7. 休息
「(つ、つかれた・・・)」
自室の寝台に倒れこみ、テミスリートは盛大な溜息を吐いた。
何とか無事に晩餐が終わり、その後も色々と差しさわりのない話をして、ようやくイオナの部屋を出られたのが先程のことだ。
もう、月が空の真上に来ていた。
「(お詫びは良いって言ってるのに・・・)」
チラリと寝台脇に積まれた荷物を見、再度溜息を漏らす。それらは謝礼代わりにと持たされた土産である。それだけでも過分であるのに、更には部屋まで送るとまで言われてしまい、必死で断って帰ってきたのだ。
流石に、部屋まで押しかけられるのは遠慮したかった。
「(悪い人じゃないんだけどね)」
得体の知れない部分はあるが、面倒見は良さそうだった。多少強引ではあるけれど、不快なほどではない。
しかし、人付き合いがあまり得意でない、インドア派のテミスリートには、イオナの押しの強さは少しキツイ。その上、弱みまで知られてしまっている。深く付き合うには精神的に辛いものがあった。
「(なるべく関わらないようにしよう)」
彼女は自分の部屋を知らないし、自分が外出しなければ会うこともない。ずっと部屋にいるのは不健康だが、また彼女に遭遇して精神をすり減らすよりはずっと気が楽だ。
「(最低でも、兄上が戻られるまで部屋から出ないぞ!)」
心の中で盛大な引きこもり宣言をすると、テミスリートはシーツの下に潜りこんだ。
いつもなら少し読書を楽しんでから床に就くのだが、今日はその元気はない。
「(力も使ったし、早く寝よう)」
自然から生まれた魔女は力を用いることに因る弊害はないが、テミスリートの場合、使用した力の度合いで身体への負担も異なる。使用したのが少しであれば、ちょっと眠くなる程度。そこから力の量が増えるごとに倦怠感や眩暈、熱といった症状が現れ、あまりにも多くの力を使えば死んでしまうこともある。しかし、多少の不調なら良く休息を取れば治るから、無理をしなければそこまで酷いことにはならない。
長年の病弱生活でそれは身に沁みて分かっているから、テミスリートはあまり無理をしないようにしていた。
「(・・・そういえば、今日は独り、か)」
天井をぼんやりと見上げ、テミスリートはふとそんなことを思った。
今日はエルディックの訪れはないのだ。久々の独りの夜に、テミスリートはホッと息をついた。
「(兄上がいらっしゃらなくて良かった・・・)」
この状態で、明け方に惚気に来られるととても辛い。もし惚気が無かったとしても、今日のことを話せば色々とややこしい事になると断言できる。過保護なほど自分を大事にしてくれている兄に、隠し事をするのは難しいから、この状態で来られれば隠していてもすぐにばれるだろう。旅行に出かけていたのは本当に幸いだった。
明け方に起きる必要もないし、起床時間にもこの部屋には誰も起こしに来ない。
今夜はゆっくりと寝られる。
「(兄上、ナディア様と仲良くされてると良いけど・・・)」
上手く自分の考えていることを伝えられないエルディックがナディアを困らせていないとは限らない。帰ってきた時に喧嘩していたりしないで欲しいと願い、テミスリートは瞼を閉じた。
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