記憶
「じゃあ、コリンはわたしの兄の友達なのね」
アンジェラとコリンは歩きながら思い出話をしていた。
「そう。クリスは良い奴だ」
その姿はまるで、友達同士の学校帰りのようだ。
アンジェラは幸せに満ちた声で話す。
「へえ…。早くここを出て兄さんに会いたい」
ほんのわずかでは有るが、自分の記憶が戻っているような気がする。それに先程まで一人で居た所為か、人数が増えた事によりほんのわずか気楽だ。しかしそんな楽天的思考はコリンの一言によって打ちのめされた。
「それは無理だと思う」
その言葉と同時に歩きが止まる。その顔から笑顔は消え、かわりに悲痛な表情を浮かべていた。
「アンジェラが記憶喪失だと分った時点でおまえには言わないといけないと思っていた。」
アンジェラは眉間にしわを寄せ意味が分からないというそぶりをする。その様子を見たコリンは深く息を吸い決意を固めた目でこちらを見た。
「なんで俺等がここにいるかってことだ」
アンジェラはその言葉を聞くと自身の身を堅くした。「――教えて…」
そこは気味が悪い程薄暗い小さな部屋。いやこの人数だから小さく見えるのかもしれない。ざっと30人以上はいるだろう。この部屋から3人ずつ連れてかれるのだ。
「アンジー、心配するな。きっと助かる」
クリスは妹のアンジェラの頭を優しく撫でる、とても優しい笑顔で。アンジェラも嬉しそうに笑っている。
周りを見ればあんなにいた人も今は俺達を入れて5人しかいない。
「クリス。もうそろそろじゃねえか?」
俺はクリスにしか聞こえない声で言った。できるだけアンジェラを不安にさせないようにするためだ。いくら二十歳を過ぎてるからといっても大学に通っている普通の少女なのだ。
「次だ。来い」
一人の研究員が俺達を連れ出す。連れ出された場所は多量のパソコンと試験管で埋まっている部屋。まるでコンピューター室と理科室が合体したようなところだ。俺達はさらに奥へと案内される。先程までは気づかなかったが何か嫌な匂いがする。この匂いは…。考える時間も与えずその答えは明白になった。牢獄のような場所にくさった死体が3体。違う場所には先程まで一緒にいた男女の死体もある。先程までの匂いは人間の腐った匂いだったようだ。胃液がこみ上げてくる。アンジェラに至っては目尻に涙をも溜めている。俺等はここで死ぬのか?そんなことあってたまるか。クリスは妹の顔をみて大丈夫だと言い聞かせている。やっぱクリス、お前はこんなときでも良い奴だ。ようやく案内していた男の足が止まった。
「ここだ」男は冷たく言い放った。
そこは映画等でよく見る化学実験室か地下の秘密部屋のような場所だった。周りに飛び散った血痕を覗いては。
俺達より前に呼び出された女が椅子に座っている。いや、縛られていると言った方が正しいだろう。白衣を着た男がその女に近づく。男の手には赤黒い液体の入った注射が握られていた。男は女の首に慣れた手つきで注射を刺すとゆっくりと後ろに下がった。それと同時に女の様子が変貌した。先程まで涙していた顔は苦痛で歪んでいた。叫び声がその部屋に響く。数秒後女はマリオネットのようにグッタリとして動かなくなった。それを見て先程の男は失敗だと叫ぶ。そして聞きたくもなかった言葉が耳に入る。
「次の実験台だ」
俺は今すぐここから逃げ出したいと思った。何をしてでも生き延びてここを出たいと。それがどんなに情けない事なのかわかっている。しかしその時ばかりは自分の事で精一杯だった。なのにクリスは…。
「俺が言ってくるよ」
「え?」俺の耳にクリスの声が響いた。
「だからアンジーと逃げてくれ」
クリスの瞳には俺みたいな恐怖の色は映っていなかった。それどころか希望に満ちていた。
アンジェラは大粒の涙を流し、狂ったように「嫌だ!」と何度も何度も繰り返している。
「わかった。お前も後から来いよ…」
先程の様子を見てクリスが追ってくる可能性はないだろう。だがそんな言葉しか浮かばなかった。俺はアンジェラの手を握った。
クリスは研究員によって椅子にくくり付けられる。俺の横でアンジェラが叫んでいるのがわかる。俺は逃げる為のチャンスをうかがう。研究員がクリスの首もとに注射を刺す時。いまだ!
