16. 拾い物
今回はほんのりボーイスラブ要素を含みます。
言葉だけでも却下という方はブラウザのバックでお戻りください。
また、R15(?)表現と流血描写(!?)が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
「・・・・・・」
「・・・・・・どうぞ?」
目の前の菓子と茶器をしげしげと眺めている魔物に、テミスリートは首を傾げた。
「(お腹空いてたんじゃないのかな?)」
笑い終えた後、素直に席に着いたためそう思ったのだが、一向に手をつける様子はない。テミスリートは自分のカップを手に取ると、軽く中身を口に入れた。チクチクと魔物の視線が突き刺さる。
「・・・・・・・・・何か?」
居たたまれなくなり、躊躇いがちに声をかけるが、魔物はじぃっとこちらを凝視するだけで何も言おうとはしない。
「(気まずい・・・・・・)」
真剣な視線が痛い。テミスリートはカップを持ったまま固まった。
「・・・・・・・・・」
魔物はテミスリートの方を注視していたが、しばらくして視線を外すと、自らの目の前に置かれたカップを慣れない仕草で掴み、口へと運ぶ。そのまま中身を口に流し込み、顔を歪ませた。
「何だこれ? 不味い」
しかめ面のまま、カップをまじまじと見つめる魔物に、テミスリートは目を瞬かせた。
「(・・・ひょっとして、お茶飲んだこと無いのかな?)」
「ねぇよ。魔物に茶を出す人間なぞいないからな」
「・・・思考、読まないでください」
溜息をついてお茶を飲むテミスリートを、魔物は半眼で眺めた。
「(こんなモンをわざわざ飲むなんて、人間ってのは変わってんな)」
魔物にとって、口にするものの基準は美味いか不味いかだ。口にして不味ければもう口にすることはない。しかし、今まで見てきた人間は皆魔物にとって不味いものを何度も口にしていた。魔物には何故そんなことをするのか全く分からなかった。
「(・・・しかし、面白いねぇ)」
テミスリートを眺め、魔物は口元を笑ませた。
魔女にしては変わっていると思っていたが、まさか人間だとは思わなかった。道理で魔物に寛大なわけである。
「(魔女ほど瘴気に影響受けないもんねぇ)」
魔女の魔物に対する嫌悪感は本能から来るものだ。瘴気に弱い魔女にとって、瘴気の塊である魔物を嫌い、恐れるのは当然のこと。その上、自然の調和を保つという役割があるため、それを乱す魔物は退治対象でしかない。しかし、テミスリートは人間であるため、魔物に対する生理的な嫌悪感はほとんど無い。それに、魔女の知識について学んでいるため、普通の人間が抱く魔物に対する恐怖感も薄い。得体知れないものという認識が無いから、その姿形、行動、性格から判断してしまうのである。
「(ホント、いいモノ見つけたわ)」
魔物はくつりと笑った。
魔物にとって、世界はあまり楽しいものではなかった。瘴気から生まれたばかりの頃は、今のように知性も無く、ただ魔物同士で殺伐とした共食いを繰り返しているだけでよかった。しかし、知性を身に着けるとすぐに、知性の無い魔物を相手にしていることに飽き、人間や魔女を相手にするようになった。最近はそれにも少し飽いていたところだった。何せ、人間は彼の正体を知るや恐れ、排除しようとしたし、魔女にいたっては出会い頭に襲われるのが当たり前だったのだ。最初はそれも楽しかったが、ずっと続けば飽きてくる。その最中に出会った変わったモノに、興味を惹かれないほうが可笑しい。
「(嫌な予感・・・)」
笑顔で自分を眺めている魔物に少しばかり寒気を感じつつ、テミスリートは平静を装ってカップの中身を飲み干した。
「(バレバレだな)」
困惑と懼れ、警戒が入り交ざった思考が駄々漏れだ。しかし、教えてはやらない。余計なことをして思考が読めなくなるのは面白くないのだから。
魔物は心の中でニヤニヤと笑った。
「・・・食べないのですか?」
皿から菓子を一つ取り出しながら、テミスリートは魔物に尋ねた。
「ほんじゃ、貰おうかな」
その言葉に、テミスリートは魔物の皿に持っていた菓子を乗せようとする。その前に、魔物の口がそれをパクリと銜えた。
「(え・・・・!?)」
菓子を持った指ごと口に銜えられ、ぞわっと背筋に悪寒が走る。慌てて手を引くと、ピリッとした痛みが指先にはしった。
「・・・・・・っ」
「ご馳走さん」
ぺろりと唇についた血を舐め取られ、テミスリートは顔を真っ赤に染めた。指先に感じる痛みと、その上を伝う生温い雫に、頭が一瞬真っ白になる。
「(な、舐め、舐め・・・!)」
盆に乗せられた手ぬぐいで慌てて指を拭くテミスリートを、魔物はニヤニヤと眺めた。
「(あ~、楽し!)」
恥ずかしさや困惑、居たたまれなさがごちゃ混ぜになった感情がダイレクトに伝わってくる。
「(当分、楽しめそうだな)」
初めて食べた菓子も甘かったが、味見がてら頂いた血もとても甘く、純粋な力として魔物の身体を満たした。
これは思わぬ拾い物だ。
「(しばらく居座るとするか~)」
人間の一生は魔物にとってそれほど長くはない。死ぬまで居座っても大して問題はないだろうと、テミスリートが聞けば真っ青になりそうなことを考えつつ、魔物は満面の笑みを浮かべた。
読んでくださり、ありがとうございます。