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弟君の受難  作者: roon
23/30

23. 女性

 Caution!

 今回はガールズラブ表現が入ります。

 女性同士のスキンシップが苦手な方はブラウザのバックで急いでお戻りください。

 また、女性化(微量)も含まれます。嫌悪感を抱かれる方はお戻りください。

 さらに、R15表現(!?)も含まれています!

 15歳未満の方、ご注意を。

 

「(はぁ・・・)」


 どんよりとした空気を纏い、イオナの部屋へ向かうテミスリートの肩に陣取ったまま、隼姿のイーノは楽しげに瞳を細めた。


『(いいねぇ・・・)』


 魔物のイーノにとって、自分の性別にこだわっているせいで、思いっきり意気消沈しているテミスリートの様子は見ていてとても面白い。


『別に、女になっても見た目変わんねーから、いいじゃん』


 わざと軽口をたたくと、フードの下から涙目で思いっきり睨まれる。


「・・・・・・悪かったね、女顔で」

『悪いのか? 似合うんならいいじゃねーか』

「そういう問題じゃ、ないの」

『(おもしれー)』


 更に不機嫌になったテミスリートに、自然と目元が弛む。

 先程、テミスリートは自分の姿を女性へと変えた。

 そのまま行って、見られてしまえば大事であるし、人がいる前で姿を変えるわけにはいかない。であるからこそ、イオナに戻ってもらったのだ。

 その時、女性に変化したテミスリートを目の当たりにして、イーノははっきりとのたまったのである。

 別に、どこも変わってねーじゃん、と。

 その時のテミスリートの落ち込み様といったら凄かった。イーノが思わず呆気にとられたほどだ。本人からすれば、いつもならないものがある違和感や、いつもあるものがないというような喪失感に襲われるらしいのだが、いかんせんイーノには理解できない。半泣きでしばらく抗議されたが、余計に分からなくなった。

 しかし、その様子はとてもイーノのツボに入った。大分落ち着いた今でも、その時のことを思い出すと吹き出しそうになる。


『(人間って変わってんな)』


 テミスリートに限らず、人間は性別ひとつでこれほど感情が動くのかと思うと、興味深い。

 イオナの部屋の前へ着くと、テミスリートは躊躇いがちに扉を叩いた。そのまましばらく待っていると、小さく扉が開き、侍女が顔を覗かせる。侍女は不審そうにフードを被ったテミスリートを見た。


「・・・何か?」

「突然の訪問、失礼致します。テミスリート・オルビスと申します。サリヴァント伯爵嬢にご招待を頂いたのですが・・・」


 口上を述べながら側室の証である腕輪を見せると、侍女はテミスリートを部屋の中へ招き入れる。テミスリートもその後へ続いた。


「おお、テミス殿。早かったな」


 イオナに声をかけられ、フードの下から声の方に視線を向ける。

 と、視界に入った光景にテミスリートは思わず回れ右をした。


「(無理無理無理無理!)」


 一糸纏わぬとは言わないが、生地の薄い下着を一枚着ただけの格好で採寸を受けているイオナを直視することは、倫理的にも感情的にも耐えられなかった。

 少し小麦色の肌は、白い下着からはっきりと透けている。身体の線も隠れていないし、あまり直視してはいけないところまでくっきりだ。

 さすがに、女性とお付き合い一つしたことの無い純情少年には刺激が強い。


「ん? どうした?」


 テミスリートの様子に、イオナは軽く首を傾げた。侍女も不思議そうな顔をする。


「い、いえ・・・」


 まさか、女性の身体を直視できないとは言えず、テミスリートは口ごもった。


『(おーおー、可愛いねぇ)』


 イーノは目を細め、テミスリートの顔をちらりと覗き込んだ。フードのせいではっきりとは分からないが、リンゴ並みに紅い。

 いたたまれない感情と相まって、思わず顔が綻んでしまう。更にイーノは笑みを深くした。


「そんなところで立っていないで、こちらに来ればいいだろう」

「(冗談きついです!)」


 行けるわけが無い。

 どうにもできず、部屋の入口で背を向けて立ち尽くしているテミスリートを、イオナは訝しそうに眺めた。


「(何か、困るものでもあるのか?)」


 周囲を軽く見回すが、特に変なものは置かれていない。テミスリートに視線を戻すと、部屋を退出したそうにそわそわしている。


「(・・・もしかして、気後れしたのだろうか)」


 流石に採寸くらいはしたことがあるはずだが、普段着であれば、そこまで細かい寸法を図る必要は無い。特に、テミスリートが普段から着ている法衣は男女共用であるので、正確な寸法は分からずとも着られる。

 細かい採寸は初めてかもしれない。

 元より乗り気でなかったテミスリートのことだ。自分の採寸の様子を見ているうちに気が萎えてしまう可能性はかなり高い。


「(いかんぞ、それは!)」


 無理矢理呼び寄せた自覚のあるイオナが、その可能性を思いつくのは難しいことではなかった。


「テミス殿!」

「は、はいっ」


 突然のイオナの大声に、テミスリートはびくっと身をすくませた。恐る恐る振り向くと同時に、イーノの乗っていないほうの肩をしっかりと掴まれる。


『うお!』


 その勢いに驚き、イーノは一声鳴くと、テミスリートの肩から飛び降りた。

 そのままイオナはテミスリートを自分の方に向かせると、その二の腕を掴んだ。


「そなたはこのような経験は少ないかもしれんが、そんなに気にしなくて大丈夫だ。すぐ慣れる」

「(ちょ、ちょっと・・・!)」


 フードを被っているため、イオナの顔は見えないが、落ち着かせようとしてくれているのは分かる。

 が、テミスリートからすれば丁度目線にイオナの胸が来る身長差であるため、むしろ目の前に立たれると目のやり場に困る。


「そ、そうではなく」

「皆良くしてくれるから、そなたは何もせずとも良い。すぐに終わる」

「(寄らないで下さい!)」


 直接言えない所がもどかしい。

 困りきったテミスリートの様子に、イオナはテミスリートのフードを上げた。

 一瞬、イオナの思考が停止した。


「(か、可愛い・・・!)」


 真っ赤になって俯き、身を震わせているテミスリートの様子が視界に映る。その初々しさに庇護欲を刺激され、イオナは思わずテミスリートを抱きしめた。


「! イオナ様!?」


 テミスリートは目を白黒させた。柔らかいものが直に顔に触れ、頭が真っ白になる。

 完全に固まっているテミスリートの頭をよしよしと撫でるイオナを、微笑ましそうに侍女たちは眺めている。


『(あいつ、大変だな)』


 離れたところに止まって、その様子を笑いを押し殺しつつ見ていたイーノは、人事のように呟いた。




 読んでくださり、ありがとうございます。

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