俺はアンジェラを引っぱってダッシュで逃げる。ドアの向こうは誰も居なかったはず。あそこさえ突っ切れば外に出えるかもしれない。取っ手に手が届く。後少し…。
「ガシャン」ポンプ音が頭の横で鳴った。
「どこに行くきだ?」
男の冷たく低い声が俺の耳に届く。間に合わなかったようだ。すまない、クリス。俺はクリスの方に目をやった。クリスはさっきの女のようにもがき苦しんでいる。しかし何かが違った。クリスの体内から何かが突き抜けようとしている。アンジェラはその様子を見て気を失っていた。俺はどんどん変化していくクリスをただ見ている事しか出来なかった。その後俺は薬をかがせられアンジェラの横に倒れ込んだ。もうろうとする頭で最後に聞き取ったのは男2人の会話だった。
「成功だ」白衣の男が満足げに言う。
「こいつ等と残りの奴等はどうしますか?」
「そこら辺に舞いとけ」
「それで俺等はヘリでここに落とされたんだ」
アンジェラは悲痛に満ちた顔をしていた。無理もないだろう。自分の兄がそんな目にあったのだから。アンジェラはゆっくりと歩き出した。
「おい、アンジェラ。やっぱり話さなかった方が良かったか?」
アンジェラはコリンの方に向き直りゆっくりと言った。
「いいえ。全て話してくれた事に本当に感謝してるわ。ただ自分の無力さに情けなさ感じただけよ」
アンジェラは涙を拭うと先程の綺麗な笑顔で「行こう」とだけ言い再び歩き出した。彼女がどんな思いなのかはわからない。だが自分が想像出来ない程辛いのは容易にわかる。そしてそんな辛い思いをさせたのは自分だという事も。
「ガサッ」草のゆれる音がした。周りを見渡すとそこには黒ずくめの女がいた。銃を構えているのを見て俺はとっさに手を上げた。その様子に気づいたのかアンジェラが寄ってくる。女が口を開いた。「――誰だ。」
アンジェラは目の前にいる銃を構えた東洋系の女を見た。コリンは私の横で手を挙げている。私もそれに習って手を挙げた。この女さっきコリンが言ってた研究員の一人なのかもしれない。
「誰だ? 人の名前を聞く時は自分の名前から先に名のるものじゃない?」
アンジェラは嫌悪と軽蔑を込めて相手を睨んだ。
「ああ、こりゃとんだご無礼をした。S.W.A.T部隊だ。ここの生存者かな? 御同行をお願いする」ニッキーと名のる女は三白眼の瞳をギラギラと光らせていた。まるで野獣のようだ。
「御同行って…」コリンの質問にニッキーが答えた。
「今回のS.W.A.Tの任務は生存者を救出する事だ。つまりお前等みたいなのを救くいにきた。さあ、ついて来い」
「私達は貴方達を信じていいわけ?」
アンジェラの言葉にニッキーはニヤリと笑みをこぼした。
「信じようが信じなかろうがお前等の勝手だ。好きにすれば良い」
「まあ、そういうことだ。分ったか生存者さん?」
ニッキーの立っている後ろから何人かの男が現れた。男はニッキーに問いかけた。「見つけたようだな」
「やっと来たか。遅いんじゃないかい?」
「悪いな。文句はJDに言え」男は後ろにいるJDと言う男を指差す。
アンジェラはコリンに耳打ちをした。
「どう思うこの人達?」
コリンは少し考えた振りをした後私の方に向きなおり言った。「今はこの人達しか宛が無い。仕方ないけどついて行こう」
アンジェラは彼らを静かに見つめた。
『Living Dead』第二話です。
今回も楽しんで頂けたでしょうか?
たぶん皆さん、まだ話しが見えてないと思いますが
自分も見えていません ‖爆
いや、裏設定とかは全て決まってるんですがね……。
と、まあ 感想を残してってください。
気に入らない点がありましたら、ご指摘下さい。