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弟君の受難  作者: roon
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5. 追求

ここから、ほんのりガールズラブ要素が含まれます。

言葉だけでも無理! という方はお戻りくださいませ。

 目の前に、ふわりと湯気を立てる紅茶が置かれている。


「(どうして・・・こうなったのかな)」


 目の前で自分を凝視してくるイオナに居た堪れなくなり、テミスリートは身を竦ませた。

 現在、彼はイオナの部屋にお邪魔している。というか、中庭から強制連行されたが正しい。


「取って食ったりはしないから、安心していい」

「(・・・どうだか)」


 肉食獣さながらの、獲物を見るような目で見ている相手に、安心しろと言われても土台無理な話だ。

 しかし、帰りたくとも帰れない。

 部屋の中にいるということで、ローブもイオナに剥ぎ取られ、取り上げられてしまった。ローブ無しで自室まで帰るのは見られたときに困るし、たとえ置いて出て行こうとしても、イオナが逃がしてくれるとは思えない。

 心の内で溜息をついたテミスリートを、イオナは楽しそうに眺めた。


「本当に、そなたは面白いな」

「・・・・・・そうですか?」

「ああ。それだけ見目が良いなら、むしろ見せつける者の方が多いのに、そこまでして隠すのは珍しい」


 側室達は王に気に入られるために自らを磨く。美しいことは一種のステータスであるし、美しさが抜きん出ていれば、他の側室に対する牽制にもなる。だからこそ、側室の多くは化粧をし、凝った衣装で自らの美貌をアピールするのである。そういう意味では、テミスリートの行動は異常なものであるだろう。

 テミスリートはこほんと咳払いすると、紅茶を口に運んだ。その頬はほんのり赤く色づいている。その様子にイオナはニヤニヤと笑った。


「それに、さっきの光景も見ものだったぞ」

「?」

「そなたの歌声に合わせて花が咲くのだからな。あれは凄かった」


 思わず、テミスリートは紅茶を噴出しそうになった。

 唄を用いて植物に力を分け与えているのを見られていたらしい。力を与えると、植物であるなら芽吹き、花を開く。動物であれば、傷が癒え、生気が戻る。目をつぶって謡っていたため、自分には分からなかったが、あの場所はきっと季節に関わらず花開いていることだろう。


「(うわぁぁぁ・・・! どうしよう・・・!)」


 テミスリートの顔色が、赤から青へと変化していく。

 自分が魔女の力を使えることは、男であることと同様に彼のトップシークレットである。何とか誤魔化せないかと思考をフル回転させるが、良い案は浮かんでこない。


「まあ、名前といい、先程の光景といい、そなたに聞きたいことは山ほどある。交流も兼ねて聞かせては頂けないかな?」

「(目が笑ってませんよ!?)」


 逃げられそうにない。

 完全に獲物認定されたテミスリートは、大人しく白旗を上げた。




「なるほど、魔女ね」


 テミスリートが少しばかり虚言を交え、最低限の情報のみを伝えると、イオナはさして驚いた様子もなく、それを受け入れた。テミスリートは少し驚いた。


「・・・驚かないのですね」

「この目で見ているからな。それに、前王の正妃様は魔女であったし、それほど驚くことでもないだろう?」

「・・・・・・・・・(そう思うのは、貴方だけですよ)」


 思わず口から出かかった言葉を、テミスリートは紅茶と共に飲み込んだ。


「しかし、貴族の家に魔女が生まれるというのも、前代未聞だな」


 イオナの言葉に、テミスリートは苦笑を返した。

 テミスリートの家名の爵位は子爵で、れっきとした貴族である。これは、エルディックがテミスリートのために用意したものだ。彼が後宮入りせず家臣として下るのならば、公爵の家名が贈られるはずだったのだが、後宮に入るにはその爵位はいささか高位すぎる。高すぎる爵位は周囲にその存在を明らかにしてしまう。しかし、逆に低すぎると側室としては目立つ。一番爵位の低い男爵は貴族の中では一番多いが、男爵の家から側室が出ることはほとんどないためだ。そこで、男爵に次いで数が多く、側室を輩出している子爵の家名をエルディックはテミスリートに与えたのである。子爵であれば、あまり家名を知られていない貴族も存在するし、後宮で悪目立ちすることもない。その点で言えば、エルディックの判断は妥当なものであった。

 それはともかく、自分が王弟であることは秘密であるため、本当のことは言えない。テミスリートはばれないか冷や冷やした。

 しかし、イオナはそんなテミスリートの様子には気付かなかったようで、軽く息をついただけだった。


「まあ、よその家の事情など私には分からないし、興味もない。他の方はどうか知らないがな」


 ずいぶんとさっぱりした回答に、テミスリートは目を瞬かせた。

 噂話が好きな側室は多い。しかし、イオナはそれに当てはまらないようだ。根掘り葉掘り聞かれるよりはありがたいが、少し変わっているようにテミスリートは感じた。


「(そういえば、帯剣してたし・・・)」


 出会い頭に剣を突きつけられたことを思い出し、テミスリートは苦笑いを浮かべた。


「ん? どうかしたか?」

「・・・いえ。」

「言いたいことがあるなら、言うといい」

「・・・・・・お会いした時、どうして帯剣なさっていたのか気になったもので・・・」

 

 渋々口を開くテミスリートに、イオナはからりと笑んだ。


「ああ。ここに来る前は騎士として修行をしていたから、その癖でな」

「・・・伯爵家の方でいらっしゃるのに?」


 男性なら分かるが、貴族の女性、しかも伯爵家の女性が騎士となるなど滅多にない。目を丸くするテミスリートにイオナは苦笑を返した。


「私は三女だし、元々結婚する気は無かったからな」

「そう・・・なんですか?」

「ああ。男は好きになれない」

「・・・・・・」


 テミスリートは返答に窮した。自分が男であることを言う気はないが、そこまで断言されてしまうと気分的に凹む。そんなテミスリートの様子に気付かぬまま、イオナは話を続けた。


「今の王の後宮が3年前に始まって、私の家からも父の意向により一人側室に出すことになってな。嫌だと突っぱねたんだが、結婚していないのは私だけだったから否応なく送られてきたわけだ。幸い、王は正妃様に夢中であるし、一度もお渡りになられないから気楽だ。そういう意味では、王の他に男のいない後宮は居心地がいい。・・・可愛らしい女性も多いしな」

「・・・女性が、お好きなんですか?」


 不思議そうに尋ねたテミスリートは、イオナの獲物を見るような視線に固まった。

 

「ああ、むさ苦しい男よりはずっとな。綺麗な女性は見ているのも楽しいし、自分の手で愛でられたら本当に幸せだ」

「・・・あの、そろそろ夕食の時間ですし、お暇させて頂いても、」

「ここで食べていけばいい。先程剣を突きつけた詫びもできていないし、もてなしはさせてもらう」

「お詫びなんて・・・特に怪我があるわけでもないですから」

「そういう問題ではない。こちらの不始末に対して謝罪の一つもしないのは、家の沽券に関わる」

「ですが―――」

「夕食ぐらい、一緒に頂いても問題ないであろう? 魔女殿」

「(あう・・・!)」


 完全に周囲を囲まれている。

 テミスリートは蒼褪めた顔のまま、了承の意を返すしかなかった。

 


 

読んでくださり、ありがとうございます。

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