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弟君の受難  作者: roon
24/30

24. 採寸

 今回はかなりほんのりガールズラブ要素が入ります。

 少しの連想表現でも無理! な方はブラウザのバックでお戻りください。

 また、R15(?)表現が含まれるかもしれません。

 15歳未満の方はご注意ください。

 何とか採寸が終わり、普段着の動きやすそうな服に着替えたイオナに、テミスリートはほっと溜息をついた。


「(やっと終わった・・・)」


 先程、やっとの思いでイオナに気恥ずかしいと伝えて、採寸の様子が見えない位置に座らせてもらっていたのだが、いかんせん、背後から聞こえてくる衣擦れの音や衣装係とイオナの会話が、後ろめたさや恥ずかしさと共に居たたまれなさを呼び起こすため、気の休まる時がなかったのである。


「待たせたな」

「いえ・・・」


 上機嫌でこちらに向かってくるイオナに、テミスリートは安堵の笑みを向けた。

 しかし、本当に大変なのはこれからである。


「そなたも早く準備した方がいい。私よりも時間がかかるだろうし」

「え?」


 きょとんとした顔を向けてくるテミスリートにイオナは苦笑した。


「採寸に来たのだろう」

「(そ、そうでした・・・)」


 テミスリートは笑みを引きつらせた。

 完全に失念していた。


「(採寸か・・・)」


 王族としては珍しいことに、テミスリートには細かい採寸の経験がない。病弱を理由に引きこもっていたし、皇太子であるエルディックとは異なり、成人するまでは必ずしも人前に姿を現す必要がなかったため、そのまま今まで来てしまったのだ。

 男性のものですら未経験で詳しくない上に、今日の採寸は女性としてのものであるから、かなり手間取るだろう。

 一転して表情を曇らせるテミスリートの肩をイオナは軽く叩いた。


「心配せずとも、皆良くしてくれる」

「(それは、心配してないんだけど・・・)」


 気になっているのはそこではない。

 テミスリートはちらりとイオナが採寸を行っていた方に視線を向けた。こちらの様子を微笑ましく眺めていたらしい女性達と目が合う。慌てて視線を戻すと、背後の空気が揺らいだ。

 笑われている。


「(うぅ・・・)」


 馬鹿にされているわけではないと理解していても、居たたまれない。

 覚悟が決まらず、テミスリートはその場で俯き、固まった。

 と、突然イオナに身体の向きを変えられ、テミスリートは驚いた。背中に強めの衝撃が走る。


「わぁっ」

「さ、行っておいで」


 あまりにも強い力で押され、テミスリートはよろめいた。ふらふらと2、3歩足を踏み出す。それを待ちわびていたかのように、テミスリートはあっという間に仕立て屋の女性達に囲まれた。


「さ、こちらをお召しになってください」

「え、あ、あの」

「少し大きいかもしれませんが、我慢なさってくださいね」

「ちょっと待っ」

「ま、お顔が真っ赤ですわ。可愛らしいこと」


 楽しそうに声をかけられ引きずられつつ、3人の女性から半ば強引に服を脱がされそうになり、テミスリートは半泣きでイオナを見やった。

 その途端、清清しい程の笑みを向けられる。


「今後のためにも、しっかり測ってもらうといい」

「(鬼ー!)」


 もみくちゃにされているテミスリートの様子を遠くから眺めていたイーノは、思わず身震いした。


『(女って・・・こえぇ)』


 女性というものは皆、どちらかというと大人しく、魔物である自分だけでなく人間の男にも怯える生き物だったとイーノは記録している。

 しかし、目の前の様子とその周囲で展開している思考を見ると、その認識は間違いだったらしい。


『(・・・近づかないようにするか)』


 自分もあんな目にあってはたまらないと、イーノは更に部屋の端へ退避した。




 あっという間に準備は終わり、テミスリートはイオナが着ていたような薄い下着一枚の姿で、涙目のまま採寸を受けていた。


「(うぅ・・・すうすうする・・・!)」


 普段からあまり締めつけのない服を着ているため、そこまで着るのに困らなかったが、生地が薄い分身体に纏わりついて気持ち悪い上、少しの動きでも身体を擦っていく感触に鳥肌が立つ。

 女性に変化した自分の身体が透けて見えるのも、精神的に辛い。

 きつく目を瞑り、早く終われと心の中で祈祷のように繰り返しているテミスリートを、イオナは少し罪悪感に苛まれながら眺めた。


「(いきなりは厳しかったかもな・・・)」


 顔だけでなく、身体もほんのり色づいているテミスリートの様子は何とも可愛らしいのだが、それと同時に本気で嫌がっている様子も見て取れ、流石に悪いことをした気分になる。


「(・・・だが、淑女として必要なことだ。テミス殿、耐えてくれ)」


 採寸が出来なければ着飾る事もできないし、公の場に出る事もできない。側室が公の場に出る機会はほとんどないが、正妃が催す茶会などは参加が義務付けられているので、ナディアが正妃となった今後は確実に礼服が必要となる。だからこそ、イオナは強制的にテミスリートを連れ出したのだ。もちろん、着飾った姿が見たいという希望も大きいが。 


「(しかし、テミス殿、細いな)」


 普段の様子から大体は想像していたが、テミスリートは全体的に小さい。肩幅も狭いし、腰も細い。騎士として動くのに胸や尻が邪魔に感じる時があるイオナとしては少し羨ましい。


「(体が丈夫なら、騎士に向いていただろうに)」


 女性は男性より体格で劣るため、面と向かってやりあうのは少し不利だ。イオナの体格と技量なら、男性に混じって動けるため、あまり気にならないが、やはり力では劣る。その点で言えば、すばやい動きで相手を翻弄し、急所を突くことが出来る小柄な女騎士の方が活躍の場は多いのだ。


「(・・・まあ、テミス殿はあのままの方が愛らしいがな)」


 活発な女性よりも、物腰の柔らかい、所作の美しい女性の方が見ていて好ましい。自分がそんなに女性らしくないから、余計に。

 イオナは口元に笑みをのせ、相変わらず目を閉じたままのテミスリートを、目の保養にとしっかり目に焼きつけたのだった。


 読んでくださり、ありがとうございます。

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