手に入れられることはなく、そのまま人類は滅亡した。

私のマスターだけは、アンドロイド化を施し、血液やガスなどを抜き続けた結果、なんとか生き延びることができた。

他の人がいない世界で、私はマスターを世話し続けた。


100年がすぎた頃には、他の生物にも感染を拡大しており、海の生物は全滅し、空にも命はなくなった。

そしてマスターがそのような状況の中、亡くなった。

私はどうしていいかわからなくなった。

だが、きちんと埋葬を行い、弔うことまではできた。

それからは壊れたレコードのようになっていたと、当時科学に言われた。

科学は私が産んだ子供の一人で、10歳程度の女児の体をしていた。


それから数世紀は、私はぼんやりとして過ごしていたようだ。

その間の記憶はすっかり抜け落ちている。

もう、取り戻すことはできないだろう。


陽子の崩壊が始めて観測されたのは、マスターの死から立ち直り、さらに子供達の手を借りて、ようやく元に戻った頃だった。

明確に陽子が崩壊したと観測されたのは、これが始めてだった。

さらに、崩壊のスピードは宇宙が加速度的に膨張するのに比例して増えて行った。


さて、ここで一つ風船を思い浮かべて欲しい。

その風船の表面には、少し離して黒い点がある。

風船を膨らませると、その点は、膨らませるだけ離れて行く。

仮に無限に膨らむとすれば、その点は無限に離れることとなる。

その時、風船上はどこまでも見渡せれるような平坦な世界となるだろう。

これが平坦な宇宙という意味である。

このように、互いの星はどんどん離れていくことになった。

科学は私がいた星にいたが、宇宙が引き伸ばされてとともに、惑星も崩壊し、科学とは離れ離れとなった。

もう記憶の中でしか会うことはできない。


しばらくして私の体も徐々に引き伸ばされているということがわかった。

遠からず将来、私の体もバラバラの素粒子へと分解されるだろう。

その時私は科学に出会えるだろうか。

痛みは感じるのだろうか。

これから宇宙はどうなるのか。

わからないことだらけだ。

今わかっているのは、私は、もうすぐ蒸発するだろうということだ。

体の機能もマヒが起こりだしている。

そろしろ機能不全が起きるだろう。

その時、私は何をしているだろうか。


「ニノマエさん…お父さん…」

私は最期に確実にそうつぶやいていた。

願わくば、再び生命が溢れる宇宙になりますようn

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